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港生宅

 薄暗い竜人街の路地を憲兵隊の大林少佐とニスルは歩いていた。竜人が良く着ている漢服姿の大林少佐は目立たないが、身長が頭一つ飛び出る大きさの人猫のニスルはかなり目立っていた。

 遊んでいた地元の子供や店先で麻雀をしていたお年寄り等は首元に刺青が覗くニスルの方に好奇の眼差しを向けた。


「賑やかですね」


 ニスル本人は、古今東西変わらない都市部の下町の雰囲気に上機嫌そうだった。


「ええ、のんびりしていて、意外と住みやすいですよ」

 襄王朝の苛烈な支配から逃げて来た竜人達が住むので、街中に掲げられた看板も殆ど漢語の看板だった。今世では竜人に生まれ、前世は大陸で軍禎として活動していた大林少佐もこの雰囲気にすっかり馴れていた。


 8階建ての雑居ビルに入ると大林少佐は階段を登り始めた。

「家は5階です。足元が悪いんで注意してください」


 何が入っているのか、大きな(かめ)や豆が入ったザルを横目に大林少佐は階段を登り始めた。

 後から建て増しされたのか、2階と3階の途中で階段の壁がタイル張りからコンクリートの打ちっ放しに変わり、階段の高さも微妙に高くなった。


「港生!你在吗?」


 ドアの鍵を3つ開け、大林少佐は家の中に入った。


 玄関付近はそれなりに片付いていたが、居間は脱ぎ捨てられた衣服や食べかけの食器がテーブルの上に散乱していた。


「……あらあら」

 客間なのか、家具が少ない寝室のベッドの上に絹製の女性用下着がながっていた。

(畳むように躾けたのにな)


 小さい事からイシスの物に間違いなかった。大方、トマシュに言われて渋々洗濯しといたが、畳まないで目立たない所に置いたのだろう。


「トマシュ君とエルナさんも居ません」

「你在吗?」


 玄関から誰か入ってきたのか。ドアを開けドタバタと足音が聞こえた。

「港生?……うわっ!誰!?」


 現れたのは大林少佐の双子の弟。港明(ごんみょう)だった。見知らぬ人猫の大女が自宅に居るので驚くのも当たり前だった。


「港明、港生見てないか?」

「っ!?ってなんだ、港令(ごんれい)か。びっくりさせんな」

 背後から双子の弟に話し掛けられビックリしたのか、軽く港明は飛び上がった。


「見てないよ。今朝、魔王カエサルに会いに行くって聞いてたから俺は仕事に行ったんだ。そうしたら警官が大勢来て港生を探してるって聞いたから逃げるように言いに来たんだ」

「警官が?」

 大林少佐は用心深く窓から外の様子を窺ったが、確かに警官隊が通りの建物際を隊列を組んで歩いていた。


「何も聞いてないが……。港生を捜しているのは確かなのか?」

「名前は出てないが、人相書きはアイツだは。また、余計な事をしたみたいだ」

「ねえ、コッチ来てない?」


 ニスルも窓の外を見たが、警官隊は3人が居る雑居ビルの入り口を取り囲みつつ有った。


「逃げるぞ」

「ほい来た……。って何処か行くよ?」


 港明が大林少佐にツッコんでる横で、ニスルはさっさと鳩に化け窓から飛んで逃げてしまった。


「えー!?誰よあの人!?」

「魔王カエサルの部下だ」

 隣の雑居ビルとの壁際に置いたタンスを引っ張りながら小林少佐は短く答えた。

「今日は此処から逃げるぞ」


 大人1人が何とか通り抜けれそうな穴の向こう側に木の壁が見え、大林少佐はそれをノックした。すると、椋川の木の壁が動きタンクトップ姿の竜人の男性が顔を出した。

「何だい?通るんかい?」

「ええ、2人」


 大林少佐は穴を潜ると酒瓶を渡した。

「おう、何時も悪いね」


 迷惑料代わりに、清酒を渡し。2人は男性の家を通り建物の外に逃げ始めた。





(出れないなあ……)

 自宅で大変な事が置きているのを知ってか知らずか、港生は未だに書棚から出れずにいた。

 外では警部補が書類仕事を始めたのかデスクや棚から資料を広げ始めたからだ。


「!?」

 突然、港生が隠れている書棚が空き、港生は息を飲んだ。

 警部補が手元に広げた紙ファイルに目を降ろしながら別の資料に手を掛けたので港生の存在はバレなかったが間一髪だった。そのまま警部補は書棚を閉じてデスクに向かった。


「なんだ?」

 警部補が声を上げたので、港生は今まで以上に耳を澄まし外の様子に注意を向けた。

「警部補!魔王カエサルの妹君イシスと恋人のトマシュが逃げました。追跡に気付き隠れたそうです」

「またか。やはり一筋縄ではいかんな……」

「……で?逮捕……」


 2人分の声と足音が遠くなり、物音1つし無くなったので港生は書棚の扉に耳を当てて人の気配が全く無くなったのを確認してから外に出た。


「暑い……」

 緊張していたのも有ったからか、港生は一気に汗をかいた。

「やっべ、1時間近く経ってる」


 デスクの上の時計で時間を確かめた港生はそのまま視線をデスクの上に移した。


「おお、在った在った!」

 デスクの上に置かれた茶色い巾着袋を手に取り、中に入っていた黒い小箱を手に載せた。

「中身は……無事だ。良かった……」


 中に入っていたのは小汚い黒い箱に似合わない小さな金印だった。港生は大事そうに絹の布に包み直し懐にソレをしまった。


「……っと!?」


 なんとなくデスクの上の資料に目を移すと、憲兵隊の制服を着た大林少佐の写真が目に止まった。

「アイツら結構調べてるな……」


 大林少佐の写真の下に

 ・前世の名前 大林治太郎 

 ・所属階級 旧帝国陸軍憲兵隊中尉

 ・享年 28歳

 ・現在の名前 劉 港令

 ・所属階級 陸軍奉行憲兵隊少佐

 ・年齢 22歳

 ・襄王朝への反乱歴あり


と書かれていた。


「港明兄貴と俺の事も調べてるな……。あ、イシスとトマシュの事も調べるんか」


 名前や簡単な経歴。電話を盗聴したテープの内容を書き出した物と実際に会話が収められた盗聴テープの番号。相関関係を示す資料など様々な捜査資料が有った。


「持ち出してやるか……」


 この資料を全部盗み出して燃やしてしまおうかと港生は一瞬考えた。

「いや、止めとこ」

 だが、そんな事をしたところで、資料を確実に全て廃棄できる訳でもないし、書いてある事実(と幾ばくの推測)は変わらない。それどころか変に特高警察を刺激して面倒になると港生は考え至ったのだ。

 港生は資料を元の位置に置き直すと、窓から外に出た。

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