解散総選挙
『戦争法条約関連の採決が間近に迫りました。現在も魔王様が議場で演説中であり』
アルトゥルがラジオのチューナーを弄り別のチャンネルに変えたがそちらも部族会議の内容を伝えていた。
『条約の批准に向けての採択は混乱が予想されており……』
『……戦争法の批准により、無差別的な戦争は過去の物になります。また、停戦に向けての交渉はコレ以上の戦争継続は』
「なんだかなあ」
魔王の演説を中継しているチャンネルに合わして聞き始めたが正直不安だった。
演説の内容は、玉虫色。どちらかと言えばポーレ族よりのハト派の内容だが世論が納得するとは思えなかった。
戦争法関連の4条約は議会で承認されるだろう。だが、停戦に向けての交渉の継続を議会は承認しないはずだ。魔王側は5つの条約を纏めて承認させるつもりだと予測されていたが、停戦交渉条約が原因で他の4条約も承認されない可能性が予測されていた。
「議会前広場より、停戦派が広場に入って来たそうです」
議場前広場にいる部隊からの報告を無線手が中継した。
「柵は越えてねえな?」
停戦派と継戦派のどちらも議会前広場でデモを行うため、警察が設置した柵が議場前の広場を分断していた。
「越えてないそうです。……継戦派も広場に入ってきました」
アルトゥルはデモの様子を中継しているラジオ番組がないか再びチューナーを弄り始めた。
『議会前広場にデモ隊が入りました。今、停戦派、継戦派、両方のデモ隊が議会前広場に入りました。現在の所、衝突などは起きる気配はありませんが、広場上空には軍の飛竜でしょうか?何羽も飛竜が飛び交う物々しい様子です』
万が一に備え、第3師団は警官隊の後方で待機しているが、先月のような暴動に発展しないように頭上を飛竜が飛び交わせ威圧させていた。
『……えー、番組の途中ですがここで速報です。魔王様は議会の解散総選挙を宣言しました』
「え?」
「うわ、マジか!?」
急な速報に指揮所にいる全員がラジオに目を向けた。
もしかしたら、選挙かもしれないと予想は出ていたが、まさか本当に選挙をするとは誰も思ってはいなかったのだ。
『魔王様は議会の解散総選挙を宣言しました。条約の承認は新議会に先送る形になりまして』
アルトゥルは大慌てでラジオのチューナーを先程の局に戻すと魔王が解散に向けての演説をしているところだった。
『議員の皆様方でも意見が割れており、国民に改めて信を問う必要が有ります』
議員達の拍手がラジオから流れてきた。少なくとも反対する議員は少なく、議場は熱気に包まれてるのは判った。
『只今の時刻をもって。部族会議の解散を宣言し、新憲法・新議会への移行手続きに着手するものとする』
魔王の宣言が終わると割れんばかりの拍手がラジオから鳴り響いた。
「議場前広場の様子はどうだ?」
解散総選挙となれば、デモ隊が引き揚げる可能性は十分に有った。アルトゥルは現場の様子を確かめるために無選手に聞いた。
「少々お待ちを……。一部参加者が議員の出待ちの為に議場に向かってるそうです」
「直ぐ出てくるのか?」
「いや、暫く出てこないんじゃないか?選挙の手続きがある筈だ」
パオロの予想だと、新選挙区への出馬手続きを済ませてから議員達が出てくるはずだった。
〈戦争法関連条約及び停戦交渉についての関連法案は全会一致で可決致します〉
打って変わって、アルター側の人民議会では与野党の議員全員が条約の批准に賛成票を投じ条約は承認された。
〈ありがとう、ありがとう〉
与野党の議員にアデルハルト議長は上機嫌に手をふった。
〈議長、ちょっと〉
外務担当の職員に耳打ちされると議長は議場から退出し、地下通路を通り外務省の建物へと向かい出した。
〈本当に解散総選挙を?〉
〈先程、魔王ツェーザルが議場で宣言しました。来年1月20日には新議会が開催され、新憲法に体制が移行します〉
外務省の地下会議室に入ると、人民軍の偵察局の局長と国家保安省の大臣が既に席に着いていた。
アデルハルト議長が会議室に現れたのに気付いた2人は慌てて起立し、アデルハルト議長が席に着くのを待った。
〈急な出来事だな〉
アデルハルト議長が着席した直後、人民議会に出席していた内務省の大臣、外務大臣が慌てて会議室に飛び込んで来た。
〈お待たせしました〉
2人が大慌てで席に座ると偵察局の局長が席を立ち、会議室の照明が落とされた。
〈既にご存知の通り、ヴィルク王国で魔王ツェーザルが新体制への移行を宣言いたしました。来月末にはヴィルク共和国が発足し共和制に移行すると考えられます。従来の1院制から変わり2院制へ、上院と下院が新たに設置されます〉
局長が合図すると会議室のスクリーンにスライドが表示された。
〈新選挙区は各18部族の支配地域を元に設定され、上院議員36名、下院は各部族の支配地域の人口を考慮し160名。制度としてはアメリカ議会を模倣しております〉
各選挙区で当選する可能性がある人物の顔写真がスライドに表示され、局長がそのうちの1人を指し棒で示した。
〈特にクヴィル族出身のアルトゥル・カミンスキー陸軍中将は前世ではアメリカ合衆国のロナルド・ハーバー上院議員として活躍しており、今回の憲法制定に影響力を持った人物だと予想されています。予想では上院議員として出馬すると思われます〉
〈前世ではタカ派の反共主義者として有名だったな〉
軍人上がりで強硬な発言が多かったのでアデルハルト議長も前世でハーバー議員の事は知っていた。
今回の選挙で当選すれば手強い相手になると安易に予想できる。




