立候補集会
「えっと、俺達はこの辺」
今日は選挙の開示日である1月3日。立候補するデイブの為にアルトゥル達が後援する“合衆国党”が野球場を貸し切り用意した立候補集会に出ていたのだが。
「……!?なんでアイツいんの?」
座ろうとした席付近。同い年の弟の隣に魔王が座っていたのでアルトゥルは同行していたパオロを問い質した。
「いや、知らんよ」
アルベルトと一緒に親しげに話している魔王にアルトゥルは警戒した。アルトゥルの実家でやったクリスマスパーティーにもアルベルトの隣にずっと居たし、パオロの話しでも週末にちょくちょく会っていた。
「何やってるんだよ!」
アルトゥルはアルベルトの頭を叩くと隣の席に座った。
「イッタ……。なんだ?アルトゥルか?」
目を少し細めアルベルトはアルトゥルの顔を見た。
「ちょっと此方に来い。……なんで彼女がそこに居んだ?」
アルベルトを通路に連れ出しアルトゥルは問い質した。魔王と公の場で会うな。アルトゥルは口癖のようにアルベルトに忠告してきた。一企業のトップ、それも軍を始め政府機関と取引がある企業のトップが国家元首である魔王と一緒に居るのはスキャンダルの種だった。
「同伴を頼んだんだ」
「何?」
「ああ、その。……判るだろ?」
「何がだ?」
アルベルトは視線を左右に振ってから、魔王の方を一度見てからアルトゥルに視線を戻した。
「この後、婚約を申し込む」
「……おい!?相手が誰だか判ってるんか!?」
魔王相手に婚約とか、正気の沙汰では無かった。オマケに前世は男だった事と妻子が居たことは公然の秘密だった。その事は勿論アルベルトも知っていたが、アルトゥルに問い質されると困惑したような表情で魔王とアルトゥルを交互に見た。
「何か有るの?」
「アイツは魔王だろ?」
「……え?」
魔王の方に視線を移したまま、アルベルトは即座に否定した。
「まさかぁー」
「あん?」
よく見ると、視線が僅かにズレていたのでアルベルトの目元を見るとかなり細めていた。
「お前……。もしかして目が悪い?」
「そうは思わないけど、なんで?」
よく見ると視線の先は魔王と話をしているドミニカだった。
「お前が見てるのドミニカだ」
「え!?見えるの?」
「むしろ、なんで見えねえんだ!10メートルも離れてねえだろ。……何時から目が悪いんだ?」
「物心が着いた頃からこんな感じだけど」
子供の視力検査など、この世界では殆どしなかった。そのせいでアルベルトの視力が弱い事に今まで気付かずにいたのか?果ては徐々に悪くなったのか?どっちかは判らないが予想外の事にアルトゥルは頭を抱えた。
思い返せば、子供の頃に父親に読み書きを教わった際、文字をずっと眺めていた記憶はあるが。
「全く、眼鏡作れ、眼鏡」
「えー!?」
「アホ、ドミニカとカエをこの距離で間違える方がヤベェっての」
親子程の身長差が有る2人を平然と間違える事にアルトゥルは危機感を覚えるが、アルベルトは気にしていなかった。
「てか、カエが魔王だって何で気付かないんだ?」
「……魔王とは会ったことは有ったけど。戦車や大砲のプレゼンの時だったし、顔を見てないんだ。それに匂いが違うし」
「匂いだ?」
人間よりかは鼻がいい人狼だが、そこまで匂いに頼って生活している訳ではない。アルトゥルは“そこまで目が悪いのか?”と心配になった。
「カエは何時も香水を着けてるんだ。何かよく判んないけど……」
「新聞とかに顔写真が載ってんだろ?」
「そんな見ないよ」
「ったく……」
集会の始まる時間が迫ってきた。これ以上アルベルトを問い詰めてる場合じゃなかった。
「言っとくが、魔王相手に婚約なんて馬鹿な真似はするな」
『デイビート、タッカー!』
司会がデイブの名前を叫ぶと会場の野球場に明かりが灯り、一斉に花火が打ち上げられた。
(おえ)
軽く吐き気に襲われたが、デイブは表情を変えずに会場に集った聴衆に手を振ると、楽隊が“ワシントン・マーチ”の演奏が始めた。
会場の聴衆も外で配られていた小さな星条旗を振ったり、バラ撒かれた紙吹雪に目を奪われているなど熱気に包まれていた。
「なんか派手ね」
「なんだって?」
ドミニカはアルトゥルの耳元で喋ったが聞き取れなかったようだ。ドミニカは今度は、アルトゥルの耳元で思いっ切り叫んでみせた。
「派手じゃない!?」
「うわ!?……なんでぃ!?」
ドミニカからすれば、前世のアメリカの選挙戦の様に大金を注ぎ込む選挙戦をするとは思っておらず、集会の規模に驚いた。
「どんだけお金注ぎ込むのよ!?」
「党の結党集会も兼ねてんの。派手に宣伝すればする程寄付が集まるから」
轟音が頭上からするので観客が見上げるとレシプロ飛行機が編隊を組みながら通り過ぎ、集会場の上空に星条旗の柄の赤、白それと青色のスモークを残していった。
「飛行機まで!?」
「“寄付金全部使い込む勢いで”って言ったかんな。まあ、こんなもんだな」
軍では飛行機を採用していない、魔法を使い高高度に上がれる飛竜の方が色々と便利だからだ。内燃機関の工作精度もそれ程正確ではなく、故障が頻発するためだった。
ただ、民間で飛行機の研究や運行は始まっており、今回の飛行機も“合衆国党”でチャーターしたものだった。
『ありがとう。ありがとう』
楽隊の演奏が終わるとデイブが演台から聴衆に手を降って応えた。
『私は、貧しい農家の家に生まれました』
「いきなり身の上話?」
パオロの一言にアルトゥルは短く答えた。
「最初だからな」
選挙用のポスターにズラズラと経歴を書いたりする事はできないし、ラジオで流したり新聞に書くよりも本人の口から言わせた方がリアリティーが増す。特に、デイブは人口の半分以上を占める農家出身なので効果は期待できた。
『両親も兄弟姉妹も夜明け前から働き、夜遅く家に帰る生活でした』
「アイツ何処出身だっけ?」
パオロの質問に同じ冒険者仲間だったショーンが答えた。
「ウルベル族だったよ。ほら、南部は小作農が多いじゃん」
『私は幸いにもアメリカ国民で、アフリカ系でしたがベトナム戦争従軍後、医者として働いた経験がありました。私は12歳で実家を出て、冒険者ギルドで医者をしながら家族に仕送りをしてきました』
「師団長、ちょっと」
警護に着いてる部下に急に呼び止められアルトゥルは振り返った。
『真面目な国民が税金に苦しめられ、子供達が学校に行けない時代は時代遅れです。終わらせるべきなのです』
「なんでい、今いいところなのに」
横目で魔王の方を見るとNISの捜査官に話し掛けられていたし、アルベルトも会社の部下に話し掛けられていた。
「第2師団とアルター人民軍地上軍が交戦しました」
「規模は?」
「まだ情報は。念の為第1軍から第20師団の戦車大隊が派出されるそうですが」




