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魔王確保

〈あーっ!〉

 アセチレンタンクの爆発で襲撃者達は更に追い詰められた。サリンの前駆物質が入ったタンクまで破裂し空中に飛散したのである。可燃性のイソプロピルアルコールを頭から被った襲撃者達が4,5人火に包まれ。メチルホスホニルジフルオリドを浴びた者は防護服が溶けるなど被害が広がっていた。

 手の空いている者がハロン消火器を噴射し始めたが、2つの前駆物質が混ざり合い新たにサリンが発生しておりそれが混乱に拍車をかけた。


〈人狼共が外から攻めて来た、時間切れだ〉

 最早手に負えないのは明白だった。万全を期した筈だったが、こうなってしまってはしょうがなかった。

装甲(Panzer)人形(Androide)を起動しろ!〉


 鉱山内は視界が殆ど遮られ、何かが襲い掛かって来る状況下で襲撃者達は装甲人形を起動させようとし始めた。最後に一矢報いれるか判らないが、戦力を全部出して脱出する腹積もりだった。

〈何体出します!?〉

〈全部だ!出せる奴は全部起動しろ!〉


 装甲人形の操作員がA4サイズの石盤を触ると、装甲人形の起動画面が表示された。起動可能な装甲人形は4個小隊、12機だった。


〈1個中隊出します!〉


 正規の手順では、装甲人形を格納している輸送用のケージから外してから起動する事になっていた。だが、ケージを開けケーブル類を外す作業は30分近く掛かる。ケージを壊す形になるが、緊急起動させる事になった。


 油圧ポンプの起動音が響き、金属製のケージが(ひしゃ)げる音を上げながら装甲人形が動き始めた。膝立ちの状態で収納されている装甲人形が強引に立ち上がるからだ。


 一際大きな破断音をたてケージが弾け飛ぶと、装甲人形は完全に立ち上がり付属の15ミリ機関銃を手に周囲を警戒し始めた。

 すぐさま、砂煙の向こうから拳大の石が物凄い勢いで飛んで来て装甲人形1体の胴体に当たり、装甲人形は倒れた。胴体前面に大穴が空き、倒れた装甲人形は完全に沈黙したが、他の装甲人形は石が飛んできた方角に銃口を向けた。


〈伏せろ伏せろ!〉


 装甲人形は敵味方の識別を出来るが、銃口を一斉に動かした装甲人形が胸部に埋め込まれた射撃警報を鳴らしたので、襲撃者達は射線に入らないように壁際に避けるか地面に伏せると、装甲人形達は一斉に射撃を開始した。


〈逃げるぞ〉

 鉱山の奥に別の出入り口が複数あった。其処から逃げ出すしか無かった。

「……ぬぅうあああ!」

 砂煙の向こうから小柄な人影が叫び声を上げながら飛び出して来た。装甲人形が放った弾幕を器用に掻い潜り間合いを詰めると、集団の真ん中に陣取る装甲人形の懐に飛び込み、剣で装甲人形を両断して見せた。


