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ニュース速報

「まもなく着艦します」


 人狼の魔王を乗せた駆竜艇は長浜上空を越え、沖合を航行しているコシュカ王国の巡洋艦への着艦態勢に入る。

 14ノット(約時速30キロ)で東進する巡洋艦の後方からゆっくりと近付く駆竜艇の艇長は後部甲板で光る巡洋艦の誘導灯を見定め、10メートル程まで近づいてみせた。


「時化てるな」


 着艦する航空機に艦がどれだけ傾いて居るか知らせる誘導灯が左右に大きく揺れていた。このまま降りれないことは無いが、激しく揺れる船体に叩きつけられ墜落する恐れもあるのだ。艇長は揺れが収まるタイミングを辛抱強く待つことにした。




「後部艦橋より、“駆竜艇が着陸態勢に入った”」

 前部艦橋に在る航海艦橋に駆潜艇が配置に着いた事が報告された。

「スタビライザー起動」

「スタビライザー起動」


 大型の巡洋艦の揺れが急に収まり、誘導灯も動きが収まった。

 船体に取り付けられたスタビライザーが揺れを抑え付けたのだ。



「動揺が収まりましたね」

「よし、降りるぞ」


 しばらく観察し、水平状態を保っているのを艇長は確認してから降下を始める。




 巡洋艦の後部甲板上には先に到着していたドワーフと人狼、コシュカ王国側の記者がカメラを構え、駆竜艇が降りてくるのを撮影し始める。

 着陸脚が艦に着くと推進機が止められ、甲板作業員が鋼索(ワイヤー)で駆竜艇を固定し揺れで甲板上で跳ねないようにするとタラップを掛け始める。


「降りられます」

 駆竜艇の側面ハッチが外から開けられると、魔王は席を立ち、ゆっくりと駆竜艇から降りるとフラッシュが焚かれた。


 記録映画用のカメラも回され、魔王が降りる様子を撮影していたが、係の士官が叫ぶと一斉に格納庫の方へとカメラを向け始めた。

「アデルハルト国家評議会議長です」


 巡洋艦の格納庫からアルター民主共和国の国家元首、アデルハルト国家評議会議長と首相等が現れたのだ。


「左が議長です」

 ドワーフの外交奉行に、自分から見て左に立つ方がアデルハルトだと紹介され人狼の魔王は歩み寄った。


「お出迎え有難うございます、アデルハルト議長」

 人狼の魔王とアデルハルト議長は固く握手を交わした。




『臨時ニュースをお伝えします。臨時ニュースをお伝えします……』

 第3師団内の自分のデスクに座りながらラジオを聴いていたアルトゥルは新聞から顔を上げた。

「なんでぇ、いいトコだったのに」


 毎週水曜日、朝8時半から地元ラジオ局がやっている連続西部劇ドラマを楽しみにしているが、今週は感謝祭前日の特別号だった。それが臨時ニュースで台無しにされ、アルトゥルは周波数を変えようとツマミに手を掛けた。

『本日、杉平幕府歴訪中の魔王、グナエウス・ユリウス・カエサル陛下が……』


 急に魔王に関する話題になったので、アルトゥルはツマミを握ったまま硬直した。


『アルター民主共和国のアデルハルト国家評議会議長と会談しました。繰り返します。本日、杉平幕府歴訪中』

『本日、杉平幕府歴訪中』


 師団内の一斉放送装置が作動し、師団内の建物や屋外に設けられたスピーカーからも臨時ニュースが流れ始めた。


「おい、ロン!大変だ!魔王とアデルハルトが会談した」

 軍医のショーンが部屋に叫びながら飛び込んできて、遅れて情報部のパオロが現れた。

「ああ、聴いてる……。全部の局で同じ内容か」


 人狼のラジオ局だけでなく、アルター民主共和国とドワーフのラジオ局も同じ内容を放送し始めたのをアルトゥルは確認した。

『5カ年計画は当初の予想を上回り』

「いや、マルキ・ソヴィエトは蚊帳の外だ」

 1局だけ、ソ連に加盟しているマルキ・ソヴィエトだけが通常の放送を続けていた。


『魔王、グナエウス・ユリウス・カエサル陛下はアデルハルト国家評議会議長、コシュカ王国魔王ユリア陛下、杉平幕府魔王ロキ陛下との4者会談を』

「アカは関係ねえのか?パオロ、なんか聞いてねえのか?」

「ああ、初耳だ。今日帰ってくるとばかり。……第2師団と部族議会の方には連絡を入れてる」

 予定では帰路に着いているはずが、魔王とアルターの元首が集まって会談など全く情報がなかった。魔王の職務を代行しているニュクスや人狼の部族が集まる部族議会の方で何か知らないか部下に確認をさせてはいた。




「いえ、知りません。……私には何も」

 一方の第2師団の司令部には全国から電話が殺到しており、運悪く電話に出たニュクスが対応にあたっていた。


「はい……はい……」

 相手は経済界の大物で、無下には出来なかった。丁寧に対応していたが、急な事態に相手は怒り心頭だった。唯でさえ、アルター相手に領土を失っているにも関わらず“呑気に交渉事など”と嫌味を言われたのだ。


「……はぁー」


 電話を切ったが直ぐに電話が鳴り始めた。

 別の部屋からも電話のベルが鳴り響いており、ニュクスは頭を抱えた。

「電話怖い…電話怖い…」

「師団長、ニュクス、大丈夫かい?」


 ランゲが様子を見に来たが、ニュクスはすっかり参ったのか耳を垂らしていた。

「もうヤダ、帰りたい」

「それは駄目だ」


 泣きついてきたニュクスをあやし始めたランゲだったが、此処に来る途中で他の部下にも助けを求められていた。

「ところで、ホントに知らないんですか?」

「知らないわよ!そんな事、一言も言ってないもん!」


 急に降って湧いた騒動だが、実の妹のニュクスも情報を一切持っておらず、報道で知ったのだ。人狼の領地全体でもハチの巣を突付いた騒ぎだが、アルター民主共和国でも大きな騒ぎになっていた。事前情報が一切無いのはアルター民主共和国も同じで、魔王と会談などそもそも前代未聞だったからだ。ニュース番組や新聞記事も2,3日前の出来事を党が検閲した後に初めて報道されるのが常だったが、今回異例の速報で国中がラジオを固唾を呑んで見守っていた。

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