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第200話「漏れ出した本性②」

「なあ、ミズチカ。海に持っていく持ち物は用意してるか?」

「勿論です。ちょっと荷物が多くなってしまいましたけど、必要なものは全て準備しました」


 そう言ってミズチカは、大きなカバンを持ってきた。

 俺は、そんなミズチカの肩を抱く。


「超越機関」


 スキルを発動。

 スキル『超越機関』。払ったHPの分だけ速度を倍々に上昇させる能力。

 具体的に言うと、『倍速化した数値×1秒』分のHPが消費される。例えば、速度を10倍にした状態を10秒間継続すると『100』のHPが消費……といった具合だ。

 かなり強力な効果だが、並の『異能者(プレイヤー)』が使用するとあっという間に燃料切れを起こすハイリスクなスキルだ。使い方を誤れば自爆だってしかねない。

 ……とはいえ、俺くらいのステータスを持っていれば、そのリスクも殆ど意味をなさないが。



【名前】ニカイドウ ツバサ

【職業】モンスターマスター 【職業LV】100

【種族名】アラビト

 [ランク]★

 [LV]70

 [HP]52565000/52565000

 [ATK]34917360

 [DEF]29808000

 [EXP]34828901

 《スキル》504種類

 省略

 《職業スキル》20種類

 省略



 現在、俺のHPは『五千万』を上回る。

 ちょっとやそっとで死ぬことはまずない。思う存分、加速することが出来るという訳だ。


「一千廻転」


 俺は『一千倍』の速度となって空を浮遊する。

 ただ飛ぶだけでも新幹線くらいの速さで移動出来るのだが、このスキルを使用すれば、まさに『瞬く間』に目的地まで到着する。

 まるで瞬間移動をしたかのような超スピードで、俺は海水浴場の真上まで辿り着いた。

 そして俺に抱きかかれられ、一緒に移動してきたミズチカはギョッとしている。


「ぇっ? ここは……」


 ミズチカからは、視点が突然大空の上に切り替わったように見えたことだろう。

 無理もない。俺は、スキル『浮遊』の効果で通常でも時速300kmで空を飛べる。

 時速300kmの1000倍。つまり、『時速300000km』という速度で動いたのだ。

 これはつまり1秒間で80km以上移動出来ることを意味する。どれだけ優れた動体視力を持っていようと、知覚できる筈がない。


「ミズチカ。あれが見えるか?」


 俺は、真下を指さす。

 その先には海と浜辺、そして蟲のように蠢く人間や魔物が居た。


「ホテルから出発した車が、彼処に到着するまで約三十分。それまでに奴らを消し、散らかった跡地を片付けなければならない。わかるな?」

「は、はい」

「よし。俺は、最初に紳士的に彼奴らと話し合いを試みようと思う。それで引き下がってくれればいいけど……もし抵抗するようなら容赦はしない」


 さて、まずは話が出来る状況を作り出さないとな。

 そうだな。鎮圧が容易な魔物側から手をつけていくか。


「スナッチ」


 漆黒の鎖が出現する。

 鎖は、浜辺にいる大勢の魔物達を一斉に拘束し、あっという間に使役。無力化を成功させた。


「これで魔物の方は良し。問題は、人の方だ」


 俺とミズチカは、上空から下降を始め、スタッと白い砂の上に降り立った。

 浜辺にいた人々は、戦っていた魔物達が突然鎖に縛られ、おとなしくなったのを見て混乱しているだろう。

 しかし、彼らが冷静になるまで待つのは時間が勿体ないので、俺は気にせず皆に話しかける。


「親愛なる諸君! 君達が争う必要はたった今無くなった!」


 遠くにいる人まで聞こえるように大きな声を張り上げた。

 彼らからの反応は無い。まだ呆然としているようだ。

 構わない。このまま用件を言っていこう。


「俺は、君達が何の用でこの海に来たのか知らない! しかし! 俺はこの海で大事なようがあるんだ! ……だから、今すぐ帰ってくれないか? 可及的速やかに」


 すると、一人の青年が近づいてきた。

 大学生くらいだろうか?

