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艦隊対円盤

「左、吾妻が上がってきます」


 箕島を先頭に単縦陣を組み時計回りに大きく旋回しつつ、黒竜と戦っていた艦隊は雲から浮かび上がった吾妻を発見した。


「取舵、追従するぞ」

「とーりかーじ!」


 箕島艦長の指示で回頭を始め、後続の駆逐艦も続いた。



「吾妻より赤外線通信。“第5戦速。高度1万5千につけ”です」

「両舷第5戦速。上げ舵10度」


 艦長は指示を出した後、航海艦橋に通じる内線の通話器のスイッチを入れた。


「副長、艦橋で操舵を行え」

『“艦橋で操舵を行え”副長了解』




 頑丈なアクリルガラスが嵌められた窓に囲まれ、見晴らしが良い航海艦橋に居た副長と環境要員は、艦の操舵を何処でやっているかを示す表示灯が“CIC”から“航海艦橋”に切り替わると操縦桿や計器が動くか確認を始めた。


「操舵切り替わった」

「戻せ。面舵」

「おもーかーじ」

 外を飛ぶ黒竜から放たれた火炎が艦橋の外に当たったが、艦内に被害は無かった。





『敵艦隊上昇中。高度8千』


〈現在高度2万、頭を抑えてます〉

 計器を見ていた副操縦士が現在の高度を読み上げた。


〈先行部隊の状況は?〉

 通信士は磁石を付けたクリップに挟んでいたメモを手に取った。


〈黒竜は半数程撃破されました。それと飛行空母が1隻敵巡洋艦と衝突。艦載機諸共墜落しています〉

〈他の飛行空母は?〉

〈敵艦隊の進路上で待機しています〉


 操縦席のデジタル時計に並んで表示された、敵艦隊との会敵時間を確認してから機長は指示した。

〈よし、攻撃開始を指示しろ〉

〈了解〉





「高度1万」

 船務士が高度を伝えている間も、吾妻の船体に火球が当たったのか微かに揺れた。

「黒竜は未だついて来るか?」

「残り20程。周囲に居ます」


「下部主砲、三式弾用意良し」

 砲術長が船体下部に設置された3基の連装砲、第2、4、6砲塔から対空砲射撃の準備が出来た事を艦長に報告した。


「下部主砲、交互打方。うちーかた始め!」

「下部主砲、交互打方。うちーかた始め!」

 艦長の指示を砲術長が復唱し、砲術長は射撃盤のトリガーを引いた。


 今まで黒竜の攻撃で生じた振動に比べ大きな振動がCICに響いた。艦隊から距離を置き、周囲を旋回している黒竜を狙って対空砲弾を放ったが命中することは期待していない。あくまで、牽制の為に砲撃していた。



「黒竜相手ならどうってこと無いな」

 後檣、飛竜の厩舎の真上に在る後部指揮所から上空を視ていた一等兵曹が呟いた。

 4人配置された、4畳程の後部指揮所の天井は楕円形のアクリルガラスが嵌め込まれており、見張り用の大型双眼鏡や測距儀が備え付けてあった。


 警戒していた対空ミサイルの攻撃は無く。黒竜に乗る魔術師が放った火球は巡洋艦の船体どころか、駆逐艦や駆竜艇の装甲すら貫けなかった。


「だが、着いてこられると面倒だ。上見ろよ、あんな高いところに居るぞ」

 サングラスを掛けている士官が太陽の方を指差した。


「ずっと太陽の中に居やがる。こっちは1万近くにまで上がってるのにな」

 高度計は9千500メートルを超え、既に1万メートルに迫っていた。


「飛竜は魔法で空気を纏うらしいっすよ。だからその気になれば緑竜も2万まで行けない事は無いらしいっすよ」

 同期が厩舎で緑竜の世話を担当している若い上等兵が地平線を眺めながら答えた。ここの配置では一番下なので、無電池電話のインカムを右耳に着け、送話器を首から下げていた。


