第5話「初戦闘」
改めて周囲を確認する。
敵の数は壁に六、天井に六。合計十二体。対してこちらの数は俺を含めて三。数の不利は明らかだ。
「ならば、その戦力差を覆す! …………スナッチ!」
高らかに声を発すると同時に、漆黒の鎖が現れ、三体のホワイトスパイダーを捕らえた。
たちまち、『敵側』だった蜘蛛は俺達『味方側』と化す。
≪職業経験値を獲得しました。職業『モンスターマスター』のLVが4に上がりました≫
丁度良い。レベルアップで最大数増加。このままもう一体、蜘蛛をスナッチして更に戦力を奪うぜ!
これで敵の数は八、味方の数は七。数の優劣は無くなったと言えよう。
「戦闘の指揮とかわからんので、各自適当に敵を殲滅しろッ! 散らばれッ!」
指示を受けた魔物達が、突撃を始める。
味方パーティーの最大戦力であるアーサーは、壁を伝う蜘蛛に飛びかかる。ゾンビのタニグチ ヒカルも、壁にいる蜘蛛に噛み付き攻撃。ホワイトスパイダー計四体は、高い天井にぶら下がる蜘蛛を対象にして蜘蛛の糸を放ち出した。
仲間はそれぞれ自分の役割を認識して行動を行っている。ならば、俺も自分に出来ることをするまで。
「うぉおおおおっ! 俺はこれでも中学生の時に、同じクラスの永村くんと喧嘩してボコボコにやられたことがあるんダァーーーー‼︎」
俺は、書道室に置かれてある椅子を手に取り、壁側の敵蜘蛛目掛けてそれを投げ飛ばした。
コントロール抜群な俺の攻撃は見事命中。飛んできた椅子に衝突した蜘蛛は、驚き地面に落下。そのまま引っくり返しの状態となる。
敵が行動不能になり、絶好の攻撃チャンスが訪れた。これを逃す俺ではない。
「これが人類の英知じゃあ‼︎ 必殺、踵落とし‼︎」
一気に蜘蛛との距離を縮めた俺は、トドメとばかりに連打を浴びせていく。
とはいえ、カッコ良く言い放ったものの非戦闘民の俺にそんは大した技は使えない。要するに、踵で蜘蛛を何度も踏んづけているだけ。
まあ、体重が乗っているので、普通に人間が受けても大ダメージを受ける技なんだけどさ。
「ギ、ギチャァ…………」
何度も踏み付けを受け続ける蜘蛛は、次第に動きが鈍くなる。
そして蜘蛛が完全に動きを止めた直後、蜘蛛の体が弾けるように光の粒として砕け、そのまま散り散りになって空気に溶けていった。
ホワイトスパイダーLV1
HP0/80
ATK9
DEF6
経験値100
スキル
無し
蜘蛛が消える際、一瞬だけステータス画面が見えた。
『HP』の消失。
ゲームと同じように、HPが0になった者は死んでしまうという訳か。光の粒となって。
≪経験値を獲得しました。ニカイドウ ツバサのLVが3に上がりました≫
あ、今のでレベルアップしたみたい。
まあ、確認は後回しにしよう。今はとにかく現状の打破を…………。
「って、あー! タ、タニグチ ヒカルが蜘蛛の糸にぃ!」
「ゔおぉぉぉ…………」
タニグチ ヒカルは、大量の蜘蛛の糸を浴びさせられ、すっかり身動きが取れなくなってしまっていた。
一方、アーサーは二体の蜘蛛に対して善戦。天井で奮闘するホワイトスパイダー達も性能は同じなので勝るとも劣らない戦いを繰り広げていた。この調子なら、難なく敵を倒しきることが出来るだろう。
…………しかし、敵もそう甘くはなかったようだ。
突然、敵側の蜘蛛の一体が口を大きく開いた。
すると在ろう事か。その口から炎が噴き出し、味方側の蜘蛛を焼き付けたのだ。
焼かれた蜘蛛は、燃え盛るまま天井から地面に落ちる。しばらくジタバタと足掻いていたが、やがて光の粒となって消えた。
ホワイトスパイダーLV3
HP90/90
ATK11
DEF7
経験値132
スキル
火炎放射
「野郎。スキルか!」
書道室に十体以上蠢いているホワイトスパイダー。そのうちの一体がスキルを持っていたのだ。
スキル『火炎放射』。名前の通り、火炎を放って敵に攻撃することが出来るスキルなのだろう。
こいつは…………なかなかの強敵だぜ!
「まあ、『魔物使役』で一発なんだけどね」
「ギチャチャッ⁉︎」
味方を一体倒してくれたおかげで空きが出来た。
俺は、漆黒の鎖を呼び出し、蜘蛛をスナッチする。スキル持ちのホワイトスパイダーは、俺の味方になったのだ。
「火炎放射!」
「ギチャ!」
反撃とばかりにこちらも火炎を放つ。残りの蜘蛛達は、炎に巻かれて体は焼け焦げ、地面に落下し引っくり返る。
まだ息がある奴は、俺とアーサーで叩き潰していった。
名前:ニカイドウ ツバサLV4
種族:ヒト
HP115/115
ATK17
DEF9
経験値196
スキル
無し
職業
モンスターマスターLV4
仲間6/6
・アーサーLV11
・タニグチ ヒカルLV1
・ホワイトスパイダーLV3
・ホワイトスパイダーLV3
・ホワイトスパイダーLV1
・ホワイトスパイダーLV1
職業スキル
魔物使役、魔物合成、魔物鑑定
全ての蜘蛛を倒し切り、蜘蛛の糸に絡まっているタニグチ ヒカルを救出して、俺は死闘を乗り越えたことに安堵の溜息を吐いた。
「ふう。…………初めての戦闘、お疲れ様みんな。お前達のおかげで勝つことが出来たよ」
アーサー達は、俺の労いに各々反応を示した。アーサーは元気に飛び跳ね、蜘蛛達は鳴き声を上げ、タニグチ ヒカルはどこか疲れた表情を見せている。
俺も、多少体を動かしたので少し疲れた。
でも、殴り合いの戦いなど喧嘩くらいしかしたことがなかったのに、実際殺り合ってみると想像してたよりなんてことはなかったな。緊張もしなかったし、殺すにも抵抗がない。まあ、相手が蜘蛛だからというのもあるが。
…………『人間』が相手でも、問題なく殺せそうだ。まあ、その時がきたらの話だけど。
「さあ、合成の時間だ。スキル持ちのホワイトスパイダーを『ベース』に、残りの三体は素材にして強化を行うぜ!」
瞬間、三体の蜘蛛が光の粒子となり、残った同志の中に吸い込まれていく。
ホワイトスパイダーLV7
HP115/115
ATK16
DEF10
経験値472
スキル
火炎放射
うん。
我らのパーティーもなかなか強くなってきたな。
『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』
下にスクロールすると、本作に評価をつける項目が出てきます。
お手数おかけしますが、更新の励みになりますので、ご存知なかった方は是非評価の方よろしくお願いします!




