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現地調査

「よし、良いぞ」


 爆発が有ったカエサリアのホテル。そこの地下に出来た空洞を調べるために、光石の投光器が馬に牽引されホテルの裏口に運び込まれた。


「足りると思おうか?」

 第2師団の兵士は心配になった。

 ホテルの地下室に通じる階段の途中から途切れる形で現れた空洞だったが、底の方に水が溜まっているのは錘付きのロープを垂らして判っていた。

「足りるさ、防空部隊が使う探照灯だ」

「だが相当でかい穴だ。地獄に繋がってるんじゃないか?」


 投光器として用意された物はレンズだけで直径が2ヤード(約1.8メートル)もある大型の探照灯だった。狭い階段を通り地下に移動させるのは不可能な筈だった。だが、空洞が工事中の地下鉄のトンネルを貫通する形で現れたので、すぐ近くの地下鉄工事の為に掘られていた立坑から昇降機で降ろし、トンネルから投光器を入れる事になった。


「デカイな。何千ポンド有るんだ?」

 対応した地下鉄の工事作業員が、投光器を降ろせるか気にして質問してきた。

「3千程度だ」

 約1.3トンと聞いて作業員は昇降機の制御盤に記載された制限重量の札を見た。


「それだけ降ろす。君たちは次のリフトで降りてくれ」

 昇降機は1.5トン迄は大丈夫だが、重量制限ギリギリなので人は一緒には降ろせなかった。




「魔王様を誘拐した襲撃者達と我々がケシェフで逮捕した密輸業者は同一組織でした。魔王様を連れ込んだトビー山脈の鉱山で採掘した瀝青(れきせい)ウランをビトゥフの運送会社に運び込んだ後、毎週火曜日に鉛の鉱石として貨物列車でケシェフに運ばれていました」

 FBI本部で魔王代理を務めるニュクスはFBI長官から報告を受けていた。


「ケシェフに運ばれた後は集積され、毎月20日に船舶部品として貨物列車でシェーランのラーガン造船に運ばれていました」

 プロジェクターで白黒の写真がスクリーンに映し出された。ツナギを着た人狼の男の遺体のすぐ横に短機関銃を持ったFBIの捜査官達が立つ様子や、血まみれでスーツ姿の人間と血溜まりに転がる薬莢、焼かれた書類等。右上に書き込まれた日付は昨日だった。


「昨日、シェーラン支局がラーガン造船へ捜査に入りましたが、重要書類は焼却され。従業員の一部は青酸を飲んで服毒自殺を」

 護送車に使う馬車の中で手錠を掛けられた容疑者達4人が口から泡を吹き倒れている様子が映し出された。


「逮捕者は?」

 ニュクスの質問にFBI長官が答える間、検死官が服毒自殺した容疑者の遺体を調べている様子が写った。

「残念ながら」


 容疑者は全員死亡、ラーガン造船に運び込まれた瀝青ウランが何処に在るのかを示す文書も手に入らなかった。


「プルトニウムに加工すると何キロに?」

「詳しい事は鉱山を調査し、鉱石中のウラン濃度を調べないことには」





「このウラン濃縮プラントは遠心分離機を用いまして、ウラン235とウラン238を分離いたします」

 吉田の精油所を視察していた魔王は随行員と別れドワーフ海軍の将校に施設の説明を受けていた。

 実際に原油からディーゼル油やガソリンを精製できる大型コンビナートだが、港町の吉田沖を埋め立てて造った広大な敷地に海軍が目を付け、地下にウラン濃縮プラントを密かに建設していた。


「フッ化水素を用いウランガス化した六フッ化ウランを……」

 とは言え、稼働できる状態では無かった。ドワーフ領内にウラン鉱山が見付からず、フッ化水素も実験室で精製するのがやっとだった。


「ウラン235とウラン238は同位体(アイソトープ)であり、薬品などに対する化学反応は全く同じです」

 白衣を来た科学者の説明を背広を着たドワーフ側の通訳が魔王に翻訳していた。


「この2つは僅かに質量に差があり、遠心分離機に掛けると重いウラン238は外側へウラン235は中心へと移動します」

「ドウゾ コチラヘ」

「コチラヘ」


 遠心分離機が並ぶプラントの奥に設置された制御室の壁に掲げられた図を科学者は指し棒で示した。


「この様に分離した六フッ化ウランを吸い出し、また別の遠心分離機へ。この様に何度も繰り返しウラン235の濃度を高め、原子爆弾に最適な濃度に成りましたら個体のウランに戻します」


「シャシントリマス」

「写真をお撮りします」

 ドワーフ海軍の制服を来た情報士官が写真を1枚撮った。

「もう1枚」





「滑るから注意してくれ」

 投光器を資材運搬用のトロッコに乗せ、トンネルを空洞に向け兵士4人がかりでゆっくりと押しながら移動を始めたが、トンネル内は水浸しだった。


「凄い臭いだ……何だ?」

 上でも薄々感じて吐いたが、昇降機でトンネルに降りると生臭い匂いが酷かった。

「磯の匂いだ」

 トロッコの前を歩く案内役の作業員は手に持った光石の懐中電灯をトンネル内に敷かれた鋼鉄製のレールに向けた。


「もうかなり錆が出て来てるだろ?1時間前に表面を磨いたんだが、どうもこの水は海水みたいなんだ」

 レールとトロッコの車輪が当たる部分が酷く錆び付いていたので、出勤してきた作業員総出で表面を削り油で磨き上げたが再び錆びつき始めていた。


「塩水じゃなくてか?ここから海までかなり離れてるのに」

 正確な距離は判らないが、カエサリアは海岸線から50マイル(約80km)以上は確実に離れていた。


「……それが……魚が居たんだ。イワシ(サーディン)みたいな」

「まさか」

 兵士達は耳を疑ったが、突然視界から作業員が消えた。


「っわ!?」

「おい、どうした!?」


 慌ててトロッコを止め、兵士は前方に光石の懐中電灯を向けたが完全な闇が広がり何も見えなかった。


「っぷ……。ここだ!」

 下から音がしたので懐中電灯を向けると作業員が枕木にしがみついていた。


「何があった!?」

「何も無い、空洞だよ、心配無い。……うっかり足を滑らせたんだ」

 兵士に両脇を抱えられ、作業員が引き揚げられた。大きな怪我は無いが、頭頂部の耳にも水が入ったのか、ヘルメットを取りしきりに頭を振って水を出そうとしていた。


「大丈夫か?」

「ああ、驚かせて済まない。……昨日は地面が在ったんだが……崩れた様だ」

 コンクリート製性のトンネルの柱に書かれた番号を確認し作業員は言葉に詰まった。

 昨日、自分の目で確認した時より10メートル程手前で地面が無くなっていたからだ。


「投光器を5ヤード後ろに下げて用意しろ。それと、異常を感じたら直ぐに避難するぞ」


 危険だが、調査しないで戻る訳にはいかず、指揮官は部下に指示した。地表部分が崩落する危険が有るのか、調べない事には此処に来た意味は無かった。


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