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情報漏えい

「明日の一面記事は差し替えだ!」


 イスゲル政治部長が手を叩きながら政治部のデスク内に号令をかけると記者達は一斉に驚いた顔を見せた。


「差し替えですか!?」

「何の記事に!?編集長の許可は!?」


 明日の朝刊は政治部が一面記事を担当することになっているが、内容は停戦交渉についてだった。それを差し替えると聞いて記者達は驚いたのだ。


 現在進行している、停戦交渉以上に重要な記事があるのか?と。


「編集長にはこれから許可を取りに行くが、恐らく許可は下りるだろう。内容は軍が開発中の原子爆弾についてだ!」


 原子爆弾の一言に記者達は再度どよめいた。原子爆弾や原子物理学についての本や理論についてはこの世界でも出版されているが、軍が開発していることは記者達も知らなかったからだ。


「資料と記事の草案は纏めてある、コレをもとに記事を作ってくれ。判らないことはコーエン博士に直接聞いてくれ」


 そう言い残し、イスゲル政治部長は政治部のデスクを飛び出すと編集長のデスクへと向かった。





「んあ!?」


 ジリジリと赤い電話が鳴ったのでアルトゥルはベッドから飛び起きて、サイドチェストの上の赤電話の受話器を取った。


「もしもし!?」


 慌てて受話部を頭頂部の耳に押し付けると送話部に向かって叫んだ。


『師団長、緊急事態です!』

「なんでぃ、藪から棒に」


 部下の声が微かに震えているのにアルトゥルは気付いたが、いつもの調子で電話に向かって話した。


『エドガー・コーエン博士がカエサリアタイムズに駆け込みました。現在、CIAとFBIが博士の身柄を確保すべく建物を見張っていると』

「……っ!なにー!!!」


 急にアルトゥルが叫んだので隣で聞き耳を立てていたドミニカが驚いて上半身を起こした。


「何を話したか判るか!?」

『内部からの通報によると政治部に駆け込んだとしか。それと、政治部の記者達が一斉に動いているそうです』


「魔王様には報告は!?」

『確信は持てませんが、上がっているはずです』


「……今からそっちへ向かう」

『判りました。そちらに迎えをやります』


 受話部を電話器の上に置き、電話が切れるとアルトゥルは静かに立ち上がった。


(マズい事になったぞ……)


 核兵器開発の総指揮はアルトゥルが執っているが、科学者側の責任者であるエドガー・コーエン博士が新聞社に情報を漏らすとは考えておらず、完全に寝耳に水だった。


「アナタ?」

「出掛けてくる!」


「出掛けるって。今から?」


 ドミニカが時計を見ると時刻は夜の11時を回っていた。


「ああ、緊急の案件だ」


 核開発の事は妻のドミニカにも言っていなかった。

 アルトゥルは大急ぎでクローゼットに向かうと、軍服に手を掛けた。





 デスクの上の電話が鳴り、魔王はゆっくりと受話部を持ち上げ電話に出た。


「もしもし?」

『CIA長官のエーベルです。魔王様、緊急事態です』


 相手はゲルダ・エーベルだった。

 盗聴されていない赤電話が鳴ったので、“大概緊急事態だろうな”と魔王は内心思いながらも、頭頂部の耳に押し当てた受話部に耳を傾けた。


『エドガー・コーエン博士が新聞社カエサリアタイムズに駆け込んだと、部下から報告が』

(ん!?)


 核開発の科学責任者のエドガー・コーエン博士が新聞社に駆け込む。

 魔王は報告を聞くと固まった。


『その直後から政治部のデスクで動きが有ります。状況から考えると核開発計画がリークされた可能性が高そうです』

「……何処まで漏洩した?」


『まだ判りません』


 コーエン博士は科学者の責任者では有る。だが、情報流出の可能性を鑑み、コーエン博士を含め科学者全員、計画の全体像を知る者は居ない。


『如何しますか?』


 新聞を発禁にすることも可能では有るが、魔王は暫く考えてから口を開いた。


「コーエン博士の身柄の確保だけ図ってくれ。それと、関係者を集めてくれ」

『了解しました』


 言論弾圧することは魔王は考えていなかった。だが、情報を漏洩したコーエン博士から色々と知りたい情報があった。


 何処まで話したのか?誰に情報を漏らしたのか?


 実際に記事になるであろう内容はだいたい重要な所を要約しただけのものが多かった。記事にならなかった事で何か重要なことを漏らした可能性も考慮せねばならなかった。


 それと、誰に何を言ったのかも重要だった。

 今回、カエサリアタイムズへの情報漏えいだけが明るみに出たが、他にも漏らしている可能性も捨てきれなかった。

 特に、アルター側への情報漏えいが気がかりだった。


 過去に建設中のプルトニウム生産炉が攻撃を受けたことから、誰か内通者が居るのは考えられてきた。それが、コーエン博士だったのでは?

 それを知るために、少々話をする必要があった。

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