第117話「異世界の料理」
三人で映画を観ていたらお腹が空いてきたぜ。
昼食を……と思ったけど、そう言えばパン子シェフはコトノハさんの護衛に当たらせているんだった。
仕方ないので、出来合いのものでも食べようか。食糧庫には、缶詰めとかインスタント食品が沢山ある。
「クイーンも、うちでお昼を食べていくかい? 大したものは出せないけど」
「翼様は、料理はされないのですか?」
「全然。クイーンは?」
「私は、多少は心得ていますが……」
「おおっ。なら折角だから何か作ってよ!」
「あ、いや。そう急に言われても……」
「安心して。俺も手伝うからさ! 料理の知識全然ないけど!」
「それは、手伝いになるのでしょうか?」
そんな訳で、俺達は料理を作る事になった。
適当に食材を持ってきて、レストランの厨房に入る。
流石は、良いホテルのレストランは厨房も本格的だな。よく分かんないけど。
「私、この世界の一般的な料理を知りませんので、貴方から見ると少々特殊な感じになるかも知れませんが宜しいですか?」
「うん」
「では、まずは調理器具を探しましょうか」
厨房内には、多くの調理器具や食器があって、それを探し出すのも大変な作業だ。
何とか一通りの器具を用意したので、これでようやく調理に入れる。
「それで、何を作るんですか? クイーンシェフ」
「シェフ……。えっと、じゃあ『コタレチ』でも作りましょうか」
「なにコタレチって?」
「この国では、『トマトスープ』がそれに近いですね。本来は『コタ』という果実を使って作るのですが、ここには無いのでトマトで代用します」
クイーンは、調理を始めた。
テキパキとした手捌きなので、ぶっちゃけ俺に出来る事は何もない状況である。
暇なので、俺はクイーンに質問してみる事にした。
「そう言えば、クイーンが暮らしていた世界って俺達が住む世界では無いんでしょう? 異世界って、どんな所なの?」
「うーん。貴方が期待している程この世界とそう変わりは無いと思います。……多少の文化の違いはあるものの、詳しく説明するのは難しいですね」
「じゃあ、クイーンはどんな場所で生まれたの?」
「…………。私は、よくある田舎村で育ちました。両親と兄と」
「へぇー意外だな。もっと貴族みたいな身分の生まれだと思ってた。クイーンって美人さんだし」
クイーンは、笑みを浮かべた。
「うふふっ。ありがとうございます。……翼様は? 翼様は、どんな家庭で育ったのです?」
「俺? 俺は、普通だよ。このホテルから少し離れた場所に立っている家で生まれて、十六歳の今日まで何不自由無く生きてきた」
「……何不自由なく、ですか」
「うん。俺の両親、偉くて金稼ぎが良くてさ。俺が欲しいものは何でも買ってくれたし、怖い奴らからも守ってくれたんだ」
俺は、パパとママの顔を思い出す。
他人の顔と名前を覚えるのが苦手な俺だけど、二人は一度だって顔を忘れた事が無い。
だってパパとママは、俺に良くしてくれるから。
俺の素晴らしい人生を送るのに、欠かせない人達だから。
「パパとママだけじゃないよ? 俺の家には沢山の使用人やコックや警備員が居てさ。みんなが俺に良くしてくれるんだ。特に付き合いの長い人に至っては、『家族』同然であると俺は思っている」
「……家族」
するとクイーンは、どういう訳かやや表情を曇らせた。何かを思い詰めているような……。
「あれ。俺、気に触ることも言ったかな?」
「い、いえ。何でもありません。……そうですか。翼様は、大勢の人達に支えられてきたのですね」
「そう。みんなが居てくれたから今の俺が居る。本当に、感謝の極みだよ」
パパとママだけではなく、家に居る皆の顔も思い出す。
こんな状況になって、皆は今頃どうしているのだろう?
まあ、優秀な人達ばかりだから『この程度』で死んだとは思えないけど。
……ああ。顔を思い出したらみんなに会いたくなってきた。
でも別のエリアは、ここより酷い事になっているらしいから、帰るならもうちょっと体制を整えてからだな。
「……ふぅ。もうすぐで完成です」
「だったら、食器を取ってくるよ。えーっと、スープに使えそうなのは……」
俺は、食器棚から使えそうな物を探す。
こうして俺達の昼が流れていった。
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