〈ツェーザルだ!〉


 襲撃者達は砂煙から飛び出して来たのが一目で魔王だと判ったが、防護服無しで平然と動ける理由が判らなかった。

 他の装甲人形が銃口を向けたが、魔王は飛び跳ねるように近付き、剣を振り上げると銃の機関部を切断し返す刃で装甲人形の右腕を上腕部分から切り落とした。


〈離れろ!巻き込まれる!〉


 魔王が倍以上の大きさがある装甲人形の脚を払い、他の装甲人形に向けて蹴り飛ばすなど大暴れしているが、それ以上に危険が迫っていた。

 装甲人形の一体が肩部分に備え付けられた擲弾筒を発射し、何かが空中に射出された。


「S-mine!」


 対人用に装備されたSマインだった。素の状態でも体格に恵まれている亜人種が魔法で体力を底上げし、装甲人形を素手で(・・・)破壊する為、標準装備されていた。





「Hands up!Hands up!」

 鉱山の入り口に集まっていた襲撃者達にシークレットサービスが短機関銃を向けると、襲撃者の1人が拳銃を抜いた。


「He have a gun!He have a gun!」

 肩を撃ち抜かれ、襲撃者の1人は倒れたがそれが切っ掛けで動ける襲撃者達が逃げ始めた。


「マジかよ」

「おい、止まれ!」

 流石に武器を持たない状態で逃げる襲撃者達を撃つ訳には行かず、シークレットサービス達は面食らった。崖を下る者、稜線沿いに逃げようとする者、鉱山に逃げ込むか山を登って逃げようとする者など、3方向に散った。


「おい、追うぞ」

 そんな中、元NY市警の刑事だったシークレットサービスの1人が後を追い掛け始めた。

「止まれ、ゴラァ!」


「待て待て……って」

 魔王の身柄の安全確保が第一の筈が、いつの間にか大捕物になった。


「犯人より魔王様だろ」

 後に控えてた親衛隊の大尉がシークレットサービスの課長に詰め寄った。

「判ってる、判ってる。お前ら着いてこい」

 犯人を追わなかった部下4人を連れて課長は鉱山の入り口に向かった。





「第31竜騎兵大隊を出す。ああ、ジェームズ達を乗せてく」

 第3師団の指揮所では、師団長のアルトゥルが部隊の緊急出動準備に追われていた。北方の前線で不測の事態が起きた時、竜騎兵に空中強襲部隊を乗せて現地に急行するが、南のトビー山脈まで進出するのは想定してなかった。代わり映えしない大森林の上空を正確に飛べるベテラン竜騎兵が先導する必要があった。


『海兵隊の連中、揚陸艇で出ちまった。急がねえと出遅れるぞ』

「判ってら。竜騎兵の準備に時間が掛かるんだ。こちとら機械じゃねえんだ」


 電話口でパオロに文句を言われたが、飛竜の調子を見て準備する必要が有った。


「ちょっと、ロン」

 ショーンが詰め掛けてきたが、アルトゥルは右手で制した。

『そうは言うが、揚陸艇が気醸(きじょう)を終えてるんだ』

「んなこたぁ判ってらぁ。もう切るぞ!……何でぇ!?」


 特に用事がない筈のショーンが通話を妨げてまで話し掛けて来たので、何か有るのは判った。

「ちょっと来てくれ」

「あん?」

 だが、指揮所では話せない内容だとは思わず、指揮所を出ようとするショーンを一瞬目で追ってから席を立った。


「あそこじゃ駄目か?」

「執務室まで来てくれ。ちょっと……」

 地下から階段を上がり2階の執務室に入ると居る筈の無い人物が居た。



「ちょっと、待てぇい」

 一目その人物の顔を見た瞬間、アルトゥルは右手で目を覆い、回れ右して廊下に出た。

「何で居るんだ!?」

「知るかよ。ついさっき僕の執務室の窓から入って来たんだ」


 アルトゥルが廊下から執務室の中をゆっくり覗き込むと件の人物は呑気に紅茶を飲んでいた。


「この事は誰かに言ったか?」

「いや、誰にも言ってない。此処に移動してる間に見られてない限り大丈夫じゃないかな?」


「誰にも見られてないよー」


 中に居る人物に言われ、アルトゥルはショーンと目配せした。


「……何で此処に居るんだ」

 アルトゥルとショーンは執務室に戻ると扉を閉めた。

「ドワーフ領に行ってる筈だろ?」


 アルトゥルに問い質され、カエは首を傾げた。


「もう報道されたの?」

 見た目通り、10代前半の少女の様な口調でカエは答えた。


「2時間前にシークレットサービスが“コード87”を無線で報せて来た。“魔王が誘拐された”とな。今、うち(第3師団)も含めて関係機関が総出で居場所を探してる」

「え?」

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