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戦列艦の逃走

合戦(かっせん)準備急げ!」


 錨地に錨を降ろしていた戦列艦では魔王城からの光信号で敵の襲来を知った乗員達が大慌てで大砲の準備を始めていた。


「北端に居るビトゥフをその場回頭させて先に撃たせろ」

 提督が北端に錨泊している戦列艦“ビトゥフ”を速やかに動かすように命じた。


 戦列艦は艦首に2箇所、艦尾に2箇所ずつ錨を降ろしていた。艦首側の錨を揚げ、艦尾に錨を降ろしたまま艦に乗っている魔術師が帆に風を当てる事で向きを変えることは出来なくはなかった。


「北街に当たりませんか?」

「その時はその時だ、今は時間が惜しい」


「北より艦影!蒸気艦です!」

 メインマストの上に居た見張員が甲板上に叫び、士官達は頭上を見上げた。


「蒸気艦だと?」

 提督は船尾楼の右舷側に移動し水平線を眺めた。


「何処だ!?」

「向こうです!」

 メインマストの上に居る見張員が指差した先。他の戦列艦のマストの隙間から黒煙を上げながら近付く黒い影が見え、提督は首にかけていた双眼鏡を覗き込んだ。


「駆逐艦に……巡洋艦!?」

 逆風の中、波浪を押しのけ複縦陣で近付く艦隊が双眼鏡で確認でき、提督は目を疑った。

挿絵(By みてみん)

「敵艦より信号!」

「読んでくれ!」

 提督の位置からは他の艦の帆が邪魔をして見えにくいので、見張員に光信号の内容を読み上げさせた。


「“……ヴィルク海軍へ、ヴィルク海軍へ、速やかに停船し砲門を閉じよ”」

「拿捕するつもりか」


 敵艦隊の意図を知った提督は、周囲の戦列艦に目を移し最後に甲板上で作業を続ける部下達を見た。


「如何なさいますか?」


 艦長が指示を仰ぎに来たが、提督は暫く考えている間に煙が最初に上がった魔王城の北側が爆発した。

「ま、魔王城の武器庫で爆発!」

 見張りの報告を聞いて提督は決断した。


「全艦出港。南西のドワーフの領海に向けて逃げるぞ」

「了解。……出港用意!」

 相手は速度が有る動力汽船、魔法で風を操れるので帆船にも機動力は有るが砲撃で撃ち負けるのは明らかだった。

 艦長の指示で出港を告げるラッパが吹かれ、乗員達が一斉に帆を広げ始めた。


「巻き揚げる必要はない、錨鎖を切れ」

 艦長は航海士に錨を棄てるように指示した。





 北から迫る巡洋艦の戦闘指揮所では、人狼達の戦列艦が錨鎖を切り、一斉に動き始めるのに気付いた。


Ruder()Steuerbord() .Volle(両舷) Kraft(前進) voraus(一杯)

Jawohl(了解),Admiral(提督).Ruder Steuerbord!Volle Kraft voraus!」


 提督が座乗する巡洋艦から面舵指示の光信号が発せられると、先頭を行く駆逐艦が右へ回頭を始め、砲塔を戦列艦に指向し始めた。



「敵艦回頭!距離6千!」

 戦列艦の乗員達の多くは、錨を棄てて動き始めた事で他の船で見えなかった神聖王国の艦隊をこの時初めて見た。


「右舷砲用意!」

 砲術士官が叫ぶが、敵駆逐艦が艦首の単装砲を発砲し始めた。


 大きな風切り音を響かせながら、駆逐艦が放った砲撃は戦列艦の手前に落ち、大きな水柱が立ち上った。


「撃てー!」

 戦列艦も負けじと側舷の砲を一斉射したが、こちらは殆どが途中の海面に落ちて届かなかった。


「届きません……」

「撃ち続けろ、まぐれ当たりがあるかも知れんし、煙で隠れられる」

 提督の言う通り、人狼側の戦列艦は黒色火薬を使っているので、一面白い煙が広がり視界は悪くはなっていた。



「魔王城の基部からも火災!」

 提督が振り返ると、後から煙が出始めた南側を上回る勢いで、魔王城の基部部分から煙が上り始めた。

「地下に火を放ったな……魔王城に詰めていた連中が一斉に逃げ出してくるぞ」

 魔王城からの脱出は地下道を通り南北の郊外に出るか、川か海に逃げる事になっていた。


「信号だ、“海上に敵艦隊。突破不可能”と送れ」

 近くに居た航海科員に信号を送るように命じ、提督は改めて指揮下の戦列艦の動きに注意を向け始めた。



 駆逐艦からの砲撃は砲門数が少ないからか、飛んでくる砲弾は少なく、直撃を受けた戦列艦は居なかったが。


「敵巡洋艦発砲!」

挿絵(By みてみん)

 回頭を終えた巡洋艦の連装式の旋回砲塔と側舷の単装砲が一斉に射撃を開始し、北端を航行する戦列艦ビトゥフに砲弾が直撃した。


「ビトゥフ、轟沈!」

 積んでいた火薬に誘爆し、戦列艦ビトゥフが爆発四散した。


「危ない!」

 爆発四散したビトゥフの船体やマストが破片となり、他の戦列艦に襲い掛かってきた。


 船体に大穴が開く戦列艦も有れば、マストを折られ帆を引き裂かれ速度を落とす戦列艦も出た。


「間隔開け」

「取舵!」

「とーりかーじ!」

 破片で生じた負傷者を救護しつつ、各艦は感覚を開け始めたが神聖王国の艦隊は容赦なく砲撃を続けた。

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