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第27話「束の間の休息……成らず」

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 轟音。

 あまりにも突然に、俺の真上から大きな崩壊音が聞こえてきたのだ。校舎全体を揺らすその音は、猪八戒を仲間にして気分上々だった俺の心を大きく動揺させた。


「な、なんだなんだっ!?」


 あまりの衝撃に、俺は立っていられなくなりその場にしゃがみ込む。

 何かを殴る音とか、ガラスが割れた音とか、そんなチャチな物じゃなかった。もっと巨大な何かが破壊されたような音だ。

 ……そうだ。心当たりが一つある。

 屋上では、リリーと羽の少女。あの二人が戦いが繰り広げていた。戦闘力で言えば、現段階では間違いなく最強格である彼女らの攻防。……場合によっては、とてつもない事が起こる可能性がありそうだ。それこそ、校舎そのものを壊してしまうような威力の技が繰り出されたり。


「ヤッベ、どうしよう。ここから離れた方が良いかな?」


 色々気になることはある。リリーと羽の少女の動向。屋上に待機させていたコトノハさんのこと。

 しかし、大事なのは自分の命だ。

『好奇心は猫を殺す』というし、危険に巻き込まれる前に安全圏に逃げるとしよう。


「よし、みんな逃げるぞ! 取り敢えず校舎を離れて、部室棟の方に向かおう!」


 校庭と体育館の間くらいに、運動部が利用する部室棟がある。一時、そこを拠点にしようと考えた。あそこなら校舎から距離があるし、それなりにスペースがある。仲間の監視があれば、安全に隠れ潜むことが出来るはずだ。

 俺達は、一階から玄関を抜けて校舎を出た。

 校庭では、今も魔物と戦闘をしている生徒の姿があった。どうやら囲まれているようだ。

 彼らの周りには、人間の死体がいくつか転がっていた。ゾンビにはなっていない。動き出すまでに、少し時間がかかるのかな?


「あーあー。まさに死屍累々って感じだな」


 とはいえ、俺には関係のないことだ。無視して先へ進もう。

 俺は、出来るだけ注目されないように注意しながら部室棟を目指した。


 *****


 部室棟は、二階建てのそれなりに年季の入った建物だ。今の校舎が新しく建造される前から利用されているらしい。その上、清掃もあまりされていないようで埃っぽく所々汚れている。はっきり言って、良い環境とは言えないが贅沢は出来ない。

 部室棟の部屋は、それぞれ鍵がかかっている。俺は、仲間に扉を破壊するよう指示を出すと、オークの猪八戒が扉を数発殴り、扉がひしゃげて中へ入れるようにしてくれた。


「やっぱりパワー系が一人いてくれると役に立つなぁ。……さて、しばらくは校舎に戻れないし、ほとぼりが覚めるまでここで休憩しよう」


 思えば、ずっと動きっぱなしだ。

 現時刻は、十七時頃。全身に疲れが溜まっているのを感じる。

 この部屋は、どうやら運動部が使用する道具をしまっておくための『倉庫』らしく、色々なものが置かれていた。俺は、積み重ねられていた汚いマットを引っ張り出すと、それを床に敷いてその上で横になった。


「みんなも疲れただろう? 一緒にくつろごうぜ」

「ブルヒィィ……」

「あ、猪八戒。お前、体が大き過ぎて中に入れないのか? 仕方ないな、外で待機していてくれ」


 大型の魔物専用スペースを用意してやらないとなぁ。茶道部のスペースでは、やや窮屈になる。

 まあ、それを考えるのは後にしよう。俺はゲームをするぜ。 

『スナッチモンスター』が楽しみ過ぎて仕方ないんだよー。たとえ世界が滅びようとも、これだけは放置出来ない。

 俺は、早速ゲームを起動しようと電源ボタンを押す。


「……くっ! コンセントどこだ!?」


 俺は、右上端に表示されている充電残量を表すパーセンテージが残り少ないことに気付き、慌てて倉庫内を見渡す。

 しかし倉庫の中は道具が多く、部屋の壁側を埋め尽くしていた。これでは、どこにコンセントがあるのか分からない。


「全員! 邪魔な道具を撤去するぞ! 力仕事だ!」


 こうして俺達は、倉庫の整理をすることになった。休む暇がないな。

 だけど、俺にはこんな時に役立つ素晴らしい能力がある。スキル『魔物使役』を使えば、今の俺なら大量の魔物を働かせられるのだ!

 部室棟を離れて、急ぎ校庭へと戻る。

 狙い通り、校庭で生徒達を襲っていた魔物がまだ残っていた。奴らの姿を捉えると、俺は漆黒の鎖を呼び出す。


「スナッチ!」


 俺がいる場所から、奴らがいる場所までざっと百メートルはあろうか。しかし、スキルは問題なく発動した。魔物の周囲に漆黒の鎖が現れ、瞬く間に魔物の体をがんじがらめにする。


「よーし。最大数まで仲間を増やすぞー! 仲間になった奴は俺の元へ集まれー!」


 スナッチ! スナッチ! スナッチ!

 ふはは! 人的資源大量確保だ! 笑いが止まらないぜ!


「な、何だ? 急に怪物達が離れて……」

「お、おいみんな! 怪物がいなくなっていく! 急いで逃げるぞ!」


 俺がスナッチして仲間にした事で、戦闘中だった魔物達は手を止めて俺の元へ移動を開始する。それにより、魔物に襲われていた生徒や教師達がこの隙に校門から逃げていくのが見えた。

 まあそんなことはどうでも良い。今はゲームだゲーム!

