第25話「危ないことはしない主義」
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「おやおや。これは、大変な場面に出会してしまったみたいだな」
俺は、目の前に広がる光景を眺めながらそんな風に呟いた。
拠点から逃げ出したリリーを追いかけるため屋上へと向かった俺とコトノハさんは、屋上前の扉から隠れ見るように屋上を覗いていた。
何故、そのようにコソコソと隠れているのかと言うと、その屋上で争い事が起きていたからだ。
争いを起こしているのは、俺達が追いかけていた白髪の少女リリー。
そしてもう一人は、背中に虫の羽のようなものを二枚生やした少女である。
(羽を生やした少女。……スメラギ先輩に教えてもらった首謀者の特徴と一致するな)
体育館で聞いた、校庭での騒動を起こしたという少女。その姿を俺は実際に見た訳ではなかったが、もしかするとあの少女こそが、今回の事件を起こした首謀者なのかもしれない。
俺がそう考えていた時、隣で俺と同じように屋上を覗いていたコトノハさんが不意に呟く。
「……私、あの羽の子知っている」
「えっ?」
「私が屋上にいた時、誰かが空に飛び去って行くのを見たの。多分、あの子だったと思う」
コトノハさんから、そんな重要な台詞が口に出されたのだ。
もし、そのことが事実ならば、あの羽の少女を倒せばこの騒動を終わらせることが出来るかもしれない。少なくとも、彼女は今回の事件を起こした関係者の一人であるには間違いなく、そこから重要な情報を得られる可能性がある。
この死者が増え続ける絶望的な状況に、終止符を打てるかもしれない。……あの逃げ惑う生徒教師らにとっては、それはまさに願ったり叶ったりの展開となるだろう。
(まあ、だからなんだって話だけどね)
俺は、あの羽の少女をどうこうするつもりは毛頭なかった。むしろ、関わり合いたくないまである。
だってそうだろう? 何が悲しくてあんな強そうな奴と相手しなければならないのか。
あの羽の少女、あのリリーと互角の戦いを繰り広げているのだ。リリーが放つ炎や蜘蛛の糸を宙を舞うようにして回避し、隙を見て反撃を繰り出している。それをリリーは受け止めながら、距離が縮まった瞬間に蜘蛛の糸を……あっ。羽の少女が寸前で身を翻して避けた。そこからリリーの下顎に拳を……いや、リリーが負けずと蹴りを放ち……いやいや今度は羽の少女が突進を……。
…………俺の動体視力では、彼女達の動きを目で追うことすら難しい。それだけ、あの二人のバトルはハイレベルなのだ。
わかるだろう? 俺みたいな一般人が、たかが数百人の命のために奴に挑むのがどれだけ無意味か。馬鹿らしくって鼻血が出るぜ。
「どうしよっか? 二人を止めに入る?」
「いや、今の状態で突入するのは危険だよ。しばらく様子を見た方が良い」
或いは、コトノハさんはリリーに懐かれているようだったので、リリーだけなら止められるかもしれないけれど、問題はもう一方の羽の少女。おそらく、彼女もモンスターなのだろうけど、果たして話が通じる相手かどうか……。
いずれにせよ、俺は屋上に行く気はないのだが……どうだろう。コトノハさんを二人の元へ向かわせても良いだろうか?
仮に、コトノハさんを向かわせた場合。
一番良い展開は、二人が争いをやめて、リリーは俺達のパーティーに戻り、羽の少女が情報を教えてくれる&仲間になってくれる。
一番悪い展開は、羽の少女がコトノハさんを敵と認定。コトノハさん殺される。リリーの手綱が切れる。リリー暴走。
(うーん。『魔物使役』が効かないリリーの制御が出来なくなるのは厳しい。そういう意味では、コトノハさんが居なくなるのは困るな。うん。やはり、コトノハさんも屋上に向かわせるべきではないな)
俺がそう考えていたその時だった。
どこからか、動物の鳴き声のようなものが聞こえてきた。それは、何となく聞き覚えがあり、どうやら魔物の鳴き声ではないかと思った。
よーく耳を立ててみると、声がするのは俺たちの床下。つまり下の階層からだった。
(……外で暴れていた魔物達が、この校舎に侵入してきたのか?)
これは、一仕事する必要が出てきたようだ。
リリーと羽の少女。二人の様子は気になるけれど、まずは手近な脅威を排除しようか。
「この鳴き声って……」
コトノハさんも、下の階層から聞こえる鳴き声に気付いたようだ。
「コトノハさん。俺は、下から来る魔物達を片付けてくる。君は。引き続き屋上を見張っていてほしい」
「……うん。頑張って」
コトノハさんから声援を貰い、俺は階段を降りていった。
二回まで降りて行くと、既にその階層は数十体の魔物が押し寄せてきていた。奴らは、俺の姿を見つけると、すぐさま突進を仕掛けてくる。
「スナッチ」
俺は、迫りくる魔物達を相手に、ただ一言呟いた。それが、俺のスキルを発動する合図。瞬間、空中から数十本の漆黒の鎖が現れ、目の前まで近づいていた数体の魔物へと放たれた。
そして、即座に拘束された魔物は、瞬く間に俺の『仲間』となる。
「攻めろ」
俺は、目の前の魔物達に指示を飛ばす。
すると、仲間となった魔物達はその場で勢い良く振り向くと、すぐ背後に立っていた別の魔物に攻撃を浴びせたのだ。
「グギャァッ!」
「ボォォゥ!?」
攻撃された魔物は、仲間の、いや仲間だったはずの魔物に突然の不意打ちに合いその場で仰け反ってしまう。
仰け反ったことで敵と俺達との間に境界が生まれた。
そして俺の前には、俺を守るのように数体の魔物が敵に構えてくれている。戦うのはこいつら。俺はただ、適当に鎖を放ってやれば良い。なんて楽なんだ。
俺は、適当に階段の段差に腰を預けて下を見やった。敵の魔物達が俺を眺めているのがよーくわかる。
「ふっふっ! やっぱりバトルするなら、『ハード』より『イージー』でしょ。さあ、楽勝難易度でのチート無双を楽しんで行こうか」
俺は、そう言って仲間達に指示を飛ばす。直後、魔物達が敵陣へと一気に向かっていった。
俺はただ、この場に座っていれば良い。
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