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第140話「心的外傷」

 学校の屋上も隈なく探してみたけれど、やっぱりというべきか。脱出の手掛かりになりそうなものは見つからなかった。


「……ダメですね、ありません」

「そう。でも根気良く探索を続ければいつか必ず何か見つかるはずだわ」


 私達は、ここの探索を止めて、次の場所に移動することに。

 入ってきた扉を再び開けてみると、コンサート会場ではない全く別の場所に繋がっていた。

 ここまで何度も経験すると、この『どこでもドア』のような移動にも流石に慣れてくる。

 次にやって来たのは……足場の悪い崖道だ。少し足を踏み外せば、そのまま転落してしまいそうな危うい場所である。


「……ここって貴女が知っている場所?」

「えっと」


 今の口振りから察するに、越智さんはこの場所に対して思い入れはなさそうだ。

 けれど私も、全く見覚えのない場所のように見える。少なくとも私が覚えている限りは、こんな切り立った場所に来た覚えはないはずだ。


「……やっぱりよく思い出せないです」

「まあとにかく止まっている訳にもいかないし、このまま道なりに進みましょう」

「はい」


 私と越智さんは、共にこの道を歩いていく。

 それにしても長い道路だ。真っ直ぐ進んでいくだけでも結構時間が掛かりそうだ。

 そして、しばらく歩いていると、唐突に越智さんが話を始める。


「ねえ、こんな時にこんなこと言うのも何だけどさ」

「な、何ですか?」


 前置きを述べられ、私はそれに問い掛けた。

 越智さんは二、三秒程沈黙する。……喋るのを躊躇っているような感じだ。

 そして、覚悟したように彼女は口を開く。


「……私、二階堂に会うのやめるわ」

「えっ? どうして」

「自分の心の弱さを知ったからよ。今のまま彼奴に出会っても、きっと私は何も出来ないし、何も果たせない。だから……」


 そう言ってまた黙りこくってしまう。

 今の越智さんの表情。仕草。声色。

 凄く思い詰めているというか、重々しいというか。

 でも、彼女がこうなった理由に、私は一つ心当たりがあった。


「あの倉庫、ですか?」

「…………」


 越智さんは、黙り続ける。

 私は、続けて話すことにした。


「えっと、何というか。越智さんが昔、二階堂くんと何があったか、絶対に話したくないなら話さなくていいです。他人に聞かれたくない過去っていうのは、誰にでもあると思いますから。……私も、そうですし」

「…………」

「ただ、私は二階堂くんのことを知っています。……たった数日間の関係ですけれど、越智さんが知っている昔の二階堂くんじゃなくて、今の二階堂くんを見て会話したことがあります。だから、その……」

「…………」

「お、越智さんは私に、二階堂くんのことで聞きたいことってありますか?」

「無いわよ」

「……そうですか」

「彼奴のことなんて、本当はどうでもいい。本当は関わりたくだってない。……私はただ、過去の精算をしたいだけ」


 その時の越智さんの顔は、今にも泣きそうな、とても悲しい表情を浮かべていた。

 越智さんは私に……いや。殆ど独り言のような調子でポツポツと喋り出す。


「私、さぁ。今までずっと、彼奴のことが頭の中で過ぎる度に心臓が締め付けられて、痛くて痛くてさ。……心と体に、一生治らないんじゃないかっていう傷を付けられて。忘れようって思った頃もあったけど、忘れられなくて。だったらもう、死ぬ気でぶつかっていくしかないじゃん? そう思って、そう思ったからわざわざこの街に帰ってきて。……なのに、実際の私ときたら、ちょっと昔の嫌な記憶を穿り返されただけであっさり戦意喪失だもの。……訳分かんないわよ」


 ふと、気付けば越智さんは歩くの止めていた。

 顔を上げず下を向き、その表情には深い影が浮かんでいる。


「はぁ、情けない。……本当に、情けない。いや、こんなこと貴女に話しても仕方ないってわかっているんだけどさ。思ったよりシンドかったよ、トラウマを克服するのって。心臓バクバクだし、変な汗出るし、息は荒くなるし、手は震えるし、……滅茶苦茶怖い」

「越智さん……」


 彼女のこれほどまでの反応。……これは正直、私の予想を上回っていた。

 私は、越智さんは二階堂くんを目の敵にしているのだと思っていた。二人は昔、何らかの理由で対立するようになって、それが原因で仲が悪くなったんじゃないかと。

 けれど、それは半分だけ正解だった。



『嫌悪』なんかじゃない。

 彼女は、越智夜桜さんは、どうしようもなく二階堂翼というあの少年に……『恐怖』しているんだ。

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