 難なく人手を確保した俺は、仲間に指示を出し大掃除をさせる。これだけの数が揃えば、重い荷物でも楽に動かせるぞ。

 三角コーン、ボール入れ、ハードル、椅子、ネット、白線引くやつ、古びた棚、よく分からんデカい板。

 目についた邪魔なものはどんどん外へと運んで行く。

 やはり数は力。物ばかりが溢れて殆ど片付けがされていなかった倉庫内が、たった十分で物がスッキリ無くなった!


「おっ。コンセントあった」


 お目当てのコンセントを見つけて、早速アダプターを差し込む。

 これで、バッテリー残量の悩みは解決された。これで、気兼ねなくゲームを楽しめるぞ。


「ギャギャー!」

「ん。どうした?」


 ようやく『スナモン』が出来ると思った矢先。俺の元へ一匹のゴブリンがやってきた。アーサーだ。

 アーサーは、俺に呼びかけるように鳴き声を上げて、ふと一方へと指を差した。

 俺がその指差した方へ振り向いてみると、そこには大きな段ボールが一つ。ポツンと置かれていた。


「……あれが、どうかしたのか?」

「ギャー!」


 アーサーは、尚も俺に何かを訴えようとしている。とはいえ、俺に魔物の言葉は理解出来ないが。

 しかし、何やら重要そうな内容を教えようとしているのではないかと考えた俺は、アーサーが指を差している段ボールの様子を探ることにした。

 改めて段ボールの前に近づくと、それはかなりのサイズであることがわかった。みかん箱より、りんご箱より大きい。丸まった人間が二、三人は入れるような箱だ。

 俺は、箱の中身が気になり、蓋を開けようと手を伸ばす。

 その瞬間。

 俺の手に、まるで電気が走ったような衝撃が起こった。


「な、なんだ!?」


 手を引っ込める俺。驚き、慌てて二、三歩後ろに下がる。

 と、改めて様子を探って気づいたことがあった。段ボールのすぐ近くに、白く丸い物が落ちてあることに。


「……アーサー。拾ってきてくれないか?」


 俺は、近づくのが怖くなりアーサーに指示を出す。

 するとアーサーは、特に問題なく、その白いナニカを拾ってきてくれた。手渡された物が何かと見てみると、どうやらそれは囲碁で使われる『白の碁石』であることがわかった。


「碁石? ……なんでこんな物がここに」

「ヴァウヴァウ!」

「今度は、ラムレイか。何なんだよ一体」


 アーサーのみならず、ラムレイまでもが目の前の段ボールに興味を見せ出した。そして、他の魔物たちもそれに続くようにして集まり、段ボールを囲んでいく。

 ここまで来ると、流石に無視は出来ない。あの箱には、間違いなく『何か』があるんだ。


「最初に箱を開けたい奴はいるか?」

「「「……………………」」」

「わかった、俺が開けよう」


 もしかしたら危険な物が入っているかもしれない。しかし、俺はプレゼント箱の蓋を開けるのにワクワクする性格の漢。『好奇心猫を殺す』などという、根性無しなことわざは聞き入れないのさ。

 俺は、段ボールのすぐそばまで歩み寄る。少し警戒していたが、先程の電撃のような衝撃はやってこなかった。

 俺は、箱に手を当てて、意を決してその閉じた蓋を開く。

 …………パカッ。



「ふふ〜ん♪ ありさ好き好き大好き〜♪ チューしようチュー♪」

「ああっ、もう! そんなに引っ付かないでよ、暑っ苦しいんだから……」



 …………パタン。


「……………………」

「ギャギャー?」


 一瞬で蓋を閉じて沈黙する俺を見て、アーサーは不思議そうな目を向けていた。

 しかし、今の俺に、アーサーの疑問を答えてやる余裕はない。それほどまでの、箱の中身が意味不明であり、衝撃的だった。さっきの電撃など比較にならないくらいに。


「アーサーよ。気になるなら、お前も箱を開いてみると良い。但し、何があっても責任は取らないぞ」

「……ギュゥ」


 アーサーは、一瞬顔をしかめたが、それでも箱の中が気になったようだ。仲間達と協力して、その小さい体でも高く立てる台を用意する。

 そして、アーサーはさっきの俺と同じように箱の前に立ち、『パカッ』と蓋を開いた。

 刹那。瞬きするよりも短い時間が訪れる。


「ギャァアアアアアアアア!!」


 断末魔が部屋中を駆け巡った。俺は、目を丸くする。

 箱の蓋を開いたアーサー。その全身に、無数の刀傷が刻まれたのだ。

 斬り裂かれた箇所から鮮血の代わりに光の粒子が飛び散り、アーサーは悲鳴を上げながら台の上から落下。転げ落ちる。

 そして、直後だった。

 人間がすっぽり入る大きな段ボールが、爆ぜた。いや、段ボールが強烈な斬撃によってバラバラになったというべきか。

 段ボールの中からは、二人の少女が現れた。

 一人は、黒髪を下ろした少女。もう一人は、右手に刀のように大きな包丁を握った、派手な少女。

 少女達は、自分達を囲み魔物達を見渡し、そしてその中で唖然と立ち尽くしている俺の姿を捉え、凝視した。

『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』


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[一言] 誤字報告              . 好奇心猫を殺す  好奇心は猫を殺す これからも頑張ってください
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