表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/235

暴動鎮圧

「前へ!」

 横一列に並んだ騎兵隊が通りを進む。騎兵と人馬の兵士で構成された部隊だが足並みを乱すこと無く5歩前に進んだ。

 騎乗している兵士と人馬の兵士はガスマスクを被り、更に騎兵が乗る馬にもガスマスクを被っていた。異様な光景だが、暴徒化したデモ隊の一部は騎兵隊への投石を始めたが騎兵隊は怯まず前進を続けた。


「前へ!」

 騎兵隊が再び5歩前へ進んだ。


 騎兵は徒歩の群衆に対し目線が高く、威圧感を与えられるので暴動鎮圧に効果的と言われる。今も整然と前進する事で暴徒を威圧し、暴徒の頭を冷やそうとしているのだが。


「構え!」


 投石が止む気配が無いばかりか、騎兵隊に向かってくるので、リーは棍棒を構えるように指示を出した。

 騎兵隊への発砲は無いが投石は激しくなり、ついに騎兵隊に殴りかかって来た。


「催涙弾、撃て!」

 人が居ない空間に向け後ろに控える小隊が擲弾筒で催涙弾を撃ち出した。ゆっくりと弧を描き、地面を2,3度転がると中から白い催涙ガスが噴出した。暴徒の1人が催涙弾を手に取り騎兵隊に投げ返してきたが、ガスマスクを付けている騎兵隊には意味なかった。





「騎兵隊は南側から通りを進み暴徒の鎮圧を開始しました。我々は北から挟撃するべきでは?」


 第3師団から派遣された鎮圧部隊は駅から北に数ブロック離れた地点で一度止まり、状況を確認していた。


「いや、駄目だ」

 部下からの進言をジェームズは即座に否定した。


「反対方向から挟んで将棋倒しが起きてもたまらん。暴徒は敵じゃない、家に送り返すのが目的だ」

 ジェームズは持ってたた地図に鉛筆で書き込むと部下達に見せた。

「東側から入って暴徒を威圧する。2方向から追い立てられれば、流石に諦める」


 発砲音や罵声が聞こえ始め、兵士達が駅の方を気にし始めた。

「銃弾の装填は、まだ指示していません。如何しますか?」

「そのままだ、発砲なんか出来るか。……出発だ!駆け足!」


 走るように部下に指示を出し、ジェームズは東側から近付き始めた。




「うわ、酷い」

 現場に着いたジェームズは開口一番本音を漏らした。


 投石が当たったのか、顔面から血を流し倒れる者。地面に散乱した前世世界の国旗類、現世の政党旗。全身を殴る蹴るなどされて地面に転がる者。


 先に鎮圧を始めた騎兵隊は暴徒を棍棒で殴り、催涙ガスや消火栓からの放水を始めているが、建物への放火が始まったのか火の手が上がっていた。


「ガスマスクを着けろ」


 兵士達にガスマスクの着用を指示するとジェームズは自分もガスマスクを着けつつ周囲を確認した。

 アルトゥルの予想通り、暴動が発生したが、実弾を使う段階か見極める必要が有った。

 正直、実弾なんか渡されてジェームズは迷惑に思っている。せめて空砲ならいいが、本格的な衝突が起きた際本来守るべき市民にかなりの死傷者を出す結果になるからだ。ジェームズは指示を出さずに事態の推移を見守り続けた。


「退き始めたか」

 完全武装の歩兵部隊が現れたからか、それとも放水と催涙弾に圧倒されたのか、暴徒は散り散りに逃げ始めた。

 

「負傷者を運ぶ、担架を持ってきて」

「了解」





「即時の停戦は同意しかねます」

 アルター側からの提案が有った停戦条件をマリウシュは即座に断った。

 アデルハルト国家評議会議長が提案した、現在の占領地をお互い維持した状態で、“即時の停戦”は条件が悪すぎる。


 停戦期間中にアルター側がティルブルク周辺の入植を加速され、領有を既成事実化される訳にはいかない。それに、軍事的にも望ましくなかった。現在アルター側が建設中の鉄道網が完成すれば、大量の兵士と兵器を前線に送り込むことが可能になる。そうなれば停戦期間終了後に工業化したアルターの兵士が大挙攻めてくるのは容易に想像できた。

 対抗措置として、現在第2師団が駐屯している丘陵地帯に大規模な要塞を築き、第3師団が担当する大森林にも侵攻を妨害するため要所にトーチカを設置し、橋も直ぐに爆破できる態勢を整えてあった。


「南岸地域一帯からの撤退、それが無い限り条件を飲めません」


「現在入植している住民を移住させるつもりは有りません」


 マリウシュの反論にアデルハルトも一歩も退かないので午後に再開された会談はカレコレ1時間平行線だった。


「軍事条約についても話し合いたいのだが……」


 人狼の魔王が口を開くとアデルハルトと隣の首相、更にはマリウシュにも睨まれた。


「生物、化学、核兵器の使用に関する条約、並びに核兵器実験に関する条約をこの場で結びたい」


 アデルハルトは隣の首相と何やら話し始めた。


「核といえば、ヴィルク王国では過去、プルトニウムの生産と爆縮レンズの製造を魔王城で行っておりましたね?」

「ええ、私が降臨する2年前だと聞いております。……現在我々は開発を継続していますが、無辜の民の頭上でソレを使うつもりは有りませんし、ソチラも同じでしょう?ですが、確約が欲しいのです」


「と、言いますと?」


「あなた方を信用しない者が多いのです。コチラが使う前に先に使用すると。核に限らずVX、サリンなどの化学兵器、天然痘や炭疽菌など」


 アデルハルト議長と首相の顔が強張った。


「心外ですな」

 首相が口を開く。

「あなた方が一方的にこの世界で核兵器を造っているではありませんか、それなのに造ってもいない我々が先に使うなど」


「私の誘拐にサリンが使われたと、捜査機関から報告がありました。あなた方が製造された物です。……もっとも襲って来たのは、あなた方の機関でないのは我々も確認してもいますが。此処に事件の詳細が、よければお持ちになって下さい」


 事件の捜査は途上だが、人狼の魔王は急遽ドイツ語に翻訳した事件の捜査ファイルをアルター側に渡した。


「あなた方の労働教化所から脱走した者が主犯になったと……、ご希望なら身柄をソチラに引き渡します」


 一通り目を通したアデルハルト議長は話題を元に戻した。


「我々も関係者を捕らえてはいますが、ソレについては後ほど話し合いましょう。軍事条約を結ぶとして、効果は?一方的に破られないとの根拠は?」


「残念ながら、軍の強硬派があなた方を信用していないのです。“アカの手先が先に仕掛けてくると”。軍事条約の存在を広く報道して互いの国民に周知させ宥めるのが目的ですよ。国民が監視者として、また、安心させるために条約を結べば、我々側の一部の強硬派も納得いたします」





「べっくしょ!ちきしょう!」

 アルトゥルは師団の指揮所で派手にクシャミをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