第193話「そういう無力化もあるのか」
「ギャギャグャアアア!!」
「シュゥゥゥゥゥポポォーーーッ!!」
「フゥシャアアアアアアアアアアッッ!!」
魔物達とすれ違う度に、彼らは威嚇とも喝采とも取れる大きな鳴き声を上げた。どうやら何かを訴えかけているようだが、相変わらず何を言っているのかサッパリだ。
「……翼さん。この魔物達は、どうして叫んでいるんですか?」
大勢の魔物に囲まれている状況に多少ながら警戒しているミズチカは、そっと俺の服の裾を握っていた。
「俺にも分からん。まあ仲間だし、少なくとも急に襲ってくることはないさ。……ていうか五月蝿いな。お前ら、少し黙れ」
俺がそう言うと、周囲にいる数十体の魔物達は一斉に口をつぐんだ。
やれやれ。魔物達が俺に大事を伝えようとしているのはなんとなく理解できるが、その前に俺の鼓膜を潰されたらたまったモノじゃない。
何にせよ、騒ぎの原因はすぐこの先にいるのだ。
大事な仲間達も不安がっているようだし、早く解決してあげるとしよう。
そんな事を考えていると、通路の奥からピンク色の物体がこちらに飛んでくる。
「ん?」
俺が怪訝な表情を浮かべた直後、同じような物体がベチャリベチャリと飛散してきた。
一見するとそれは、綺麗な色をした内臓の一部のように見えたので目にした瞬間ちょっと怯んだ。
そして、その数個の物体は生き物のようにピクピクと痙攣し出すと、ずるりずるりと這うように動き出し一箇所に集まり、混ざり合う。
途端に物体の表面に『目』と『口』が形成され、手足を思わせる触手が生えてきた。
その姿を見て、俺ははたと気付く。
「お前……ネコ、か?」
肉塊を連想させるグロテスクな容姿。不定形な目と口。イソギンチャクのような触手。
スキル『魔物融合』で俺が生み出した、あのネコにそっくりだ。……サイズは、随分小さくなっているけど。
すると、ネコは後ろを振り向き、まじまじとこちらを見て、それから口を開く。
「ぱーぱー?」
そう言ってネコは、こちらに飛び跳ねてきた。
「っ!」
それに反応したのは、ミズチカだった。
なんとミズチカは、スキルを発動してネコの体を真っ二つに切り裂いてしまった。
まあ、正体不明の肉の塊がいきなり接近したのだから、驚くのも無理はないけど。
「にゅあー?」
ステータス自体は、さほど高くないネコはミズチカの攻撃を跳ね返せない。風の攻撃を受けて、体を真っ二つに切り裂かれてしまう。
しかし、高い自然治癒力を持つネコの体は、その程度では倒されない。
切られたそばからすぐに断面同士をくっつけ合わせ、接合。傷はみるみるうちに消えていき、あっという間に元の状態に戻ったのだ。
「にゃっ!」
ネコは、攻撃されたことなどお構いなしといった様子で駆け寄り、俺の懐に飛び込んできた。
俺は、ネコを抱き寄せる。
「おーよしよし。心配するなミズチカ。こいつは、ネコ。さっき話した例の魔物だよ」
「これが……」
「まあ、目てくれはこんなだけど。少なくとも俺が近くにいるうちは、こいつも暴れたりはしないさ。多分」
そう言って、改めてネコの姿を見る。
俺が最後にネコと会ったのは三日前だが、その時はもっと大きかった。スラタロウのようにスキルで体を小さく出来る訳ではないはずだから、余った分はどこかに置いてきてしまったのだろうか?
「おいネコ。如何してそんなに小さくなったんだ?」
「にゃぁー」
「うーん。やはり会話は出来ないのか」
と、その時だ。
廊下の向こう側から、何やらくぐもった声が聞こえたような気がした。
気になって奥を覗いてみると、そこには巨大化したアーサーとラムレイが居た。
「おお、お前達! こんなところで何してるんだ?」
「つ、翼様! 実は私達二人でネコを捕獲しようと試みたんですが、そしたら彼奴、急に分裂し出して……」
「分裂?」
「はい。バラバラになって逃げようとしたんです。それで、ネコを逃がすまいとして今度はアーサーが、分裂したネコをまとめて吸い込んでこんな状況になってしまって」
そう言われて、俺はアーサーの異変に気づく。必死に口を押さえて、何かを吐き出さないように堪えており、更によく観察すると、アーサーのお腹がボコボコと蠢いていることもわかった。何というか、アーサーの中で何かが暴れているような……。
「なるほど。つまり、スキル『吸引』の効果か。そう言えばアトラスの大斧に、そんなスキルがあったな」
「ぐもも……! つ、翼様。見苦しいところをお見せしてしまい……うぷっ! も、申し訳、ございませんっ」
お腹の中に大量の『ミニネコ』を閉じ込めたアーサーは、両手で自分の口を押さえながらもそれでも俺に対して謝罪の言葉を述べた。
「うむ! その真面目さと身を挺した頑張りは評価するぞ、アーサー。ネコの監視、ご苦労様。だが、俺が来たからにはもう安心だ。そのお腹に溜まったネコ、全部吐き出していいぞ」
「……承知」
そう言うとアーサーは、大きく口を開いた。
直後、アーサーの口から大量の肉塊が吐き出された。胃液で消化されたのか知らないが、若干溶けかけているが……分裂したミニネコ達で間違いないようだ。
「切っても殴られても平気だけど、溶かされるとダメージがあるのか。完全に不滅って訳でもないんだな」
「……ぱぱー?」「ぱーぱー」「ぱぱー!」
俺を見つけた途端、ワイワイと騒ぐミニネコ達。
どうやら、ネコは俺を『父親』だと思っているらしい。まあ生み出したのは俺だし、あながち間違いではないだろう。
「ネコよ。久しぶりだな。今日は、お前に良い知らせを届けに来たんだ。取り敢えず、分裂した状態だと面倒だから一度元の形態に戻ってくれるか? ……ていうか、戻れるのか?」
「にゃあー」
すると、俺の肩に乗っていたミニネコも含めて、分裂したミニネコ達は一箇所に集合し出し、あっという間に一体の巨大なネコとなった。
分裂だけでなく、合体も出来るようだ。
「さて。ネコ、ずっと地下での窮屈な暮らしをさせて悪かったな。でも、これからは大丈夫! お前も他の皆同様、自由に外で遊べるようにしてやるぞ!」
「……にゃ?」
「差し当たって、お前にはこれをプレゼントしようと思う。俺が現在使用できる『五〇〇個』のスキルのうち、中でも上位に食い込む優秀なスキルだ」
俺は、スキル『ギフト』を発動。
保有するスキルを一つ選択し、ネコに届ける。
たちまち、俺の体から粒子が放たれ、ネコの中へと吸い込まれていった。
「ははっ。それは、きっとお前の役に立つぞ。変幻自在、あらゆる存在に化けられる無敵の力。その名も……スキル『メタモルフォーゼ』!」
さあ、問題児が問題では無くなった。
支度前に色々あったけど、これで本当に心残りは無い。気兼ねなく準備を整え、海水浴に出かけようないか!
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