第213話「絆の証」
浜辺で何らかのトラブルが起きたとの事で、コトノハさん達が解決に向けてこの場を離れた。
残ったのはこの俺、二階堂翼。そして、トウダイ……何とかさん。
トウダイさんは、俺の存在を気にしていない様子で、ただずっとゲームで遊んでいる。確か彼女は、遊戯部という組織に所属しているんだったか。
それにしても、すぐ近くに本物の海があるというのに、こんなところで電子の海を漂うとは。彼女のことはよく知らないが、相当なゲーム好きなのは間違いない。
こうなったら、負けてはいられない。取り敢えず持ってきていた携帯ゲーム機で、この俺も海とは全く関係ない遊びに乗じるとしよう。
そう思った俺は、『スナモン』を起動する。
最近、色々あってこのゲームをあまり遊べていない。現実では魔物を山ほど仲間にしたが、ゲームでは全然仲間を増やせていないのだ。
今日はキャラの入手と育成に励むとしよう。早速、近場のわき場へ赴くとしよう!
「……ねえ?」
そんな事を考えながらゲームをしていると、トウダイさんがいつの間にか俺の側まで近づいてきていた。彼女は前のめりになって俺がプレイしている携帯ゲームの画面を見つめる。
「……それ、『スナッチモンスター』の最新作だよね? 二階堂さんもプレイしているんだ」
「うん。昔から好きなんだ、このシリーズ。……もしかして、トウダイさんもやっているの?」
「当然。既にある程度のパーティーも完成させているよ」
「すげ〜」
「ふふんっ。これくらい、ゲーマーとして当たり前の嗜み。……ネットに繋がらないから、まだ一度も対人戦出来てないけどね」
「良いじゃん良いじゃん! じゃあ俺と対戦しよう! まだ全然育成できてないから弱いけどさ」
俺がそう言うと、先程まで影が刺していた彼女の表情がパッと明るくなる。
「よし、やろっか! キャラが弱くても大丈夫! 私、エンジョイ勢向けのパーティーを幾つも作っているからさ! 何なら、私が育てたスナモンも二階堂さんにあげる! 大丈夫、厳選した個体が幾らでもボックスにあるから!」
捲し立てるようにそう言いつつ、テキパキと対人戦に向けての事前作業を進めるトウダイさん。
強いスナモンを沢山くれた。それが、何だか無性に嬉しかった。
スナモンをくれた事そのものが嬉しいというより、こうやって誰かと対面してゲームをするのが実に楽しい。
誰かとゲームで遊ぶこと事態が、俺にとっては滅多にないことだった。
「では対戦、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
こうして、俺とトウダイさんの対人戦が始まった。
それから、しばしの時が流れる……。
で、対戦成績。
結果だけ言うならば……俺は惨敗だった。というか、全敗だった。
まあ、こうなるかもしれない事は理解していたよ。それにしても、ここまで何もさせてくれない程叩きのめされるとは。
どうやら、彼女の辞書に『手加減』という文字は無いらしい。
正直、負けるのは悔しかった。でも俺は、彼女とゲームをするのが楽しくて、その後も何度も対人戦に勤しんだ。
対人戦に飽きたら、今度は二人でフィールドを駆け回って遊んだ。トウダイさんから、レアなキャラが出現するスポットや、隠しイベントが見られる条件などを教えてもらいつつ、俺はシナリオを進めていった。
今はネットが繋がらないので、攻略サイトを閲覧できない。つまり、この攻略情報は全てトウダイさんが一人で発見したものだった。ここまでひたむきにゲームを攻略出来るなんて、尊敬してしまう。
「トウダイさんって凄いんだなー。俺、トウダイさんみたいな凄い人に初めて会ったよ」
「そうでしょうそうでしょう。私、凄いでしょう? もっと褒めても良いよ」
「よっ、宇宙一! 史上最強のゲーマー少女! トウダイさんは、天下一品!」
俺は、ひたすらトウダイさんを褒め称えた。
ずっとゲームをしたせいで頭の回転が鈍くなったというか、自分の語彙力が低下している事を自覚しつつも、とにかくノリと流れで彼女と会話をしている。
「うんうん! ……あ、でも、私のことは『寂香』って呼んで。苗字で呼ばれるの、好きじゃないんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、これからは『シズカ』って呼ぶね」
「呼び捨てか……。まあ、いいけど。そう言えば、貴方も高校生だよね? 学年は幾つ?」
「高校一年生」
「なら、私の方が先輩だ。だったら、遠慮はいらないか。今後は私も、貴方のことは『翼くん』って呼ぶね」
「いいよー」
下の名前で呼び合うなんて。何だか、とても仲良くなれた気がする。
まあ、さっきまで彼女の名前が『シズカ』だって事を忘れていたんだけど。
チュドォォォォン────。
そんな事を考えていると、遠くの方から爆発音が聞こえてきた。
「んっ。何だ?」
気になって音のした方へと意識を向ける。
そう言えば、浜辺でトラブルがあったんだったか。あれからしばらく時間が経ったけど、結局どうなったのだろうか?
