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潜水艦

「追って来ないな」

 脱出に成功した戦列艦8隻とフリゲート艦4隻は陸地を左手に見つつ、南西のドワーフ領を目指していた。


 後方から迫っていた神聖王国の艦隊はファレスキの南東10海里(約19キロ)の位置まで追撃してきたが、突如反転し追って来なかった。


「艦長、浸水停止しました」

「了解」

 旗艦ケシェフは砲弾が2発船体に直撃したが、幸いにも過貫通したお陰で船底に穴が空いただけで済んでいた。


「よーい」

「よーい」

 艦尾では船務士と航海科員がクロノメーターを用意し速力を調べる作業をしていた。


「てーい」

「てーい」

 船務士の合図で浮きを結んだ縄を海面に流し込み始めた。

 縄には14.4メートルの間隔で結び目が有り、船務士が時計を読んでいる間どんどん繰り出されていた。


「停止」

「てーし。……26ノット(結び目)


「艦長、速力26ノット(時速約48キロ)です」

「了解」


 逆風の状態だが、魔術師が常に進行方向へ風を送り続けているので戦列艦は神聖王国の蒸気艦以上の速度を出していた。


「雲が多いな」

 提督は針路上の空に積乱雲が有ることに気付き海図を眺め始めた。

「迂回しますか?」


 波風も強くなって来たので、艦長も加わり進路の変更を検討し始めた。


「あまり沖に出過ぎて消滅するのは避けたいが、停泊出来そうな場所は……」

 停泊できそうな入り江や島陰を海図で探したが、突然見張員が叫んだ。


「右前方雷跡!近い!」

「……はぁ!?」

「面舵一杯!急げ!」




Torpedo(魚雷) treffer(命中)


 潜望鏡を覗く潜水艦の艦長は人狼の戦列艦が水柱に包まれ、爆散するのを確認した。

 2発目3発目も次々戦列艦とフリゲート艦に当たり、爆発の衝撃波が潜水艦の船体を叩くような音を立てた。

挿絵(By みてみん)

〈1番管、次に打つ。的針230、的速25、距離2000〉

〈1番管良し!〉

 艦長が水雷長に標的を指示し、それを聞いた水雷長はダイヤルだらけの機械を動かし、目標の針路速力と距離を入力した事を艦長に報告した。


1番管(Rohr eins) 打て(los)!」

打て(Los)!」


 艦首の発射管室から高圧空気が魚雷を押し出す音が聞こえ、暫くすると発射管室から報告があった。


Torpedo(魚雷) in wasser(射出)





「戻せ、取舵!之字運動!」


 魚雷が艦首を掠めたケシェフだったが、南側を航行していたフリゲート艦が爆発四散したので乗員に緊張が走った。


「魚雷で間違いないか!?」

「間違い有りません!北から雷跡が伸びてきました!」


 発見した見張員と艦長が転生者で前世でも海軍に居たのが幸いした。

 右方向からの魚雷に気付き、艦長が面舵を指示した事で艦の行き足が遅くなり、さらに艦首が右に逸れたので魚雷をギリギリで躱せたのだ。


「艦影は無いな、潜水艦か?」

 提督が双眼鏡で確認したが、水平線上に水上艦は確認できなかった。

「潜望鏡を探せ!」

 艦長が見張員に指示したが、潜水艦は襲撃時の僅かな時間にしか潜望鏡を上げる。見付けられるか判らない上に水中に居る潜水艦を攻撃する手段は無かった。


「正面!沈没中のリスィ!」

 船体中央で割れ、中央部から“く”の字状に沈む戦列艦のリスィが目の前に迫った。


「戻せ!面舵一杯!」

「もどーせー!おもーかーじ!いっぱい!」

 左に切っていた舵を中央に戻し、右に大きく切ったので、戦列艦ケシェフは慣性で左に大きく傾いた。




「浮く物を投げろ!」

 沈むリスィの乗員が海に投げ出されて居るのを目撃したケシェフの乗員達が、空の樽や木材と言った水に浮く物を溺れる乗員達に投げ渡した。


「ビィェリク回頭!A旗を揚げました」

 フリゲート艦の1隻が救助のために“潜水夫を下ろす”を意味するA旗を揚げ、リスィの方に向かい始めた。


「信号、“本艦はこの場を離れる”」

「はい、艦長」


「右前方魚雷通過!」


 鈍足の戦列艦に、艦を止めて救助する余裕は無く、この場を離れるしか無かった。





「な、何だ君達は」

 魔王城内の神殿で避難準備をしていた神祗官は急に現れた神聖王国の兵士と装甲人形に銃を向けられていた。


「神祗官か?」

「……そうだ」


 神殿内に居た関係者。殆どが神祗官の一族で、巫女見習いをしているまだ幼い姪っ子やエミリアの姉達や兄達も広い礼拝堂に集められ銃を突き付けられていた。


「原子炉は地下に在る物だけか?」

 神聖王国の兵士に聞かれ、神祗官は動揺した。


「何だって?」

「原子炉だ、プルトニウム製造用の」

 耳と尻尾を変に動かさない様に神祗官は意識したが、逆に動きがぎこちなくなり、傍から見ていると動揺しているのがよく判った。


「神殿の荷物に紛れてウラン鉱石を運び込んだ事は知っている。他に核の施設は有るのか?」

「知らない、その……原子炉なんて物は」


 兵士の一人が胸倉を掴んできた。


〈お前達の正体を知ってるんだ!何をしようとしているかもな!〉

 胸倉を掴んだ兵士は拳銃を抜き、銃口をコメカミに当ててきた。


〈プルトニウムだけか?ウラン235は!?ウラン濃縮をしているのか!?物理学者だったお前が知らない筈はないだろ〉

「私は……知らん」


 兵士が撃鉄を上げ、引金に指を添わせた。


 娘達が悲鳴を上げ泣き声が聞こえて来たが神祗官は答えようとしなかった。

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