 長身で清潔感のあるイケメン。それでいてキリッとした目をしている。

 何となく『エリート』っぽい雰囲気を醸し出す人物だ。


「初めまして。僕は、橋本(はしもと)(まなぶ)。一応、この討伐隊の代表ってことになっている」

「討伐隊?」

「ああ。実は僕達は、あるちょっとした目的があってここへ来たんだ」

「ふーん。……まあ、そんなのはどうでもいいのさ」


 この集団がここへ何をしにきたのか。

 それは重要じゃない。


「この海は、今日一日だけ俺が占有する。だから君達には立ち去ってもらいたいんだ」

「……もし、断ったら?」

「殺す」


 自分で言うのも何だが、俺は気まぐれだ。

 だが、その気まぐれは何を置いても優先される。

 俺が『やる』と言ったら、それは絶対に行われなければならない。

 例え、どれだけの犠牲を払おうともな。


「ここからは慎重に言葉を選べよ。今の俺は、自分でも自覚してるくらい気が短くなっている。返答を誤れば、最初に死ぬのはお前だ」

「…………」

「代表、と言ったな? じゃあお前がここにいる連中を誘導しろ。俺にこの場を明け渡すようにな」


 その時だった。

 目の前にいた青年とは別の人物が大股歩きでこちらへ近づき、俺の胸ぐらを掴んできたのだ。


「ふざんけんじゃねえっ! 勝手なことばっか言ってんじゃねえぞガキ!!」


 二十代後半くらいの男性だ。

 金髪で、派手な服装と派手なアクセサリー。

 早速手を出してくる辺り、素行はあまり宜しくないようだ。


「よすんだ巌さん!」

「ああっ!? 俺に指図すんなっ!! ぶっ殺すぞ!!」


 ハシモトと名乗った青年はチンピラ風の男を制止しようとするが、彼はそれを振り払う。


「おいガキッ! てめえ何モンだ!? あの魔物は何だ!? ここへ何しに来やがった!? 知ってること全部答えろっ!!」

「『ガキ』って俺のこと? ……そんな風に呼ばれるのは初めてだ。ははっ。なんか新鮮だな」


 ガスッ!!

