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乗り換え

「わたっ!?」

 イシスを小脇に抱えたトマシュが降りたのは、整然と並べられた竹竿の上だった。


「ぐえっ!」

 抱えられていたイシスは顔面から竹竿の上に落ち、トマシュ本人も転がる竹竿に足を取られて派手に転倒した。


「アイタタ……」

「鼻いった……。どこに降りてんのよ!」

 跳んで来た建物よりも1フロア分低い建物に飛び移ったのだが。


「予想より、君が重かったからだよ……。太った?」

「この身体は体重が増減せんわ!」

 華奢な見た目以上にイシスが重いのが発覚したが、トマシュはドワーフの女の方に視線を向けた。

 向こうも並外れた身体能力なので跳んで来るのかと思ったが、ドワーフの女は予想外の行動を取った。


「伏せて!銃だ!」

 懐から44口径のデカイ拳銃を出して狙ってきたのだ。


「死ねどす!」

 発砲したドワーフの女は反動で転がって行った。

「へ?あ痛っ!?」

「イシス!」


 イシスは頭を抑えながら倒れ込んだ。




「引き揚げ命令とは、ふざけやがって」

 警部補は引き上げ命令を受けて部下を集め始めたが、内心は腸が煮えくり返るほど怒っていた。

「誰からですか?」

「警視総監からだ!『直ちに捜査を打ち切れ』とな!」


 捜査の継続を何度も願い出たが、聞き入れてもらえず、自分と部下の辞職までチラつかせられたのは心外だった。恐らく外交奉行辺りの差し金だろうが、あと少しで外国スパイを逮捕できるタイミングでの捜査妨害に怒り心頭だった。


 部下達がトラックに乗り込み始めた所で、銃声が鳴り響いた。


「なんだ?」

「銃声だ!全員出ろ!」


 警部補からすれば僥倖だった。


 “銃の乱射事件の捜査”を名目に一体を捜査し、ついでにスパイを捕まえられるからだ。




「イタタタ」

 後頭部を摩りながらイシスはその場にしゃがみ込んでいた。


「この距離で当てに来るんだ……」

 イシスの心配する素振りを全く見せず、トマシュは向かいのビルを呑気に眺めていた。最初の頃は色々と心配だったが、イシスは人並み以上に頑丈なので心配するだけ損なのだ。


「ほら、逃げるよ」

「うん……」

 人並みに痛さは感じるようで、イシスは涙目になりながらもトマシュの後を付いて歩いた。


「えーっと、河津飯店ってこっからだと」

 ビルから降りずに、直接屋上を経由して移動しようかとイシスは思案し始めた。


「あれだよ、あの派手な看板」

 デカデカと“河津飯店”と漢字で書かれていたが、イシスは漢字が読めなかった。トマシュが指差した先のホテルを見ると“どうやって行くか”悩み始めた。


「エルナが居るはずだし、合流しないとだしなあ」

「まあ、あそこあそこ……3棟飛び越えれば何とか」

 地上から目立つがドワーフの女にも追われているのでイシスは先を急ぎたかった。




「警官だ、お前は隠れろ!」


 大林少佐は警官隊が正面から来たので、港生を壁際に押し付けた。


「……行ったぞ。何だ?」


 引き揚げ始めた筈の警官隊が再び散り始めた。

 指揮系統がしっかりしている警察が上の命令を無視することはあり得なかった。


「少佐」

「おう、どうした?」

 警官隊の様子を探らせていた部下が大林少佐の元に駆け付けてきた。


「発砲です。誰かが銃を発砲したらしく、警官隊が犯人捜しのために再び展開を……。一旦、離れた方が」

 報告している間も、応援の警官隊を載せたトラック竜人街の奥へと進んで行った。


「銃の乱射事件として処理する為、応援要請も出していました」

「……戻るぞ。こい、港生!」




「乗り換えます、急いでください」

 新阜の貨物列車操車場に着いてから1時間以上車内で待たされたレフ博士一行だったが、突然カミルが現れ出るように促された。


「段差が有るので注意して下さい」

 乗り込んだ長浜では貨物の積み降ろし用にプラットフォームが設けられているが、操車場にはそんな気の利いた設備など無かった。並行して並ぶ複数の線路と編成替えの為に入線している大量の貨車で外からは何をしているのか見えなかった。

「向こうです、4つ先の車線になります」

 レフ博士達12人の物理学者は乗っていた貨車から飛び降りると慎重にレールを跨ぎならが操車場の中を小走りで移動し始めた。

 途中、車両の連結時に出る音が遠くから響いて来たことから、操業中なのが判った。


「博士、こっちです」

 先に無線機等を移動させていた軍曹が移動先の有蓋貨車から手招きした。

「直ぐに出ます、急いで」


 後ろから曹長とカミルが押し上げ、前は軍曹が引っ張り上げる形で物理学者10人を貨車に乗せたが突然列車の連結部分が一斉に音を立てた。


「動き始めた」

 貨車が前後に揺れ、一瞬静止したが貨車がゆっくりと前に進み始めた。


「さあ、早く」

「よいしょ」

 11人目の物理学者を何とか乗せ、最後の1人も転がすように貨車に捩じ込み、カミルと曹長も貨車に飛び乗った。


「ギリギリでしたな」

「ああ、危なかった」


 カミルと曹長が貨車の扉を閉めようとしたが、突然目が眩む程の光が差し込み遅れて襲ってきた風圧に吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた曹長は後ろに居た学者3人を巻き込む形で倒れ、カミルはそのまま貨車の反対側にまで吹き飛ばされた。


「少尉!曹長!」

「ああ、無事だチキショウ!」

「何とか無事だ。何が起きた!?」


 吹き飛ばされなかった軍曹が身を乗り出し、後方を確認すると、さっきまで乗っていた貨車が台車を残し吹き飛んでいた。


「爆弾です!乗ってた貨車がやられました!」


 近傍で爆発が有ったが、動き出した列車は指定された停車場所でしか止まれないので前進を続けたが、幾分速度を落とし徐行し始めた。


「閉めろ、姿を隠すぞ!」


 誰が爆弾を仕掛けたのかは判らなかったが、下手人が近くに居る事を考え、扉を締めてやり過ごそうとした。

「武器を」


 曹長と軍曹はカミルの指示で短機関銃をケースから出し、弾を込めると何時でも撃てる状態にした。


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