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第148話「愚痴零しは幾らでも」

「越智さん。……越智さん!」

「……ん。ああ、ごめんなさい。ボーッとしてたわ」


 過去の記憶を元に作られた謎の空間。山間の崖道にに、私と越智さんは居た。

 しばらく呆然として身動き一つしない越智さんのことが少し心配になってしまい、私は彼女に声を掛けた。

 そして越智さんは、正気を取り戻したように顔を上げてくれた。


「だ、大丈夫ですか? 顔色が悪いです。やっぱり、少し休んだ方が」

「平気よ。いちいち気にしなくていいから。……さっきは悪かったわね」

「えっ?」

「その。私、変なこと言ったでしょう? 無関係の貴女に意味分からない愚痴零して。……さっきは頭が混乱していたから、あの時言ったことは忘れてちょうだい」

「あ、そのことでした。それこそ気にしないでください。誰だって、自分の思いを吐き出したい時はあります。それで越智さんが楽になってくれるのなら、私は幾らでも協力しますよ」


 私達は会って間もないし、互いのデリケートな部分に触れられるような近しい関係ではないから、越智さんの過去について根掘り葉掘り聞く、なんてことをする気はない。

 ……でも、向こうから打ち明けてくれる分には良いよね?

 本人にとって重い過去でも、いや重い過去だからこそ、それを一人で抱え込むのはとても辛い。

 だから、その負担を少しでも減らせるのなら愚痴を聞くなんて訳ないことだ。……私には、それくらいしか出来ることがないし。

 何て、私がそんな事を考えていると、越智さんは途端に自分の顔を赤くさせて、ぷいっとそっぽを向いてしまった。


「……貴女、ムカつくわね」

「ええっ!? す、すいません」

「いや、別に、謝ってもらいたい訳じゃないから。ていうか寧ろ、あ、ありが……」

「ん? なんて言いました?」

「何でもないわよ!!」


 越智さんが急に怒鳴り出して、ぷりぷりとした様子で向こうの方へと進んでいく。

 ……何だかよく分からないけれど、取り敢えず元気にはなってくれたようで安心した。

 そんなこんながあり、私達はこの果てしない道を再び歩き出した。

 すれ違う人どころか、生き物の気配すら感じられない。やっぱり、ここは普通の場所ではないんだろう。

 そして、もうどれくらいの距離を進んだのか分からなくなった頃。ようやく気になるものを発見することが出来た。


「……車?」


 そう、それは何処にでもあるような普通の車。……詳しくないから車種は分からないけど。

 調べてみると、扉は施錠されておらず、中にある鍵穴にこの車の鍵が刺さってあった。つまり、いつでも運転が出来るということだ。

 他にも何かないかと探してみるけれど、特に変わった箇所はないように見えた。


「何にしても丁度いいわ。貴女、この車でまた運転しなさいよ」

「う、うーん。こんな不自然に置かれている車を使って大丈夫なんでしょうか? 何かの罠だったりは……」

「あ、そう。なら私が使ってみるから、貴女はここから離れてなさい」

「いやいや! そういう訳にはいきません!! だったら私が……」

「じゃあ、お願いね」


 そう言って越智さんは、私を運転席へと座らせた。

 ……あれ? なんか、上手く丸め込まれたような気が。まあでも、言い出しっぺだしやるしかないか。

 私は、そっと手を動かし、キースイッチに刺さってある鍵に触れた。

 緊張を落ち着かせる為、一度深呼吸をした後、思い切って鍵を回す。


 その瞬間、世界が一変した。


 確かに車の中に居たはずの私は、気付けば何処かの学校の教室の中に居た。

 慌てて周りを見渡すけれど、越智さんの姿がない。人影すら見つからなかった。


(や、やっぱりあの車は罠……!)


 そうなると、すぐ近くに敵が居る可能性がある。

 何処かに隠れようとしたその時。教室の扉がガラリと開かれる音が聞こえてきた。

 私は、その音がした方を恐る恐る振り向いてみる。

 そこには。


「杏里さん」

「……水千佳、ちゃん?」


 そうそこには、離れ離れになっていた花江水千佳ちゃんの姿があったのだ。

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