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邂逅

「艦橋に艦長!」


 オスティアの艦長が艦橋に上がると水兵が叫んだ。


「迎えは見えたか?」

「……見えました!相対方位0−0−0より接近中!2機来ます!」


 正面からアルター人民軍が派遣した円盤が接近中と聞き、艦長は首にかけていた双眼鏡を覗き込んだ。


「正面の目標、アルター人民軍の円盤ハウニブで間違いなし」


 見張員の報告が艦橋内に響き、暫く経つと飛行円盤ハウニブ2機はは針路を変え、オスティアの周囲を時計回りに周回し始めた。


「艦長、ハウニブより入電。“ヴィルク共和国海軍飛行艦へ。ヴィルク共和国飛行艦へ。こちら、アルター人民軍空軍ハウニブ。こちら、アルター人民軍空軍ハウニブ。アルター人民共和国の領域に接近中である。貴艦の航行目的を報せ”」


「通信員長、返答しろ」

「はっ!」




〈飛行艦からの返信です〉


 オスティアの周囲を周回中のハウニブはオスティアからの返信に耳を傾けた。


〈動画は撮れてるな?〉

〈はい、撮れてます〉


『アルター人民共和国飛行艦へ。アルター人民共和国飛行艦へ。こちら、ヴィルク共和国海軍飛行巡洋艦オスティア。こちら、ヴィルク共和国海軍飛行巡洋艦オスティア』


 ハウニブの機長は無線での返事を聞いている間も自機をオスティアから一定の距離で周回させ、情報収集用の動画が取りやすいようにしていた。


『我々は外交使節団を乗せて航行中。我々は外交使節団を乗せて航行中。貴国への進入許可を頂きたい。貴国への進入許可を頂きたい』


〈無線士、オスティアに我に続くよう、無線連絡してくれ〉

〈了解〉


 ハウニブの機長は無線士に指示を出すと、自機をオスティアの前に移動させた。





「艦長、“使節の来訪歓迎する。我に続け”とのことです」


「針路そのまま、ハウニブを追従しろ」

「了解」


 オスティアの艦長はログ速を確認した。


 ……時速100ノット(185.2キロ)


 飛行艦としてはゆっくりとした速度で航行していた。

 飛行ルートと到着予定時間は事前にアルター側と交渉してあるが、速度が少々気になった。


「艦長、次の変針予定地であるファレスキまで後20分です」

「艦長了解」


 航海科員が作業している海図台に近付き、艦長は時間通り行程を進んでいるか確認を始めた。


(……予定通りではあるか)


 ジュブル川の河口の街、本来なら人狼の魔王が住む魔王城があるファレスキ上空を20分後に通過し。その後、北東へ変針。アルター人民共和国の首都であるエーテルブルクへは3時間後に着く。


 全て予定通りでは有るが……。


「……ふむ」


 艦長は艦橋の窓から艦首方向を眺め、遠くにファレスキとジュブル川が見えるのを確認してから艦内マイクに手を伸ばした。


「こちら艦長、全乗員に告ぐ」




「ん?」

 急に艦内放送が始まったのでイシスは部屋のスピーカーに目を向けた。


『本艦はコレよりファレスキの上空を通過する。希望する者は防空指揮所から街を眺めても構わん』


「ファレスキか……」


 ファレスキは人狼のヴィルク共和国を構成する17部族の1つポーレ族が治めていた大都市で、海軍の将兵の中にはファレスキ出身者はそれなりに居るとイシスでも知っていた。

 5年ぶりに故郷を眺めることが出来る。

 艦長はそう考え、持ち場を離れることを許可したのだ。


「イシス様も見てみますか?」

「……そうね」


 随行する国務省職員の勧めにイシスは暫く考えてから了承した。


 ファレスキには本来なら人狼の魔王の為の魔王城が聳えていた。それを見てみたくなったのだ。




『まもなく、ファレスキ上空』


 艦内放送が入ったタイミングでイシス達はオスティア下部の防空指揮所に到着したが、既に見に来た乗員でごった返していた。


「これは……入れないわね」


 まさか、故郷を見に来た乗員達を蹴散らすわけにもいかず。イシスは考えた。


「イシス様」


 イシスに気付いた士官の一人が声をかけてきた。


「士官食堂なら空いております。そちらへどうぞ」


「そう、ありがとう」


 防空指揮所からは少し離れるが、士官食堂には展望用の窓があり外を眺めることが出来た。

 イシス達一行はいそいそと士官食堂へと急いだ。




「ハウニブ、変針します」


 オスティアの前を行くハウニブがゆっくりと東に針路を変え始めた。


「面舵」

「面舵」


 オスティアの艦長も面舵指示をだし、ハウニブの後へと続いた。






「見ろ飛行艦だ!」


 占領下に置かれたファレスキ市内。そこに住むポーレ族の住民達は初めて見る飛行艦に目を凝らした。


〈撮れ、撮れ〉

 アルター人民共和国の国民の中にはカメラを持ち出し、オスティアが飛行する様子を撮影している集団まで居た。




「ふん、コレがファレスキか」


 士官食堂に着いたイシスは窓から眼下の街を眺めた。


「ジュブル川南岸が南町、中洲が本町、北岸が北町になっています。中洲には神殿と魔王城が在ります」


 随行員の一人が、アルター人民軍に占領された魔王城を指差した。


「あそこは?」


 イシスは南町の東側。湿地帯に囲まれた一角に出来た兵舎を指差した。


「元、カミンスキー中将のご実家ですよ。あの様子では兵舎に使われているようで」


 アルトゥル達の実家、カミンスキー家の農場は湿地帯に囲まれた位置にあった。その農場は今では真新しい兵舎が幾つも並んでおり兵士たちの宿泊地にされているようだった。




「写真はどうだ?」

「撮れてます」


 ファレスキの上空を通過しつつ、オスティアはPHOTINT(写真諜報)を行っていた。


 占領下に置かれたファレスキの情報を集めていたのだ。


 新しく南岸に開通した鉄道路線、ジュブル川を結ぶ橋の状況、新たに建設中の鉄道橋等など。撮影する物が多かった。


「港内に人民軍海軍艦艇多数あり!」


 見張りが指差す先に、アルター人民軍海軍の戦艦6隻を含む大艦隊が港内に係留されて居るのが見えた。


「見せつけてやがるな」


 オスティアがPHOTINTを行うと判った上で、海軍の主力を配置したと艦長は考えた。


「艦長、ハウニブが回頭を終えます」


「戻せ」

「戻せ」


 回頭を終えた事でオスティアは針路を北東へ向けつつ、ファレスキから離れることとなった。

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