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休憩時間

「出てきたぞ」


 会談が行われていた会議室の扉が開かれ、イシス達が出てきたので記者達は大慌てで取材を再開した。


「交渉開始から30分程経ちましたが今、使節団長のイシス様が会議室から出てきました」


「イシス様!交渉の結果は!?」

「何が話し合われたのでしょうか!?」


 ラジオ局のアナウンサーがラジオニュースの実況をする横で、新聞記者達がイシスに質問を投げかけたが、イシス達交渉団は控室の方へと歩き続けた。


「イシス様!」

「交渉は順調です」


 イシスが短くそう言うと、そのまま控室の中に入ってしまった。


「……どういう事だ?」

「たった30分だぞ」


 予定では停戦交渉に2時間掛かる筈が、たったの30分で終了したので記者達は互いに顔を見合わせた。


 停戦交渉が決裂したのかと思ったが、イシスが「交渉は順調です」と言ったので、そうではないと理解できたが。





『終わったよー!』

「……はぁ!?」

「……え!?」


 執務室で妹のニュクスと待機していた魔王は、イシスからの念話に驚いた。


『終わった……!?始まったばかりだろ!?』


 魔王は慌てて机の上に置かれた時計に目を移すとラジオで臨時ニュースが始まった。


『えー、中継です。……今、イシス様が交渉が行われている会議室から出てきました。交渉終了の様です。退出された際、「交渉は順調です」と言葉を残されております。繰り返しお伝えします。交渉終了の……』


 ラジオの臨時ニュースが耳に入るや否や、魔王とニュクスの耳と尻尾は怒りでわなわなと膨れ上がった。






『この、馬鹿もんがー!!!』

『お馬鹿ー!』


「うわ!?」


 魔王とニュクスから怒りの念話が届き、イシスは驚きのあまり尻尾を立てた。


『何、急に!?』


 いきなり怒鳴られ、イシスは不服そうに質問したが、すぐさま魔王が質問で返してきた。


『貴様ー!何を話した!何を話したんだ!?』

『何って?』


 魔王が何を言っているのか、イシスには最初理解が及ばなかったが、すぐさまニュクスが補足した。


『どんな感じで交渉を進めたの?ちゃんと要求とか吹っ掛けたりした?』

『え?うん。言われた通りの条件で手を打ったよ』


『は!?』

『ふぁ!?』


『え?』


 魔王からは怒りの感情が、ニュクスからは哀れみの感情が押し寄せてきたのでイシスは身構えた。


『言われた通りの条件だと?』


 怒りの度合いの割に静かに語り掛けて来たので、イシスは観念し慎重に言葉を選んだ。魔王は本気で怒っているのだ。


『非武装地帯の設置や大量破壊兵器の使用禁止、捕虜の交換手順について話し合って今日の交渉は終わりで、夕食会まで休憩で』


 半分支離滅裂な答えに魔王は頭を抱えた。


『それで、合意したのか?』

『うん。明日、合意文書に署名して持って帰るよ』


 イシスに任せた交渉内容の殆どが短時間で決まってしまった事に魔王は顔面蒼白になった。


 交渉が難航している姿を国民……。特に継戦派に見せる必要があったのだ。


 イシス達、交渉団を送り込んだ事が失敗だと思わせないために。

 双方がギリギリの交渉を行った結果出た合意であれば、内容はどうであれ議会で承認されやすくなる。そう考えていたのだ。


 それがどうだろうか?イシスが短時間で交渉を終わらせてしまった。

 おそらく議会では継戦派が反発し承認されない可能性が高まった。


『えっと。揉めないためにコチラから条件を提示したし……』

『待って、教えた条件を提示したの?』


『うん、揉めるの嫌だったから』


『嘘……』


 ニュクスもイシスのまさかの行動に言葉を失った。


 事前にアルター側が合意したがっている条件はイシスに教えたが、それで条件を提示するとは考えていなかった。

 アルター中枢にニュクスが忍び込ませたスパイの情報を元に判明した条件なだけに、誰がスパイだかバレることだけは避けたかったのだ。


 あくまでアルター側とすり合わせた上でその条件で同意する。それが交渉だった。いきなりコチラの条件だけを一方的に提示して終わりなど交渉ではないし、相手が求めている条件を提示するのは以ての外だった。


『でも、カエ達に指示された条件で合意できたんだし……』


 イシスの言い分としては、“魔王が求めている条件で合意に至ったのだからそれで良いのではないか?”と言うことだった。


 そもそも、アルター側が求めている条件でコチラも合意し、停戦条約に続く平和条約の交渉への弾みにするのが今回の交渉の目的でも有った。

 停戦交渉が問題なく終われば次回の交渉が早期に実現する可能性も高くなる。

 決して、本人が面倒臭いからさっさと交渉を切り上げた訳ではない。つもりだった。


『そうだが、駆け引きもなしに合意に至るなど』

『私が言った条件に擦り寄らせていくのが交渉でしょ。いきなり、条件を提示するなんて』


『じゃあ、今から揉める?』


『いや、もう良い。今更揉めたところで心証だけが悪くなる』

『……こうなった以上、後は大人しくしてて』


 魔王とニュクスはそう言い残すと念話を終えた。





「……全く、なんてことだ」


 魔王はそう言うとデスクの椅子に身体を預け、天井を見つめた。


「言い方が悪かったわね。交渉しろと入ったけど長引かせろとは言わなかったし」


 魔王とニュクスと違い、イシスは政治に疎い。というよりも、生まれ持った性格からか、揉めるのを嫌う傾向が有った。

 とは言え、今回のように一方的に条件を提示して交渉を終わらせる真似をするとは夢にも思わず、2人は黙り込んだ。


「議会はどうなるか……」


 合意した停戦交渉が議会で承認されない事態は避けたかった。

 そのために、ギリギリの交渉で持ち帰ってきた内容なら議会で通りやすいと思っていたが、イシスがそれに気付かないとは思っても見なかった。

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