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連絡

「無線はどうだ!?」

 魔王が乗った客車と切り離され、坂の下で止まったシークレットサービスの車両ではモールス無線で関係機関へ連絡を取ろうと通信士が電鍵を叩いているが状況は芳しくなかった。


「駄目です。電波が山に遮られるようで、超短波(VHF)はどの局とも繋がりません」

 車両の見た目に差異を付けない為に、長距離通信に長けた短波以上の周波数を出せるアンテナは取り付けられておらず、短距離用のVHFアンテナしか無線機に繋がっていなかった。


短波(HF)アンテナを展張しろ。それと通信線が使えないか調べろ」

 指揮官は予備の長距離通信用の短波アンテナの用意を指示するとともに、線路に沿って走っているモールス通信用の電線と電話線を調べるように指示を出した。



「向こうは何してる?」

 同乗している新聞記者を食堂車に集め、情報が外に漏れない様に処置を取った親衛隊の指揮官は外でシークレットサービスの様子を見ていた部下に尋ねた。


「慌ててアンテナを伸ばしたり、電信柱に登ったりしてます」


 ケーブルドラムと長い梯子を列車から出し、ケーブルアンテナをドラムから引っ張り出すと梯子の先にケーブルの先端に碍子を挟んで接続してから梯子を掲げ始めた。


「伝令ツバメを持ってないのか?」


 親衛隊の方では、ビトゥフの親衛隊支部に伝令ツバメで連絡を済ませていた。


「電話も持ち出して……おいおい、勝手に電話を繋いでるぞ」

 交換台にまで繋がれば、通話は出来なくはないが。


「しょうがない、教えてやるか」




「おーい、ビトゥフには伝令ツバメを出したぞ」

 親衛隊の指揮官に言われたが、シークレットサービス達は作業を続けていた。


「カエサリアには連絡は取れたのか?」

 シークレットサービス側の指揮官が列車から降りて来た。


「いや、第一報の手紙を伝令ツバメに渡してビトゥフの支部に向けて放っただけだ。カエサリアには支部から中継して貰う」


 流石に伝令ツバメを飛ばすのに距離が有るので、一番近いビトゥフまで飛ばし、その先は電話や電信で伝えるつもりだった。


「そうか、こっちはカエサリアの本部と直接連絡を取りたいんだが」

 短波(HF)帯の受信だけなら家庭用ラジオと大差が無いので問題ないが、送信用のアンテナは大掛かりな物が必要だった。


「直接連絡する必要があるか?」

「魔王様が連れ去られたんだ、カエサリアからも応援を喚ばなければ」


「電話、繋がりました!」


 ドワーフ・人狼間の国際電話の1回線を勝手(・・)に間借りする形になったが、なんとかビトゥフの電話交換台を経由し、カエサリアのシークレットサービス本部に電話が繋がった。


「失礼」


 親衛隊指揮官はシークレットサービスの指揮官の後ろ姿を眺めていたが、車内でシークレットサービスの局員達が短機関銃や散弾銃で武装しているのに気付いた。





「ニュクス様、ご無事で何より」

 FBI本部の裏口から入ったニュクスをFBI長官が出迎えた。

「幸い、死者は出ませんでした。ですが、連れ立っていた幕僚達は未だ治療中です」


 FBI長官が先に歩き、廊下の途中に設置された歩哨が2人立つ扉まで先導した。


「心中お察しします。……爆弾テロの情報は此方には入って来ていませんでした」

 歩哨がドアを開け、そのまま廊下を進み角を右に曲がるとエレベーターが5台設置されたエレベーターホールに出た。


「それは私達も同じです。兄への暗殺計画というのは?」

「ケシェフで人身売買組織のアジトに踏み込んだ捜査官達が発見しました。それと、別の諜報活動も」





「コード87だ。ああ……応援を回してくれ」

 一般の電話回線なので、誰かが聞いているか判らないため、シークレットサービスの指揮官は魔王が連れ去られた事を意味する“コード87”を本部に伝えた。


『87?108じゃなくてか?』

 普段から護衛を撒いて行方を眩ます事が多い魔王だったので、本部の人間は逃げた時のコード108か聞き返した。

「87だ。ああ、初めてだから信じられんかもしれんが」


 スーツの上に防弾チョッキを着込み、軽機関銃やショットガンを携えたシークレットサービスの局員が車両から降り、列車が降って来た坂道を登り始めた。


「今から局員を捜索に向かわせるが……。詳細は暗号無線で送る」

 短波用の送信アンテナも準備が終わり、暗号無線が使えるようになっていた。

『了解。だが、こっちもテロが起きて人員を割けるか……』

「テロ?何があった?」

『……カエサリアの市街地とガイウス・マリウス陸軍学校で爆発が。……確かか?』


 電話口の向こうで話していた相手が、誰かと話し始めた。

『ラジオ放送は聴けるか?アルターの国際放送だ』

「ラジオ放送だ?」


 指揮官は近くに居た部下に声を掛けた。


「アルターの国際放送で何か放送してるらしい。周波数を合わせろ」

「了解」


 外に運び出されていた短波無線機の受信周波数をアルターの国際放送に合わせるとアナウンサーの抑揚のない声が聞こえてきた。


『……ゲンとティルブルグで起きた爆発での死傷者の情報は入っておりません。現在、国家保安省が捜査を進めており』

 北のアルター領内で起きた爆発についての速報だった。


「向こうでも爆発テロか?カエサリアの爆発はアルターの仕業じゃ無いのか?」

『判らんが、速報で事件を伝えるぐらいだ。向こうはコッチが犯人だと思ってるかも』

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