第102話「二階堂翼vs十橋一子②」
言うなれば、それは古代ローマのコロッセオ。
人と人とが血に染まりながらも殺し合い、それによって観客を大いに沸き上がらせた。
そんな残酷な時代の産物の中に今、俺と十橋が立っている。
「ここは闘技場。そして、お前にとっては処刑場でもある。ここで行われる『死合』は誰だろうと逃亡は許されない。もし逃げた場合、その者には大きなペナルティーが科せられる」
「ペナルティー?」
「そうだ。まあ最も、ペナルティーの内容を教えるつもりはないがな。何なら気にせず逃げ出してもいいぞ?」
そうなってくれれば都合が良い。
逃亡によるペナルティー……それ即ち『死』である。選ばれた戦士が勝敗がついていない状態で闘技場から出ると、その者は石化してしまうのだ。
「この闘技場から出る方法は二つ。一つ目、対戦者を倒して生き残る事。二つ目、このスキルの持ち主である俺に触れて『降参しました』と言う事」
「アハっ。わざわざスキルの説明までしてくれるんだ!」
「ハンデだよハンデ。死合が一方的になるのは興醒めだからな」
無論、嘘だ。最初からハンデなどくれてやる気は一切無い。
この説明自体が、奴を罠にはめるための布石なのだから。
迂闊に飛び込んでくれば儲け物。
俺は、十橋が間抜けを晒すのをじっと待ち続けた。
「…………」
「どうした? 今、俺とお前はすぐ手が届く場所にいる。俺に触れて降参しないのか?」
「えーだって、今の説明は二階堂くんが言った事だもん。何かしらの『裏』があるかもしれないよね! 例えば、降参を宣言した者にもペナルティーが科せられる……とか」
ふむ、勘の良い奴め。
十橋の言った通り。このコロッセオで降参した者もまた、石化して死亡する事になる。
この戦いで生き残る方法はたった一つ。勝つ事のみ。
これは、敗者は死する真剣『死合』なのだから。
「……なるほど。ならば、俺に殺されるしかないな」
「アハっ。凄い自信だね! でも、私の方が貴方より強いかもしれないよ? そうなったらここで死ぬのは二階堂くん、貴方ね」
「確かに。俺は、十橋一子の実力を完全に把握した訳ではない。……だが、お前はこの俺に傷を付け、俺に不快な思いをさせた。俺は自分の命よりも、平穏と幸福を乱される事の方が何より嫌いなんだよっ!!」
スキル『竜巻』を発動。
俺を中心にして周囲に大風の渦が生まれた。コロッセオ内にある何もかもを大空高く吹き上げていく。
十橋は、竜巻に煽られる直前で再び影の中に潜りそこから離れ出した。
「……影に隠れて移動するスキルか。そして、この影の大王といい、お前は影に関したスキルが多い。そういう『職業』の持ち主って事か」
言ったそばから、影の大王が動き出した。
影の大王は、腕を上げて俺を押し潰そうと構えを取る。
「ツインパンチ」
ドドンッ!!
『一度』に『二発』のパンチが炸裂して、影の大王の胴体に風穴を開けた。
影の大王は、ダメージを負ったからか直後に消滅する。……どうやら見掛け倒しだったようだな。軽く蹴散らせた。
そしてこれで、奴の切り札の一つを潰せた事になる。
「さて。後は、じっくり料理するだけだ。どうせ奴は逃げられないんだからな」
俺は、粘着で絡まっていたナイフを外しながら十橋を探す。先程まであった影は、また何処かに行ってしまったようだ。
探索中も油断はしない。
どういうスキルの効果は知らないが、奴は俺にダメージを与える方法を持っているからな。気を抜いた瞬間に『グサリッ!』とやられたら目も当てられない。
「ボーンドッグ!」
「ワン!」
このコロッセオはかなり広いが、ボーンドッグが居れば見つかるのも時間の問題。俺はただ、油断せず確実に十橋を仕留めれば良い。
……そして、それは十橋も理解しているはずだ。
俺は奴の立場だったら、一か八かの賭けに出て奇襲を仕掛ける。例え勝機が薄くても、それしか方法がないならやるしかない。
俺にとっては、またとない好機だ。
(さあ、来い! 次にお前が近づいた瞬間、特大のカウンターをお見舞いしてやるっ!)
俺は、ゆるりとそのタイミングを待つ。
こうしている間にも、ボーンドッグは十橋の位置を探索していた。鼻を頼りに匂いを追い続け、少しずつ、だが確実に標的を見つけ出す。
そして遂に、動きがあった。
突然、地面から『影』が姿を現して俺の方へと高速で近づいてきたのだ。
(痺れを切らしたか!? だが、これで終わりだっ!)
一直線で向かってくる影に対して、俺は掌をかざす。
すると、影の中から何かが飛び出してきた。
出てきたのは……少女。
しかし、それはあの十橋一子ではなかった。
「プギャッ!」
「…………は?」
そして俺は、その人物に見覚えがあった。
体格は小学校高学年くらい。茶色い髪をツインテールにして、特徴的な羽とアームを付けている。今は、何故かゴスロリドレスを着ている男勝りな性格の少女。
そう。
それは俺の仲間、インセクトキッズの『コスモス』だったのである。
『本作を楽しんでくださっている方へのお願い』
下にスクロールすると、本作に評価をつける項目が出てきます。
お手数おかけしますが、更新の励みになりますので、ご存知なかった方は是非評価の方よろしくお願いします!