ゲームも一段落したし、少し様子を覗いてみようと俺は席を立ち上がる。
すると。
「……ぐるるるるっ」
唸り声が聞こえてきた。
聞き覚えのある感じだ。これは……ゾンビの鳴き声。何度も聞いたことがあるから判断出来た。
直後、海の家の出入り口からゾンビが入ってくる。血色の悪い肌に、精気を感じられない表情、汚れた服装。
そのゾンビが、俺たちの存在を目視するや、飢えた獣のように襲い掛かってきた。
「ぐるわぁぁああああ!!」
「十二聖剣」
すかさず、俺はスキルを発動する。
煌びやかに輝く十二本の聖剣が空中に顕現。襲い来るゾンビを自動で斬り伏せた。
斬られたゾンビは、悲鳴も上げることなく、光の粒子となって散り散りになる。
「何だったんだ?」
「……なんか、外が騒がしいね」
シズカの言う通り、何だかゾンビの唸り声が複数聞こえてくる。
俺たちは、海の家から外へ出る。……そこには、百や二百では収まらない程の数え切れないゾンビ達が居て、俺達をとり囲んでいた。
しかも、俺達を見るや敵意剥き出しで向かってくるのだから驚きである。
「スナッチ」
漆黒の鎖を顕現。
瞬く間にゾンビ達を縛り上げて仲間にする。そう、何百体のゾンビだろうと、こうしてしまえば苦ではない。
「何でこんなに大量のゾンビが……。やれやれ、警備は何をやっているんだか」
俺は周囲のゾンビを眺めながら呟く。
しかし、言っていて気がついた。そもそも、この浜辺にはココナちゃんが居るからゾンビは寄ってこれないはず。
俺は、ふと浜辺全体を見渡した。すると、顔見知りの女子達が何かと戦っている様子が窺えた。
ココナちゃんは……あの中に居るな。ならば、このゾンビ達はどうしてここに?
いや、考えるのは後だ。向こうは大変な様子だし、助けてあげるとしよう。
瞬間。
「スキル『上位転移』!」
何処からかそのような声が響いた直後、俺とシズカが立っている足元に円形の紋様が浮かび上がった。
何処となく、ファンタジー作品で見かけるような魔法陣のようだ。
そう考えていると、その魔法陣は眩いばかりに光り輝いた。
*****
眩しいので、思わず目を閉じていた。
そして次に目を開いてみれば、そこは夜の世界だった。
「えっ?」
俺は思わず声を漏らす。
空を見上げると、月と星々の僅かな光のおかげで周囲が鬱蒼とした木々の群れが広がっていることがわかった。
「あれ?」
再び惚けた声を出し、一瞬、思考が止まる。
明らかにここは浜辺ではない。森の中だ。
「えっ、ここどこ?」
隣でシズカが言う。彼女も俺と同じく惚けた様子で森を見渡している。
……何の脈絡もなく画面の映像を切り替えられた気分だ。
一体何が何やら。
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