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装甲人形

「この棚は全部燃やせ、一切資料を残すな」

 魔王城地下の書庫では、コーエン博士が棚に収納している文書を燃やすように神官や僧侶に指示していた。


「博士、試験炉を爆破する準備が整いました」

 爆薬を設置していた兵士が、爆破をするかの最終確認をコーエン博士に求めた。


 コーエン博士は書庫の奥に設置された窓を覗き込み、眼下に鎮座する四角い構造物を眺めてから爆破の指示を出した。

「お願いします」


 眼下の構造物はウラン鉱石からプルトニウム239を造るための黒鉛炉の試験炉。

 前世で核物理学者だったコーエン博士が指揮を執り、この異世界で原子爆弾を製造するための実験施設の一部だった。


 コーエン博士が窓から離れると、兵士達は導火線に火を着け試験炉がある区画から離れ始めた。


 しばらくすると、鉛で覆われた壁の向こうで爆発音が聞こえ試験炉が爆破されたのが判った。


「コレで良いんだろうな……」


 試験炉も爆破され、ウラン鉱石から抽出したポロニウムも川に投げ捨て、ガイガーカウンターもスレッジハンマーで叩き潰した。

 今世で続けてきた実験は全て破棄され原子爆弾開発は0に……ではないが、理論レベルに留まるだろう。


「あんな物は生まれてくる必要はない」


 巨大な昇降路に山積みにされた書類が燃えるのを見ながらコーエン博士は呟いた。





「うぐぅ!?」

 短剣を構えたマイヤー部族長に心臓を一突きにされた神聖王国の兵士は、目を見開いたままその様子を信じられない眺めていた。


「Hinlegen!」

 他の神聖王国の兵士達は前装式ライフルや銃剣で応戦しているが、短剣や壁に掛かっていた調度品の斧や槍で襲い掛かってきた人狼の兵士相手に苦戦していた。


「皆殺しだ!一人とて生かすでないぞ!」

「応っ!!」


 刃が入っていない調度品の大斧に身体を真っ二つにされる者、偶々近くにあった椅子で殴られ、下顎を吹き飛ばされる者。瞬く間に神聖王国の兵士達を肉塊に変えつつ人狼の兵士達は彼等を追い詰め始めた。


「Feuer!」


 通路に追い詰められた神聖王国の兵士達が3列12人、前列は膝立ちし後ろ2列は立った状態で前装式ライフルを一斉射したが、返り血塗れの人狼の兵士達はそれを空中で掴むか、剣や斧といった持っている得物で弾いてみせた。


「Ein Monster(化け物だ)!」


 誰かが叫ぶと、神聖王国の兵士達は一斉に逃げ始めたが、1人襟首を掴まれ後ろ向きに引き倒されると、首を踏み抜かれ頭がもげ落ちた。


 神聖王国の兵士達からすれば部族長を始め側近がここまで強いのは全くの予想外だった。


 ポーレ族のマイヤー部族長を始め側近の多くは冒険者上がりで、空高く飛ぶ竜種や一つ目巨人(サイクロプス)を倒した事がある強者揃いだった。彼等からすれば、小銃から出てくる銃弾程度は止まって見えるのだ。




〈人狼に押されている!装甲(Panzer)人形(Androide)を直ぐに転移してくれ。違う、A(アントン)O(オットー)じゃない。急いでくれ!〉

 神聖王国の兵士達が逃げ込んだ雑貨庫から声が聞こえたので、人狼の兵士達はドアを蹴破り中に入った。


〈クソ、早くしてくれ!〉


(無線機か?)

 指揮官と思しき人間の男が四角い箱に向かって叫んでいるのを部族長は横目に見つつ、銃弾を装填しようと槊杖を銃口に突っ込む兵士の顔面をぶん殴った。


〈来たぞ!下がれ!〉


「マイヤー、転移門だ!」

 部族長と親しい、指揮官級の兵士が床の変化に気づいた。

「離れろ!」

 白く魔法陣状に光りだしたので、転移門だと直ぐに理解が及んだが、何が出てくるのか判らないので部族長は距離を置くように指示した。


「っ!」

 光る転移門の中に大きな甲冑姿の騎士の様な物を目撃したが、次の瞬間大きな機関銃の銃口をこちらに向けた。


「ヤバい!」

 咄嗟に部族長が叫ぶと、狙われた兵士は大急ぎで避けたが衝撃で体勢を崩した。


「ぬぁ!?」

 前装式のライフル以上の速度と質量で撃ち出された銃弾は直撃こそしなかったが、掠めた事で兵士の身体に痛みが走った。流石に、あの銃弾を正面から受け止めるなど、人狼の兵士達には不可能だった。断続的に乱射される機関銃から逃れようと、人狼の兵士達は雑貨庫の中を逃げ回った。


「もう1体居るぞ!」

 そして、機関銃持ちの何かに気を取られている間に、もう1体、2メートルも有る大剣を持った何かが転移して来た。

 遅れて転移して来た方は、剣を構えると真っ直ぐ部族長の方へ向け駆け出した。


「っ!」

 部族長は持っていた大斧で大剣を弾き返したが、直ぐに甲冑姿の何かがそのまま突進してきた。大斧を構え直す時間が無かったので、部族長は甲冑の腹を左足で蹴り、距離を維持しようとした。


「こいつぁ、驚いた。機械だ!」


 兜の目の部分は記憶にある異世界のカメラの様にレンズが動き、各関節もモーターや油圧シリンダーにより動いていた。


 神聖王国が開発した装甲(Panzer)人形(Androide)。魔術工学と異世界の技術が融合した機械仕掛けの戦闘用オートマタだった。


 装甲人形は腹部に当っている部族長の脚を掴むと思いっ切り部族長を振り上げた。


「あっ!クソ」


 そのままの勢いで部族長を地面に叩き付けると、石で出来た地面は凹み石材の破片が空中を舞った。


「マイヤー!?」

「生きてるよ、畜生!」

 部族長は地面に身体が半分埋まった状態で、左の足首を掴む装甲人形の右手首に自分の右足で思いっ切り蹴ってみせた。

 比較的脆い関節部分を蹴られ、装甲人形の右手首は部族長の左足首を掴んだまま、右腕からもげた。


 すかさず、部族長は起き上がると装甲人形の胴を思いっ切り殴り付け、装甲人形は完全に止まった。


 機関銃を持っていた装甲人形の方は、回り込んだ兵士に背中を殴られ、地面に倒れた所を追討ちされそのまま動かなくなっていた。


「まだ来るぞ!」

 だが、転移門からは続々と装甲人形が現れ、部族長達に襲い掛かってきた。

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