第173話「空間崩壊」
スラタロウの柔らかボディーがクッション代わりになってくれたおかげで、傷一つなく着地することが出来た言ノ葉。
言ノ葉は、急ぎ崖側の方へと駆け寄る。
そこで言ノ葉が見つけたのは、血塗れの花江水千佳だった。
「う……ぁっ……」
か細い声が聞こえた。
装着していたギガンティック・スーツが完全に消失し、花江水千佳の全身が露わになっている。
銃弾で体中を蜂の巣にされて、酷い重傷を受けていたが、ギリギリ死んではいなかったようだ。
横たわる体を必死に動かそうと腕を使い、匍匐前進の形で移動を試みている。しかし、どのみち虫の息であることには変わらない。この場に鑑定系スキルを持っている者がいれば、花江のHPが残り僅かであるのに気付いただろう。
それでも未だ、花江の瞳には殺意の波動が渦巻いていた。
何故、これ程までに殺気を向けられているのか、言ノ葉には理解出来なかった。
そして殺気を向けられていることに気付いたのは、彼女に抱えられているスラタロウもだった。既に死にかけの花江にトドメを刺そうと、銃を構える。
「待って! 殺さないで!」
「でも、あの子は君を殺そうとしてるよ? ボク、御主人様に言ノ葉さんを守るようにって言われてるんだー」
「水千佳ちゃんは、もう戦えない! 殺す必要はないよ!」
「うーん」
スラタロウは、這いつくばる花江を見て、どうしたものかと考え込む。
そうしている間に、リリーと越智が言ノ葉達の元へと駆け寄ってきた。
「みー!!」
「杏里、無事!?」
「はい、なんとか。スラタロウが助けてくれました」
「……なに? このピンク色のスライム」
「えっと、仲間です。正確には、二階堂くんの仲間ですけど」
「どうも人間さん! スラタロウです!」
初対面の越智に挨拶するスラタロウ。
その時だった。三人が立っている地面が突如大きく揺れたかと思うと、地盤が斜めに傾き出したのだ。
「な、なにっ?」
「…………崩壊が起きてる」
「うわぁ!! ヘブライさん、いつの間に!?」
言ノ葉の隣に、マンダラを連れて何処かへ行っていたはずのヘブライが立っていた。近づかれた気配は感じ取れず、まさに神出鬼没。
「…………この空間も崩れ出した。マンダラが言ってた通り、もうすぐ深層世界は消滅する」
こうしている間にも、辺りでは地盤沈下が多発しており、大規模な地割れや山崩れが起きていた。その様子は、まるで世界の終わりを思わせるようだ。
するとヘブライは、言ノ葉の体を抱え出し、翼もないのに宙に浮かび上がる。
「えっ? な、なんで!?」
「…………助ける。そういう約束だから」
「ま、待ってください! 彼処にまだ水千佳ちゃんがっ!」
言ノ葉が視線を送った先には、倒れ伏す花江の姿があった。
だがその直後、再び起こった地響きによって地面に亀裂が走り、崖の一部分が崩落。その上に乗っていた花江も、遥か彼方の崖下へと落下していった。
「水千佳ちゃん!? そんなっ!」
落ちていく花江に対して、言ノ葉はただ見ていることしか出来なかった。
そして、限界が迫っていた。遂に、地盤だけでなく空間そのものまで亀裂が走ったのだ。
ヘブライは、越智を抱えて飛ぶリリーを一瞥すると、その後脱出口へと飛行した。リリーも、それに続いて脱出を目指す。
「諦めなさい、杏里」
「……越智さん」
「救えない命もあるの。悲しいけど、それが今のこの世界なのよ
言ノ葉と隣り合わせで飛行する越智から、無慈悲な言葉が紡がれる。
滅びた世界。明日を生きられるか定かでない世界。
彼女の言った台詞は正論で、とても残酷なものだった。……言ノ葉は、そっと顔を伏せる。
「水千佳ちゃん……」
もう一度花江が落下した崖の方を見る言ノ葉。そこにはもう、誰も居ない。
次第に、出口が見えてきた。
言ノ葉、リリー、越智、ヘブライの四人は、『深層世界』を脱出する。
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