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国家評議会議長

『外交奉行発表−』


 『11月21日杉平ニュース第27號』と表示され、左上に“SHK”と小さくロゴが表示された。


 薄暗い部屋の壁にカール・マルクスの肖像画が掛けられ、分厚いカーテンで閉められた窓際にはアルター民主共和国の国旗が置かれていた。


『11月20日、ヴィルク王国の魔王グナエウス・ユリウス・カエサルを乗せた列車が新阜(しんふ)、中央駅に到着。幕府大老、茶和(さな)次郎大平に出迎えられました』


 ドワーフの儀仗隊整列する駅のホームに止まった列車から小柄な魔王が降りると、軍楽隊が一斉に演奏を始まった。両国の旗を振って歓迎する子供達の前を魔王が歩き、首相に当たる杉平幕府の大老と握手した。



〈魔王チェーザルはトビー山脈で一時的に誘拐されたが無事だった。カエサリア付近で起きた爆発との因果関係は無いそうだ〉

 隣に居る男の報告を聞き、アデルハルト国家評議会議長は頷いた。


〈誘拐はファシストが?〉

〈ああ、人民軍や秘密警察(シュタージ)の報告は一貫している。矛先を党でなく人狼に向けて、関係を拗れさせようとしたようだ。軍とシュタージに一斉摘発を命じた。君の周囲は安全だが〉


 アデルハルトは手を上げて発言を妨げた。


〈なあ、シュルペ。常に反革命分子を監視して摘発もして来た筈だ。何故見逃した?〉

 人民軍地上軍大将の制服を来た若い男は少々バツが悪そうだった。

〈見逃してない。察知出来なかっただけだ。偵察局でもシュタージでも、ましてや人狼の公安当局も察知していない〉


 人狼側以上に盗聴や密告を活用し、徹底的に反革命分子を摘発してきた。国家を跨いで活動しているとは思えなかった。


〈活動の軸足を人狼側に移してた可能性は?〉

〈チェーザルを誘拐した奴らは人民軍の兵器を使っていた。21Kライフルに装甲人形が12体。人民公社で製造され人民軍地上軍に確かに納品された物だ〉


 最低でも人民軍が関与している証拠だった。だが、魔王の誘拐などアデルハルトもシュルペは承認していなかった。となると、シュタージが独断で武器を提供した可能性が有った。


〈そうか、判った。徹底的に調べてくれ〉

 この時の為に、アデルハルトは親友のシュルペを大将に任命していた。転生者でないシュルペは社会党に忠誠心を持たず、党を牽制する役目を与えていた。


〈だが、これ以上国民を締め付けてもいい結果になるとは思えん。摘発はしてないが、軽微な違反が増えてきている。このままでは後戻り出来なくなる〉

 急激な社会主義化の影で、王政を懐かしむ声が多いのも事実だった。そして、体制に馴染めない者の心の隙間に付け込むように全体主義者(ファシスト)がカルト的な人気を得てテロを企てていた。

 国民の口を篏した所で、結局は反発されるだけだ。政府や党関係者の中枢でも昔の自由な空気を懐かしむ者が居るのは事実だった。


〈少しの辛抱だ……〉

 アデルハルトが席を立つと、壁際に立っていた秘書官に映写機を片付けるように手で合図した。



〈今日は家に来い。エリカが会いたがってる〉

〈ああ、いいけど〉

 そして、アデルハルトは個人的に付き合いがあった。

 アデルハルトの妻はシュルペの妹だった。

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