 チンピラ風の男が俺の顔面を殴った。

 まあ痛くないけど。でも、あまりに直情的だったものだから驚いたよ。


「おいおい手が早いな。短気は損気。心の余裕が無いと幸せが逃げるぞ」

「舐めんのも! 大概に! しろっ!!」


 言いながら、男は俺の顔に何度も拳を叩きつけてきた。

 おー怖い。こんな危険人物がその辺に彷徨いているとは、おちおち外にも出られないな。

 ……ていうか、面倒くさっ。

 いい加減、相手にするのもダルくなってきたし、そろそろ終わらすか。

 俺は、男の手首を掴む。


「よっ」


 そして、その彼の腕を握り潰した。まるでトマトのようにグシャリと。

 赤い鮮血が噴き出し、滴り落ちる。


「えっ?」

「ゴッドキャノン」


 男が今起きた現象を認識する前に、俺は次の攻撃を実行する。




 スキル『ゴッドキャノン』。

 それは、全てを滅ぼす破壊の光だ。




 俺の掌を起点に蓄えられたエネルギーは、純白のオーラとなって結集し、放たれる。

 目の前にいた金髪の男は勿論、空間、大地、その奥にいた人達までもが光に飲まれ消滅した。


「むっ。威力が高過ぎたな」


 見せしめにと高火力の技を使ってみたのだが、どうやら失敗のようだ。

 こいつらを消すために浜辺が台無しになったら元も子もない。ミズチカの清掃スキルも、きっと万能ではないのだから。


「デコピンくらいの攻撃でとどめるか。ほいっ」


 そう言って俺は、近くにいた優男のおでこを弾く。

 それだけで彼の頭部は爆ぜた。


「う、うわぁぁああああっ!!」


 討伐隊の誰かが悲鳴を上げ、逃げ出した。

 自分達に起こったことをようやく理解したのだろう。彼に続くようにその場にいた大勢が走り去ろうとする。


「逃してもいいけど。まあ、既に殺してるし……いっか」


 そう言って俺は、スキルで人々を攻撃。……『殺戮』を開始した。

 圧倒的ステータス、圧倒的スキルによる一方的な蹂躙。

 一人、また一人と倒れ伏す。

 さながらゲームで敵NPCを殺すような淡々とした作業をこなしていった。


「うーん。ちまちま一人ずつ狙うのも面倒だな。……ん?」


 その時、何者かが俺目掛けて一直線に突っ込んできた。


「『十二聖剣』よ」


 俺は、絶対防御を誇る十二本の聖剣を召喚。

 全自動で俺を守る聖剣たちが、突進してきた人物を受け止める。

 その人物は、俺と同年代の少女だった。彼女は、怒りの形相で俺を睨めつけてくる。

 少女が言う。


「許さない……! よくも学さんをっ!」

「あ、この人のお知り合い?」


 俺は、頭部を失った青年を見ながら言う。


「何でっ! 何で彼を殺した!? 答えろっ!!」

「近くにいたからさ。そして君も死ぬ」


 俺は、優男を殺した時と同じように、対峙する少女にデコピンを構える。

 しかし俺が中指を放った直後、目の前にいた少女の姿が忽然と消えた。


「あれ?」


 不思議に思い、辺りを見渡してみると遠く離れた場所に彼女はいた。

 それはバイクだった。

 フルフェイスヘルメットを被った男性が操縦するバイクの後ろに、少女は乗せられていたのだ。

 いつの間にあんなに移動したのだろうか?

 そんな事を考えているうちに、バイクは走り去ってしまった。


「……逃しちゃった。まあ、別にいっか」


 これで、浜辺に生きた人間は俺たち以外いなくなった。

 そこら中に死体が転がっている。サッサと片付けるとしよう。


「ミッションコンプリートだな。よし、ミズチカ。早速清掃に入ってくれ。あ、人手は幾らでも用意するから。ちょうど魔物を仲間にしたところだし」


 俺は、ミズチカの方を振り返った。

 ミズチカは呆然とした表情で俺のことを見ていた。


「どうした?」


 俺が尋ねると、ミズチカがおずおずした様子で応じる。


「あ、あの、二階堂さん」

「うん」

「……二階堂さんは、どうしてそんな平然と、人を殺せるんですか?」


 ああ。そういう話か。


「俺のためだからさ」


 俺は、ありのまま思ったことをミズチカに答えた。

 そう。

 結局のところ人間とは、生物とは、自分こそが最も重要なのだ。

 例えその行いが罪深きことだと世間が声高に叫んだのだとしても、自らの『正義』さえ守れていれば問題はない。


「俺は正しいと思ったことをしただけ。罪悪感というのは、罪があると思うから感じるんだよ。ミズチカ」


 俺はミズチカの頭に手を乗せる。


「大事なのは常に自分自身さ。自分のための努力や行動は正当化される。世間の正義ではなく、自分の正義を考え続けろ。……そうすれば、お前の中にある不安もいつかは解消されるはずさ。ミズチカ」

「……はい」

「ま、難しいことは適度に忘れろ。それがストレスフリーな生き方の秘訣だぜ?」


 そう言って俺は、ミズチカを宥めるように笑ってみせた。


「さて、掃除掃除。終わったらパン子シェフに焼きそばを作ってもらおう!」

「……わかりました。あの、二階堂さん」

「なに?」

「どうすれば、貴方のようになれますか?」


 意外な質問だった。

 俺はしばし考えた後、こう答える。


「美味しいご飯を食べて、たくさん遊んで、よく眠る?」


 大事なことだ。

 そういえばミズチカって気苦労多い人生だったみたいだし、もしかしたら美味しいご飯も楽しい娯楽も知らないんじゃないのか?




 ……よし! じゃあ今日は、たっぷり満喫してもらおう! 人生ってのが、堪らなく良いものだということを、ミズチカに教えてやろうじゃないか!




 俺は、うきうき気分で支度を進める。

 今日は快晴。絶好の海日和。

 素敵なイベントが始まるまで、もう間も無くだ。

『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』


下にスクロールすると、本作に評価をつける項目が出てきます。


お手数おかけしますが、更新の励みになりますので、ご存知なかった方は是非評価の方よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。久しぶりに更新されているのを見るととても嬉しい気分になります。ありがとうございます。
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