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顛末の説明

「向こうは非武装地帯の設定とか提案してきたがマリウシュが断ってな」


 結局、魔王と2人きりで師団長公室に居ることになり、アルトゥルは会談の詳細を聞いた。


「場所は何処よ?」

「ティルブルクの東へ50キロの所に幅30キロ」


 アルトゥルは壁にかけてある地図を見て考え込んだ。


「占領地の半分しか戻んねえか」

「半分も帰ってくるなら妥当じゃないか?」


 魔王の言い分ももっともだった。占領しているアルター側が退くと言っているのならそれで十分だと。


「半分つっても、第2師団が前に突出した地域だ。おおかた、防御し難い地域だから手放して防御を固めるために手放すんだ。コレなら線路に近くなるから(おいら)達が攻め込んでも直ぐに応援と補給ができるから攻めにくくなる。それを見越してんだよ」


 ティルブルクまで伸びる予定の鉄道本線から更に非武装地帯の西側に枝葉のように鉄道支線が延びる計画が有るのは人狼側でも知っていた。


「それなら非武装地帯の西側を攻勢発起点にして大軍を送り込んでくる。東側に防御施設を造って対抗しねえと」

「マリウシュはそこまで考えてたと思う?」


 魔王に言われ、アルトゥルはもう一度地図を見据えながら考え込んだ。

「いや、考えてねえな。……どうせ、他の部族に舐められねえ様に妥協しなかったんだろ。暴動も起きてるし、間違いじゃねえが」


 アルター側に妥協したと世論に取らえられれば、今以上の暴動が起きてもおかしくなかった。

「ついさっきも騎兵隊がまた出動したよ。今度は発電所でデモだとかで。昼は駅前で暴動が起きて死者は出なかったが銃の乱射騒ぎが起きた」


「詳細は有る?」

「ああ、有るよ」


 騎兵隊のリーが纏めた報告書をアルトゥルは魔王に手渡した。


「報告書には書いてないが、ガイウス・マリウス陸軍学校の生徒が暴動に混じってたそうだ」

 暴動鎮圧前に銃撃が有り、病院に担ぎ込まれた重傷者の中に陸軍学校の生徒は居ないようだ。


「……調査は学校に任せる。その方が良いんでしょ?」

「ああ、そうして貰えるとありがたい」


 大っぴらに事件にするより、監督責任が有る陸軍学校に一切を任せるつもりでアルトゥルは話題にした。

 特に処罰する刑事罰も無い。おまけにデモ自体は合法。そんな状況下で生徒たちのを処罰するわけにもいかないからだ。


「なあ、情報部でも調べてるが。アルター側が煽ってるのか?」

 アルトゥルがいきなりそんな事を言い出したので魔王はゆっくりと顔を上げた。

 相手国を政情不安定化は破壊工作では常套手段だ。世論を煽ってデモや暴動、自国に都合がいい政権の成立など陰謀・謀略うずまく政治には付き物だった。


「ニュクスの話だとそんな動きはないそうだ。まあ、*モール(モグラ)共は勝手に動いてるかもしれんが」


 *モール:破壊工作や世論誘導をするために操られた現地要員。脅迫、買収、果ては洗脳などでモールに仕立てられるが、本人達は外国勢力に利用されているのに気付かない場合が多い。



「今回の会談のことを知らなかったのにか?」

 アルトゥルにそう言われ、魔王は一瞬キョトンとした。

「え、知って……」

 みるみる顔が青褪め、魔王は頭を抱え始めた。

「知らなかったの!?」

「そうみてえだけど。朝から電話にも出ねえで前線指揮所に戻った」


 口元を抑えたところから察するに、この魔王、またやらかしたな。どうにも油断するとポンコツぶりが炸裂するが今回のような大ポカは久しぶりだった。


「言いそびれてた!?てか、コシュカ王国から連絡きてなかったの!?」

「いや、詳細は知らねえよ。本人に聞けよ。明日辺り職務の引き継ぎするだろ」

「あ、それもそうか……」

 暫く黙った魔王は色々と言い訳を考えているのだろうか。5分ほど静かになったので、寝てないかアルトゥルは顔を覗き込んだりもした。



「それより、アルトゥルはメディア対策はどうしてるの?今度出馬するんでしょ?」


「出馬しねえっての!何度も言ってるだろ!2足の草鞋を履くつもりはねえよ」


 魔王にも言われたが、本当に議員に出馬するつもりは無かった。


「政党の集会には顔を出してるんでしょ?」

「誰から聞いた?」

「アルベルトから」


 同い年の弟からの情報だと聞き、アルトゥルは観念したのか理由を言い始めた。


「他の議員の手伝いだよ。(おいら)は出馬する気はねえての。てか、アルベルトに付き纏うな」

「別にいいでしょ、減るもんじゃないし。向こうから会おうって言われてるんだし」


 身分を隠して、同い年の弟と付き合っているのはアルトゥルからすれば心配事だった。弟を良からぬトラブルに巻き込むのはゴメンだった。


『師団長、海軍の駆竜艇が到着しました』

「ああ、判った」


 隣の部屋から魔王に瓜二つの人物が入ってきたがアルトゥルは敢えて無視した。


「では、頼んだ」

 魔王に瓜二つの人物はお辞儀すると部屋から足早に立ち去り、アルトゥルはようやく口を開いた。


「ったく。また、替え玉か」

「マスコミがしつこいんだもん。私だって羽を伸ばしたいし」


「あのなあ。今日は危ないんだから出歩くな。てか、外出禁止令も出てるんだぞ」

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