第214話「時差」
「翼くん。敵の攻撃かもしれない、注意して」
「敵?」
確かに、足元に魔法陣が光り輝いて、気づいたらこの森の中に居るし。シズカの言う通り、何者かの攻撃である可能性は十分にある。
しかし、周囲に俺ら以外の人影は見当たらない。やたらと動物の鳴き声が聞こえてくるくらいである。
「浮遊」
俺は、スキルの力で宙へと浮かぶ。そのまま高い木々を超えて空まで飛行した。
まずはここが何処なのかを知るのが先決だろう。上から見渡せば分かるはず。
すると。
「すげ〜」
俺は驚嘆する。
何ということだ。見渡す限りに深い緑色の森が広がっているじゃないか。とんでもない密林地帯だ。
……向こうには大きな川が流れているな。うねりまくった蛇のような形をしている。あんな長い川、日本では見たことがないぞ。
「ということは、もしかしてここって日本じゃない?」
俺はそう考えて地上へ着地する。
見ると、シズカが木々や草をまじまじと観察していた。
「……自生している植物から察するに、ここは日本じゃないね。多分、南アメリカのジャングルとか、その辺だと思う」
「そんなことが分かるの?」
「まあね。昔、暇潰しに植物の勉強をしたことがあるから」
「へー。ゲーム以外のことにも詳しんだ」
なるほど。だから、夜になっているんだな。日本では太陽が出ている時間でも、アメリカでは沈んでいるわけだ。
俺は、そんな感じで感心していると、草木をかき分けて何者かが現れる。
「ウキャアアアア!!」
それは猿だった。
猿は、叫び声をあげて俺達に飛びかかってきた。
【種族名】ヘルントヒヒ
[ランク]☆☆☆☆☆
[LV]30
[HP]5519/5519
[ATK]819
[DEF]372
[EXP]24021
《スキル》0種類
『魔物鑑定』は、彼奴が魔物である事を教えてくれた。
しかし、俺を守護している聖剣たちが迫り来る猿の胴体を両断すると、瞬く間にその体が光の粒子となり霧散する。
「……なんか、今日はよく襲撃されるな」
月明かりがあるとはいえ、辺りはとても暗い。闇夜のせいでここまで近づかれても気づけなかった。
「翼くん。他にもまだ潜んでいるみたいだよ」
「マジか。面倒臭いなぁ」
知らない間に知らない土地に飛ばされて、何で魔物に襲われないといけないんだか。
スナッチしてもいいが……暗くて魔物の姿が見えない。いちいち敵を視認して捕らえるのも疲れるので、適当に始末する事にしよう。
「全方位・ゴッドキャノン」
スキルを発動する。瞬間、俺の周囲に白色の光線がまさに四方八方へと放射。その光線の一発で、密林の木々を幾数とまとめて『蒸発』させる。
「ウギャギャギャアッ!?!?」
何処からか猿の悲鳴が聞こえてきた。おそらく、俺達を取り囲んでいたという魔物のものだろう。
ゴッドキャノンの砲撃は一度で終わらず、何十発と連射されていった。
結果、あれだけ生い茂っていた草木はすっかり消滅してしまい、辺りは剥き出しの大地となった。地形は完全に変わり果ててしまったが、かろうじて光線を僅かに逃れた木が黒焦げた残骸となっている。
まあ、それはそうと。
「魔物は……全滅したみたいだな。よし、討伐完了!」
「や、やり過ぎじゃない? 魔物が居たとはいえ、流石に環境破壊が過ぎるよ。翼くん」
「ああ、大丈夫。こんなのはすぐに直せるから」
俺は、スキル『リセット』を発動。一日三回、対象や空間を以前の状態に戻すことができる効果で、倒した魔物以外の全て……密林や地形の破壊痕を完全に直してみせた。
ものの数秒で、景色は元通りだ。
「ねっ?」
「……マジか、こいつ。チートキャラにも程があるでしょう」
シズカが、何処か呆れた表情で俺を見ている。
それを他所に、俺は元の場所への帰還を考える事にした。
「シズカ、俺達どうやって帰ろうか? プラン1、空飛んでババッ」
「いいね。抱っこして私も連れてって」
「いいよ」
俺が許可すると、シズカは俺の背中に飛び乗る。
……おっぱいが背中に当たるな。
すごく大きくて柔らかく温かな圧迫を感じる。服の上からはわかりにくかったけど、シズカはかなりの巨乳みたい。
しかし、下手に指摘するのはセクハラになる可能性がある。そう、考慮した俺は特に何も言わずにシズカをおぶることにした。
「で、空に浮かんだは良いものの……どっちが日本なんだ?」
「さっきの植物の生え具合や、星の位置から方角は何となくわかるから、私が案内するよ。微調整を繰り返していけば、多分皆の元まで帰れると思う」
「すげー。優秀だな、シズカ。二人で飛ばされて本当に良かった!」
おそらく、俺一人では帰り道がわからず右往左往していただろう。いつかは帰られたかもしれないが、夕食のバーベキューまでには間に合わなかったかもしれない。……そうなったら悲惨だ。
「でも、問題は距離かな。ここから日本までの距離は……推測16000km以上。仮に飛行機で移動しても丸一日はかかるよ」
「16000km、か。……問題無いよ」
「どれくらいで到着出来そう?」
「2、3秒くらいかな」
そう答えると、俺はスキルを発動する。
……これだけ加速するのは初めてだが。
「超越機関・十万廻転」
瞬間、俺の体は『音』すら鈍く感じる程の、異次元めいた速度を弾き出した。
『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』
下にスクロールすると、本作に評価をつける項目が出てきます。
お手数おかけしますが、更新の励みになりますので、ご存知なかった方は是非評価の方よろしくお願いします!




