第183話「遊戯部も参加?」
俺とコスモスは、レストランへ向かっていた。
因みに、コトノハさんとリリーは、遅れてくるらしい。体に巻きついた蜘蛛の糸を外すのに時間が掛かるそうなのだ。
手伝おうと思ったけど、「大丈夫だから先に行ってて」とのことなので、お言葉に甘えることにする。
レストランには、仲間のゾンビ達が集まっていた。何やら、「ウガウガ」とよく分からない言語で話し合いをしている。
ゾンビは、ゾンビ同士で意思疎通が出来るらしいので、こういう光景は珍しくない。今も、他愛のない雑談でもしているのだろう。
集団の中には、このレストランの責任者であるパン子シェフの姿があったので、俺は声を掛けることにした。
「おはよう。今日も良い天気ですね」
すると、ゾンビ達は『ビクッ』と身を震わせた。
そして、俺が来たことに気付いたゾンビ達は、いそいそと何処かへと去ってしまった。
「むっ。どうしたんだろう?」
「旦那の悪口でも、言ってたんじゃないッスか?」
「そういう悲しいこと言うなよ、コスモス。事実だったらどうするんだ」
「事実だったら粛清ッスか?」
「そこまでしないけど、罰当番くらいはしてもらおう」
悪口を言われるのは嫌いだ。ムカつくから。
とはいえ、ストレス解消の一環として、時に不満を漏らすことも大事だろう。それ自体は、否定しない。
要するに、俺の聞こえないところで悪口を言え、という話である。
「パン子シェフ、俺とコトノハさんの朝食をお願いします」
「ぐるるっ」
「二階堂の旦那〜。遊戯部の奴らが、先に飯食いに来てたッス。あ、オレもコーヒーくれ」
「ぐるっ」
「そっか。じゃあ、相席させてもらおう」
パン子シェフが準備をしている間、俺は食堂の方へ移動する。
食堂に着くと、トウダイさん、センゴクさん、マムタさん、ココナちゃんの四人が同じ席で食事をしていた。
「あ、二階堂さん!」
「二階堂くんだ。と、コスモスちゃん」
「おはようございます、センゴクさん、ココナちゃん。このホテルでの暮らしには、もう慣れましたか?」
「はい!」
「うん。というか、最高。前の暮らしより断然住み心地が良いし」
「ご飯も美味しいですしね。まあ、ゾンビや大きい魔物がそこら辺をウロウロしているのは、まだ慣れるのに少し掛かりそうですけどね」
マムタさんは、遠くの方にいるゾンビ達の方を見ながらそう答えた。とはいえ、三人共それなりに満足しているようで良かった。
俺は、トウダイさんの方に視線を向ける。
トウダイさんは、食事中もゲームをしていた。行儀が悪いが、ここ数日間の様子を見るに、寧ろ彼女がゲームをしていない時の方が珍しいくらいなので、それが彼女にとっての普通なのだと俺は納得していた。
「ほらっ、シズさん。ゲームばっかりしていないで挨拶くらいしましょうよ。一応、私ら住まわせてもらっている立場なんですからさぁ」
「ん。……ありがとう、二階堂さん。ここは、気兼ねなくゲームが出来るから超幸せ」
「それは良かった。……ところで皆さん、今日の午後は空いていますか?」
「予定は無いけど、どうせ一日中ゲームやってると思いますよ」
「実は俺達、これから海水浴に行くんです。皆さんも一緒にどうですか?」
すると、四人は呆気に取られた表情を浮かべた。
「か、海水浴? 街が大変な事になっているこの状況下で?」
「安心してください。危険な魔物は、来られないようにします。まあ、その為にはココナちゃんの力が必要ですけど」
「私ですか?」
「ココナちゃんは、魔物を寄せつけなくするスキルを保有しているって、前に教えたよね」
「はい。ショッピングモールに魔物が来なかったのも、その力のおかげだったって」
「そうそう。仲間の魔物まで近づけなくなるから今は引っ込めてもらっているけど、それを有効活用すれば安全地帯が作れる。海水浴もBBQも思いのままさ! ……で、どうかな?」
「良いですよ。二階堂さんにはお世話になっていますし、恩返しがしたいです」
「ありがとう。御三方は、どうですか?」
「私は、パス」
真っ先にそう答えたのはトウダイさんだった。
「えぇ〜、いいじゃん海。一緒に行こうよ〜」
センゴクさんは、海水浴に参加したいようだ。
積極的にトウダイさんを誘っているが、彼女は渋い顔をする。
「いや。海水浴なんて、そんな行くだけで体力吸われるイベント無理。家でゲームしてたい」
「うーん。ナツは、どうする?」
「写真撮影有りなら行きます。他にも女の子が来るんですよね?」
そう言ってマムタさんは、徐にカメラを取り出した。
「別に撮っても構いませんよ」
「ヨッシャア!」
「……二階堂くん。勝手なこと言っちゃ駄目だよ。こういう時のナツ、歯止めが効かなくなるから」
「まあ、そこら辺は俺には関係ないというか。お互いの同意のもとなら、俺はとやかく言いません。……しかし、トウダイさんだけ不参加かぁ」
残念だけど、仕方ない。強引に参加させても、本人は楽しくないだろうし。
嫌なことはしないのがベスト。無理強いはしないさ。
「二階堂の旦那」
「どうしたコスモス」
「なんか、彼処に居るゾンビ共が話したそうにこっちを見てるッス」
言われて其方に視線を送ると、確かにゾンビ達がじっとこちらを見ていた。
「……もしかして、海水浴に行きたいのか?」
「ごぅぅ」
「よし! 参加を許可しよう!」
「ん? 魔物やゾンビは近づけないんじゃないんッスか?」
「大丈夫だ。俺に考えがある」
「考え? ……まあ、オレは何でもいいッスけど」
折角のイベントだ。大勢が集まった方が良い。その為の工夫は、俺がやろうじゃないか。
さあ、これであらかた誘ったな。
次は、準備に取り掛かろう。
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