「へぇー。U-2みてえだな」


『直下より飛翔体!』

「え!?」

 艦内全体に通じている無電池電話の回線で誰かが叫んだので上等兵は驚いた。


「どうした?」

 異変に気付いた士官が直ぐに上等兵に尋ねた。

「飛翔体です!」

『取舵一%&+P 飛翔体、突っ込んでくる!』


 恐らく戦闘指揮所の航海科員が内線で喋っている最中に、誰かが割り込んだのか通話の音声が乱れた。


「突っ込んでくるそうです!」


 軽い衝撃と共に船体が何かに叩かれる音が断続的に響き、回頭を始めた影響で船体が左に傾き始めた。

 直ぐに、後部指揮所の左舷側を何かが通り過ぎ、落雷のようなけたたましい音を立てながら白い雲を一筋残して行った。


「外れたミサイルか!?」

 士官が叫んだ直後、2体目3体目が通り過ぎ一等兵曹が叫んだ。


「戦闘機だ!コメートみたいなロケット戦闘機だ!」





〈飛行空母の艦載機が敵艦隊と交戦開始!〉


 ロケット戦闘機からの“突撃信号”を受信した通信士の報告で機長は指示を出した。


〈全機散開、戦闘機部隊を援護するぞ〉

〈了解〉




「敵はロケット戦闘機だ!上空に回った!」

 後部指揮所で士官が防空指揮用の専用通信機に叫ぶ横で近くの高射装置が大急ぎで回転し、測距儀が上に向くのに合わせて高角砲も同じ方向に砲を追従させた。


「的速500近い!」


 高角砲の調定が未だ済んで居ないが、旋回の終えた20ミリ機関砲と9ミリ機銃が上空に向け弾幕を張り始めた。



「敵機急降下!」


 二等兵曹の報告を聞き見上げた士官が叫んだ。


「*猿回しだ!身体を固定しろ!」


*猿回し:高所作業で使う安全帯の事。


 上空の戦闘機の機首部分から発砲炎が見え、曳光弾が伸びた。後部指揮所近くの高射装置から後部指揮所に掛けて銃撃が降り注ぎ、アクリルガラスが砕け散った。


「うわあぁぁ……!」


 安全帯のフックを手摺に着けるのに手間取っていた上等兵が空気と一緒に吸い出されそうになった。


「……!……っ!」

 慌てて手を伸ばした一等兵曹が上等兵の腰に手を伸ばし安全帯を掴んだ。


 直ぐに二等兵曹が緊急時用の酸素マスクを自分の口に掛け、上等兵を引っ張るのを手伝った。


『無事か!?』

 後ろから手を伸ばし、一等兵曹に酸素マスクを着けた士官の声が酸素マスクに内蔵されたインカム越しに聞こえてきた。

『何とか』


 後部指揮所内の気圧が下がり、吸い出される空気が無くなったので、3人掛かりで上等兵を指揮所内に引き込んだ。




「くそ、速えな」


 駆竜艇1号が急降下を始め、ロケット戦闘機を追おうとしたが、あっという間に距離が開いた。


「吾妻の前に出るぞ。近付く奴に弾幕張れ!」


 追い付けないのであれば、近付いてくる敵機の妨害をする他無かった。他の駆竜艇も艦隊の周辺に遷移し始めた。


『艇長!艦隊の右方向、何か居ます!』


「確認しろ」

 艇長は駆竜艇の艦橋右舷側に居た兵曹長に確認させた。


「!?何だアレ!?!?」


 手に持っていた双眼鏡から一度目を離し、兵曹長は再び覗き込んだ。


「UFOです!円盤が空を飛んでます!」

「何ぃ!?」




「後部指揮所は1名重傷。第6高射装置は5名戦死、負傷2名、行方不明2名です」

「右舷、第3居住区与圧低下!現在、封鎖処置中」


 比較的装甲が薄い場所に浴びせられた機銃掃射やロケット弾の攻撃の被害報告で戦闘指揮所は混乱していた。


「敵機が高速で高角砲が捕捉出来ません。現在、弾幕射撃で対応しています!」

「新たな敵機!円盤状の航空機が右方向から接近!」


 被害報告に混じり、船務士が円盤の目撃報告を叫んだ。


「武装は!?」


「円盤底部に大型砲!副砲も4基有るそうです!」




〈一斉射開始〉


 機長の指示で艦隊に指向出来た連装砲塔3基が一斉に発砲した。


〈外したぞ!よく狙え!〉

 お互いが高高度を高速で移動するの影響か、隊長機の1斉射目は全弾、吾妻と後続の駆逐艦の間を通り過ぎた。


〈3番機の砲撃が敵駆逐艦に命中〉

 通信士の報告を聞いた機長は3番機の居場所を確認しようと周囲を見渡した。


〈アイツ近いな〉

 3番機が駆逐艦の1隻と1キロ程の距離を保ちつつ並走していた。一応は駆逐艦や巡洋艦の主砲に照準されそうになると、急に針路や高度を変えてはいるが、機銃弾が容易に当たる距離だった。


〈ですが、砲弾の数を考えれば肉薄すべきかと〉

 そもそも、アルター民主共和国の建国記念のパレード(式典)に出るために待機していた円盤に積まれた砲弾は少なかった。高射砲部隊が副砲と同じ85ミリ砲を装備していたので、何とか砲弾を調達できたのだが、各砲塔40発程度しか無かった。


〈そうだな……〉


 再び眼下の雲の中から上昇してきたロケット戦闘機を見ながら機長は決断した。


〈敵艦隊の進路上に出るぞ!用意は良いな!?〉


 85ミリの対空砲では決定打を与えることは出来ない。より強力な打撃力をもつロケット戦闘機を援護するために肉薄することにしたのだ。

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