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任地へ

『イシス様を乗せた車が、今、高速道路を降りました』


 デイブがカエサリアの中央駅前で馬車から降りると、ラジオ塔の前に人だかりが出来ていた。

 魔王の妹のイシスが移動しているのを中継しているだけだが、聴衆達は固唾を呑んでラジオに聞き耳を立てていた。


「では、上院議員。こちらです」

「ん、ああ」


 ようやく上院議員と呼ばれるのに慣れてきた。が、ラジオ塔に気を取られ返事が遅れてしまった。

 デイブは随行する国務省の職員に案内され1等客車が止まる駅のホームへと歩きだした。





「開けろ!」


 飛行場の警備兵達は外交使節団を乗せた車列に気付き、ゲートを開くとバリケードを道路脇へと大慌てで移動させた。


 カエサリア郊外の飛行場に着いた車列は、飛行場のゲートを通り過ぎ、そのまま滑走路の方へと進み続ける。


「アレがオスティアです!」


 助手席に乗るブレンヌスが窓の外を指差した。

 その先に在ったのはヴィルク海軍が保有する飛行巡洋艦『オスティア』。


 全長200メートル。

 連装8インチ(20.3センチ)砲、10基20門も積む大型の飛行重巡洋艦だった。


 今回のアルター人民共和国への外交使節団は、このオスティアに乗りアルターの首都、エーテルブルクまで移動し。現地ではオスティアに寝泊まりする事になっていた。


 海軍の中では、飛行艦隊旗艦の飛行戦艦『イスカンデル』に次ぐ主力艦で、前線であるレーヌス線を守る大事な戦力だった。

 その、オスティアをわざわざ外交使節団の為に前線から外し、アルター人民共和国へ派遣するのは、魔王がこの会談に掛ける本気度の表れでも有った。


 車列はオスティアの目の前で止まると、随行員と護衛達が車から下車し、ブレンヌスも助手席から降りた。


『イシス様が空港に到着しました!』


 滑走路脇に集まっていたマスコミが一斉にカメラのシャッターを押し、出発する様子を写真に収め始めた。


「どうぞ、お降りください」


 他の随行員達が乗艦すると、最後にイシスが車から降車し、オスティアに架かったラッタルへと歩き始めた。


『イシス様がオスティアに乗艦します。今、振り返って大きく手を振られました』





「こちらの個室になります」


 1等客車の個室に案内されたデイブは室内の広さに驚いた。

 1つの車両に通路の他、1部屋しかないのだが、大きなキングサイズのベッドが置かれた様子はまるでホテルのスイートルームの様だった。

 奥にはトイレとバスルームが別々に区切られる形で配置されており、ベッドの横のスツールには内線電話が置かれルームサービスが頼めるようになっていた。


「うわ、驚いた」


「私達は隣の車両にいます。何かございましたら、呼びつけてください」

「ああ、判った」


 よく見れば、小さな冷蔵庫まで置かれ。蓄音機にラジオまで有った。


(いや、良いのかよコレ……)


 流石に贅沢すぎてデイブが困惑していると、机の上に手紙が置いてあるのに気付いた。


「なんだコレ?」


 読んでみると、魔王からだった。


『デイブへ

 急な外交任務を任せてしまって悪かった

 せめてもの礼として1等客室を用意した

 長浜につくまでの間ゆっくりしてくれ

      グナエウス・ユリウス・カエサル・プトレマイオス』


「……えぇ」


 魔王からの計らいだと判ったが、デイブは落ち着かなかった。


 取り敢えず、持っている書類を鞄ごと客室の金庫にしまうと、デイブは随行員達が居る後ろの車両に移動した。


 後ろの車両、ここも1等客車だったが、4部屋に区切られており、明らかに等級が違っていた。

 デイブは通路を通り、そのままさらに後ろの車両。バーが併設されているラウンジに入った。





『しゅっこーう!』

 ラッパとともに、出港を告げる艦内放送が入ると、オスティアは徐々に浮き始めた。


「おっとっと」


 一瞬、小刻みに上下に揺れたので、イシスは飲んでいた紅茶を零しかけた。


「ふーふー」


 猫舌のイシスは紅茶に息を吹きかけ、よく冷ましてから口に含んだ。


 やがて、艦の後方へ徐々に引っ張られる感覚がし、オスティアが徐々に加速しているのが判った。



「面舵」

「面舵」


「進路0−0−0」

「進路0−0−0宜候!」


「宜候、0−0−0!」


 回頭を終え、オスティアは真っ直ぐ北へと進み続けた。


 これから、アルター人民共和国の占領下に置かれたファレスキの街上空を通過し、エーテルブルクへ進路を取ることになっていた。


「艦長、高度1万です」

「艦長了解。……レーダー、迎えの円盤はまだか?」


 高度3000メートルで巡航飛行を開始したのを確認した艦長はレーダー員に確認した。


「まだ映りません」

「ESMはどうだ?何か反応は?」


「ESMは早期警戒レーダー以外はラジオの電波しか入りません。火器管制レーダーの類は検知できていません」


 飛行艦オスティアが外交使節団派遣の為、アルター側に入ることは事前に取り決めてあった。だが、万が一、攻撃を受けても良いように艦長は警戒していた。


「レーダーに反応有り、正面から2目標、同高度で接近してくる目標有り!」

「よし、艦橋に上がる」


 艦長はそう言い残すと、戦闘指揮所(CIC)から出て艦橋へと向かった。

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