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魔王城陥落

「エミリア、無事か!?」


 祖父のヤツェク長老が騎士達と一緒に現れたが、一目見たエミリアは驚いた。


「御祖父様、その血は!?」

 ヤツェク長老の上半身は血飛沫が着いており、白髪頭と左耳は血で濡れていた。


「大丈夫じゃ、わしの血じゃない」

 避難するために移動していたヤツェク長老の所にも神聖王国の兵士が現れたが、騎士達と返り討ちにし逃げてきたのだ。


「上は神聖王国の兵士だらけじゃ、脱出するぞ」

「え、でも」


 まだ、神祗官の父親や神殿に務める母親や兄弟姉妹は現れず、部族長の息子マリウシュの家族や、侍女をしている友達も来ていなかった。


「此処も危険じゃ。神聖王国の兵士が転移門で城内に侵入してきておる」

 一緒に現れた騎士達は通路の途中で格子戸を降ろして、人が通れない様に通路を封鎖し始めた。


「長老、準備は出来ています」


 書庫の奥から人狼の兵士が現れ、ヤツェク長老とエミリア達を奥に案内した。


 文書が焼却され、殆ど空になった書棚の間を抜けると、鉄製の大きな扉が開けられていた。

「コーエン博士は先に脱出しました、後は長老達だけです」

「相判った……封鎖してくれ」


 戸惑うエミリア達は腕を掴まれ、扉の奥の階段を降りると背後から扉が閉まる音と、何か機械が作動する音が聞こえてきた。

「急ぐぞ、此処にも水を入れる事になっている」

 ヤツェク長老が示した先に、壁に空いた苔で薄汚れた注水口が見えた。



「あの、長老。父上達は……」

 石造りの長い下り坂を降りている最中、マリウシュが尋ねたがヤツェク長老は前を向いたまま答えた。


「侵入して来た神聖王国の兵士相手に戦ったが、最後は捕まったそうじゃ」

「捕まった……まさか、父上が負けるなんて。兄上も一緒に居るんですよ」


 マリウシュは信じられなかったが、ヤツェク長老は重ねて否定した。


「機械の兵士が居たのじゃ、それにやられたそうだ」

 通路の後方でまた扉がしまった聞こえ、水の流れる音が通路中に響いた。


「そ、それじゃ。南街に立て籠もって抵抗する訳で?」

 南街にも城塞と駐留する兵士が居り、更に南や東からの援軍が期待できた。そこから抵抗し、中洲に在るファレスキの元街と北街を取り返すのかと、マリウシュは思ったが。


「南街は落ちた。沖に神聖王国の艦隊が現れて攻撃してきたのじゃ」

「そんなっ!?」


 突然、頭上に光が差したので、ヤツェク長老と騎士達はエミリア達にその場でしゃがむように指示を出した。


「ヤツェク長老、お待ちしてました!」


 誰かが石造りの階段を降りて来た。


「リシャルド殿か、上はどうじゃ?」

 声の主である白髪頭の若い騎士は降りて来ると人数を確認した。


「兄さんの農場は無事です。ですが、南街の城塞は砲撃で破壊されました。あと、渡河中だったポーレ族の兵士が上流から来た河川砲艦に捕まりました」

「不味いな……。敵は来てるか?」


 河川砲艦の存在は完全に想定外だった。もしや、上流から敵の兵士が上陸しているのではと、ヤツェク長老は思い始めた。


「今の所は大丈夫です、ですが急ぎましょう」





〈魔王城内の原子炉は破壊されて居ます。資料の類も全て燃やされ、放射性物質も破棄されています〉

 制圧が終わった魔王城内を神聖王国の神官達が見て回っていた。神官と言っても、白衣姿に放射線測定カードを首にぶら下げた科学者の様な風貌だが。


〈製造設備の全容を知る者は捕まえられたのか?〉

 小型の黒鉛原子炉とウラン鉱石をペレットに加工する設備と思しき物は確認できたが、殆どが爆破されており全容が掴めなかった。


〈部族長と神祗官を捕虜にしました。既に国家保安省に引き渡してあります〉

 神官が足元に転がる黒鉛にガイガーカウンターを近づけた。


〈放射線は出ていないな〉

〈ああ、放射化していない〉

 ガイガーカウンターの針は僅かに振れたが、通常の黒鉛で振れる範囲内だった。もし、この黒鉛炉が使われていたとすれば、黒鉛からもっと放射線が出ているはずだった。


〈間に合ったと思うか?〉

 少なくとも、プルトニウムは作られていない。そう結論づけるのは時期尚早だが、核兵器開発の芽は潰せたと神官の1人は考えていた。


〈まだ判らん、この世界には魔法が有るんだ。もし、ウラン235を魔法で抽出していたら……〉

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