第109話「遊戯部」
越智さんは、目を覚ました但野ちゃんにこれまでの経緯を説明した。
すると、但野ちゃんは十橋先輩の方を向き、頭を下げ出す。
「ごめんなさい。助けていただいたのに私、十橋さんに失礼な態度をとってしまいました」
「アハっ。気にしなくていいんだよ」
謝罪の言葉を述べる但野ちゃん。
十橋先輩は、いつも通りの笑顔で……いや、若干困ったような表情で但野ちゃんに対応していた。
「うーん、何でか謝られちゃったな。寧ろ、この子達を利用していたのは私の方なのにな」
「それでも、十橋先輩が居なかったらきっと今より酷い事になっていたかもしれませんから。ここに居る皆さんにとって、貴女はヒーローなんですよ」
「アハっ。……やめてよそういう事言うの。辛くなるじゃん」
んっ? 辛くなる? 何で?
褒められたはずなのに、十橋先輩は何故か落ち込んだ表情を浮かべていた。
「……恵美さん、寂香さん、千夏さん。ああ、良かった。三人共御無事です」
「その人達は?」
「私のお友達です」
ああ。そう言えば十橋先輩が言っていた。但野ちゃんは、高校生の友達三人組と出かけていた時、事件に巻き込まれた……って。
この人達がそうなのか。
「お友達も、起こした方が良いかな?」
「起こしてどうするのよ?」
「えっと、人手を増やす為?」
「アハっ。確かに新居を探したり物資を調達したり、色々とやる事が多いもんね」
「みー」
「まあこの子達は強いスキルを持っているから、起こすのは賛成だよ」
「じゃあ、起こしますね」
私達は、眠っている三人組を揺さぶっていく。
すると、間も無くして彼女らは目を覚ました。
「う、う〜ん。あれ、私いつ寝てたんだろう?」
「おはようございます。具合、悪くないですか?」
「具合は特に悪くないですが……あ、お姉さん可愛いですね。好きです」
「えっ!? な、え、あっ、ありがとうございます」
赤髪の少女からいきなり好意を持たれてしまい、反射的にお礼を言ってしまった。
そうしていると、他の人達。黒髪の少女と金髪ロングの少女もまた、状況が分からないせいか当たりを見渡していた。
「シズ。ここどこだろう?」
「さあ、さっぱり分からないけど……取り敢えず『自撮り』しようか」
黒髪の少女がポケットからスマホを取り出すと、何を思ったのか自撮りを始めた。
何というか、とてもやり慣れている感じだ。御丁寧に今も気を失っている人達が後ろに映り込むように撮影したり、金髪ロングの少女とツーショットしたりとカメラでパシャパシャ。
「そしてSNSに載せる。これでフォロワー大盛り上がり間違いなし」
「シズ。だからネットが使えないんだってば」
「ああッ、そうだった〜ッ!! もうヤダ!! こんな生活ッ!! ネット環境を失った今、私の生きる意味の半分を失った状態と同義ッ!! もう死ぬしかないッ!!」
黒髪の少女は、絶望した表情を浮かべたかと思うと、スマホを手放し、横たわり出す。
すると金髪ロングの少女は正座の格好となり、床に横たわる黒髪の少女の頭を自分の膝の上に乗っけた。
「よーしよし。いい子いい子」
「ああ〜最高っ。控えめに言っても最高。ナツ好き。一生私の側に居て」
「そっかそっかぁ。じゃあ最高ついでに、ゲームやろっか!」
「レースゲームで叩き潰す」
二人は、言うが早いか携帯ゲーム機を取り出すとプレイを始めた。
あまりにも当然として、それでいて場違いな彼女達の行動。
しかし、至極堂々としているせいもあって、二人が何も間違っていないような気がしてくるから不思議だ。
「ちょっと! ゲーム始めちゃったわよ!?」
「彼女達は、『遊戯部』のメンバー。その名の通り遊戯活動を目的とした部活動だよ。彼女達の一日の大半はゲームが主なんだって」
「ダメ人間共じゃない」
「一応その筋では、なかなかの著名人らしいけど……アハっ。まあ要するにただの廃人ゲーマーだね!」
二人共、発言が酷い。
しかしとはいっても、このままでは話が出来ない。何とかして彼女達には、ゲームする手を止めてもらわないと。
私は、赤髪の少女へと向き直る。
「あ、貴女お名前は?」
「茨田千夏です」
「……茨田さん。あのお二人に、話を聴いてもらえるよう掛け合ってくれませんか?」
「どうして私に協力を? 普通に止めて貰えばいいじゃないですか」
「そ、それは、せっかく楽しんでいる最中に部外者が邪魔をしたら気分を悪くすると思って……」
「ほぉ〜、マナーの意識が高いですね。非常に好印象っ!」
そう言うと茨田さんは、ズボンのポケットをゴソゴソと漁り始める。
「そうですね〜。まああの二人を止めるのは簡単ですけど、それじゃあ面白くないので……」
そして彼女がポケットから取り出したのは、またもや携帯ゲーム機だった。
茨田さんは、そのゲーム機を掲げて言い放つ。
「遊戯部のルールに則って、この私とゲームで勝負しましょう!」
「げ、ゲーム?」
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