イシスの到着
デイブを乗せた列車はドワーフ杉平幕府との国境に近い、ビトゥフの街で1時間程停車していた。
国境であるトビー山脈の付近は単線の為、どうしても順番待ちが発生するのだ。
特急列車であるこの列車も例外でなく、ビトゥフの駅で待たされるのだ。
「おや、上院議員こちらでしたか」
デイブがラウンジでコーヒーを飲んでいると、随行員の1人がラウンジに現れた。
「ああ、外の空気を吸いたくてな」
どうにも、魔王が用意した客室が落ち着かなかったのだ。
殆ど一両分のスペースが客室になっている特1等車。動く高級ホテルの様な空間にどうも馴染めなかった。
避難してきたラウンジも何処か落ち着かないが、それでもあの広い空間に居るよりはマシだった。
「まもなく、11番ホーム!長浜行、特急“あけぼの”号出発いたしまーす!」
列車の外で乗務員が発車を報せると、列車内で弁当等を売っていた売り子達がいそいそと列車から出て行った。
「後、12時間で新阜。その先の長浜まで更に1時間ですな」
「ほんの数年前まで、数日掛かってた旅が1日か。……狭くなったもんだな」
デイブが冒険者をしていた時は、トビー山脈を徒歩で越えること自体が命がけだった。
通常、杉平領に行くには海路が主流だったのだ。
それが単線とは言え線路が結ばれた事で事情が変わった。
列車で誰でも簡単に国境を越えることが出来るようになったのだ。
大型の機械類や資材も先に工業化が進んでいたドワーフ側から持ち込めるようになり、ヴィルク共和国は急激に発展した。
特に国境の街ビトゥフは貨物と人流が急激に増加し、人口はわずか3年で倍の40万人にまで膨れ上がっていた。
列車の連結部が“ガタンッ”と音を立てると列車はゆっくりと進み始めた。
車窓から建設用資材を満載した無蓋貨物車両の列が見えた辺りで、ラウンジのラジオがニュース速報を伝えた。
『えー、速報です。イシス様を乗せたオスティアがアルター人民共和国の首都、エーテルブルクに到着しました。先程、エーテルブルク郊外の飛行場に着陸したとの事です』
軍楽隊の演奏がされる中、イシスを乗せた飛行巡洋艦オスティアは滑走路に着陸し、ゆっくりと駐機場へと移動していた。
〈大きい物だな〉
出迎えに来ていたアデルハルト国家評議会議長はオスティアを見て、そうつぶやいた。
〈全長200メートルは有ります。まさに空飛ぶ巡洋艦です〉
傍に控えていた海軍大将がそう言うと、アデルハルトは艦首に備え付けられた衝角に目をやった。
〈しかし、アレは意味あるのか?〉
〈さあ。あまり意味はございませんかと〉
素人目にもオスティアに備え付けられた衝角は要らない様に思えた。
杉平幕府海軍の飛行艦も着けていない衝角を何故ヴィルク共和国の飛行艦は着けているのか?アルター側からすれば謎だった。
〈何かしら意味があるはずだが……〉
*魔王の趣味です
〈ええ、飛行特性が変わるのか研究はしていますが〉
*魔王の趣味です
アルター側は風洞実験も行って調査していたが、まさか魔王がゴネて設置させた物だとは判らずにいた。
いよいよ、オスティアからタラップが降ろされ、イシスが姿を見せるとアデルハルト国家評議会議長はタラップへと歩み寄った。
(あの人がそうか)
イシスはゆっくりとタラップを降りると、アデルハルト国家評議会議長に右手を差し出した。
〈初めまして、アデルハルト国家評議会議長〉
〈初めまして、クレオパトラ・イシス女王〉
2人は軽く挨拶すると固く握手をし、その様子をアルター側の記者や事前にアルター側に乗り込んでいたヴィルク共和国の記者達が一斉にカメラで撮影し始めた。
〈こちらへどうぞ〉
〈ありがとうございます〉
アデルハルト国家評議会議長に誘われ、イシスはアルター側が用意した黒塗りのオープンカーへと乗り込んだ。
〈かしーらー、中っ!〉
イシスとアデルハルト国家評議会議長を乗せた車が前に進みだすと、AK-74を持った儀仗隊が一斉に頭の敬礼を行った。




