第158話「逃げ場なき逃走」
「杏里、逃げるわよ!」
「う、うん!」
越智さんから差し出された手を取って、私は校舎内を走り出した。
背後から、マンダラの軽快な笑い声が響き渡る。
「気の済むまで逃げるといいさぁ! でも、ここはオレッチが創った世界。逃げ場なんて何処にも無いんだけどねぇ〜☆」
確かにマンダラの言う通りなら、私達に脱出のチャンスは無いかも知れない。でも、逃げなくても結局殺されるだけだ。
私は、今も戦っているリリーに向けて声を張り上げる。
「リリー! こっちへ来てー!!」
「みー!!」
リリーは、水千佳ちゃんとの戦いを中断して、私達の方へと駆けつけて来てくれた。
その後を追うように、水千佳ちゃんの姿も現れる。
「何処へ行くのッ!? 逃さない逃さない……! 殺す! 殺してやるぅうううううッ!!」
水千佳ちゃんは、正気を失った表情と狂気を宿した瞳を私達に向けて、声を荒げる。
会話もままならないと思い、一目散にその場を離れた。
「みー!」
「ええっ!?」
「なに? この子なんて言ったの?」
「『窓から飛び降りよう』って」
「走っても埒が明かないし、それしか無さそうね」
リリーの提案に乗り、私達は思い切って窓から身を投げ出す。
その向こうは校舎の外……ではなく、先程まで居た例の崖道だった。
「ここ、さっきの場所じゃない。戻ってきたの?」
「そのようですね」
校舎を離れることに成功した。
しかし、安堵の一息を吐く暇も無かった。そのすぐ直後に、私達の後を追うようにして水千佳ちゃんがこちらへとやって来たのだ。
「『止まって』」
その時である。
越智さんが一言声を発した瞬間、水千佳ちゃんの足が地面に縫われたかのようにピタリと止まった。
そして次に行動を取ったのはリリーだ。指先から蜘蛛糸を伸ばすと、水千佳ちゃんの全身をグルグルに巻いて拘束する。
「なッ!?」
「みー!!」
リリーは、縛り上げた水千佳ちゃんをそのまま崖下目掛けて放り投げた。動けない水千佳ちゃんはそれに抗うことも出来ず落下していった。
思わず目を見開いてしまう。
「リ、リリー!? 落っことすのは流石にやり過ぎじゃあ……」
「みー」
「本気で殺しに来ている相手に情けをかけるのは命取りよ」
「それはそうかもですけど」
「とにかく、今のうちにここを離れましょう。彼処にある車に乗るわよ」
越智さんが指差した方向にあったのは、私が一度乗車した車だった。
再び運転席に腰掛けて鍵を回す。
たちまちエンジン音が鳴り出した。
「ウェーイ! ちょ〜っと迂闊だったねぇ〜花江水千佳ッ☆」
その後、マンダラの声が聞こえてきた。彼もこの場所にやってきたようだ。
後ろを見てみると、マンダラは落下したはずの水千佳ちゃんを浮かび上がらせてここまで引っ張り上げているところだった。
「オレッチは、君のその怒りを買っている。だけど、激しい感情は視界を曇らせるからねぇ〜! 特に敵の力が未知数の場合、戦いはクールに行っていくべきさぁ〜☆」
「マンダラッ! 私に手を貸して! 彼奴らをぶっ殺すッ!!」
「ウェーイ! いいよいいよっ! 面白そうだし貸してやろうじゃないか手をッ! ちょうど良く君の役に立ちそうなのが今、オレッチの手にあることだしさぁ〜☆」
そう言うとマンダラは、また魔法陣を出現させて、何者かを召喚し始めた。
それは、人間のゾンビだった。
体の彼方此方に複数の傷が付いており、その重傷さ加減から既に死んでいると判断出来る。
しかし、『問題』はそこではなかった。
「えっ……!」
見覚えのある人物だったのだ。
私達の前に骸として姿を現したのは、今日まで確かに健在だったはずの少女。
……十橋一子先輩、その人の姿だった。
「驚いたかぁ〜い? 君らが何処ぞに逃げ出している間にバッチリぶっ殺してやったのさぁ〜☆」
「そんな……! 十橋先輩っ!!」
「ウェイウェイ! これで十橋一子は、オレッチの従順なシモベだ!! で・も、それだけじゃないんだよねぇ〜☆」
直後、十橋先輩が出てきた魔法陣と同じものが立ち続けに複数出現した。
そこから現れたのも、やはりゾンビ。全員が生気の無い死に顔を浮かべている。
「街中から『異能者』の死体を片っ端から集めてきた! 急ごしらえだから大した連中ではないけど、君をパワーアップする分には十分だねぇ〜! さあ花江水千佳、『契約』をするんだッ☆」
「……うん。スキル『主従契約』」
水千佳ちゃんがスキルを発動する。
するとゾンビ達の体が淡い光を纏い出した。空気中に漂う粒子は流れるように水千佳ちゃんの方へと吸い込まれていく。
直後、水千佳ちゃんの体に紅く妖艶な炎が包み込み始めた。
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