補給
「それじゃあ、気を付けて」
長浜の空港へアルトゥル達を見送りに来た海野大将がそう言うと、アルトゥルは右手を差し出した。
「ああ、今回はありがとう」
海野大将とアルトゥルが固く握手を結ぶんだ。
「帰りもこれかあ」
その傍らで、コヴァルスキ大将がコレから乗る駆竜艇の方を見ながらボヤいた。
第3師団所属の航空騎兵隊が持つ駆竜艇で、人狼向けに再設計された物だったが。
「贅沢言わないの」
「しかし、寒いからなあ」
艇内は一応与圧され、暖房も有ったが途中、ヴィルク共和国と杉平幕府の国境であるトビー山脈を越えるため、かなりの高高度を飛行する。その為、艇内はかなり冷え込むのだ。
オマケに、既に日が落ち気温が下がっていた。
「じゃあ、また頼む」
「ああ」
アルトゥル達が駆竜艇に乗り込み、ハッチが閉められると、艇長が蒸気タービンの回転数を上げた。
蒸気タービンの回転音が響く中、駆竜艇は徐々に浮き上がり始め、アルトゥルは船体に開けられた窓から海野大将に手を振った。
海野大将が帽振れで返礼する中、駆竜艇は一気に高度を上げつつ前進を始める。
いよいよ、アルトゥル達はヴィルク共和国に戻るのだ。
「食糧、水の補給は明日にでも。VLFアンテナの修理についても明日、担当が確認に来ると」
アンヴィル艦内では、副長のハーバー少佐達が艦長に海野大将と協議した内容を報告していた。
士官食堂で報告が行われているが、艦長の表情は冴えなかった。
「それと、乗員の上陸についても話題に上りました。同盟関係に有るヴィルク共和国の兵士の中には人間も居るそうなので、乗員が外出しても支障はないと」
「外出か……」
艦長は少し思案してから口を開いた。
「外出は時期尚早だろう。まだ、失われた大陸の事は判らん訳だし。公務意外は基地から出ないほうが良いだろう」
基地内の宿泊施設に乗員の寝泊まりが出来るように、既に手配されていたが、基地の外へ出るのはまだ早いと艦長は判断した。
「先ずは……国交の樹立だ。艦隊司令部を通じて国務省から国交樹立に向けて協議するように指示が出た」
目の前の課題を全てクリアした上で、乗員達に余暇を与えようと艦長は考えていた。
無用なトラブルは避けたい思惑も有ったが、本当に安全かどうか判らないからだ。
果たして杉平幕府を信用して大丈夫か……。
最初に接触を図ったのはアンヴィル側だが、艦長は万全を期したかった。
「此処が食糧庫です」
翌日、アンヴィルの補給長は部下3名と共に杉平幕府が用意したトラックに乗り、長浜基地内に設けられた食糧庫を訪れた。
「中々、大きいですね」
補給長は食糧庫の大きさに驚いた。
「艦隊全体の補給品を扱っていますので。最近は飛行艦隊への補給品も扱うので大きくしたばかりです。此方へどうぞ」
トラックから降り、巨大な白い建物に入ると補給長達は再び驚いた。
大きな棚が幾つも並んだ巨大で真新しい倉庫の中をフォークリフトが何台も行き交う様子は圧巻だった。
「アレは、貨物列車ですか」
「ええ、倉庫内で荷降ろし出来るようになっています」
有蓋貨車が倉庫内に入っているのは理解できたが、それを数人のドワーフが手で押している様子に補給長達は驚いた。
「よし、降ろせ!」
更に、ドワーフ達は数十キロは有るであろう木箱を片手で簡単に持ち上げ、有蓋貨車から降ろし始めた。
「すごい力ですな」
「ああ、魔法で体力を底上げしてるんですよ」
「魔法、ですか?」
「ええ。……着きました、こちらです」
魔法と説明された、力持ちのドワーフ達を横目に通路を進むと倉庫内に設けられた補給隊の事務所に到着した。
「中で、補給品の確認をお願いします」
「よし開け!」
一方のアンヴィルでは機関科員達がドック脇の給水口にホースを繋ぎ、飲料水用の真水を搭載する作業を行っていた。
蒸留装置を使い海水を真水に変えても良かったのだが、補給できるものは補給しようと言うことで、搭載することになった。
「開いた!」
給水口が開けられ、ホースが端から膨れ上がった。
「ホースと規格は合ったんだな」
艦長が上構(上甲板)に上がると、作業を監督していた機関長に話し掛けた。
「はい、合衆国海軍で使っているホースと規格が一致しました。なんでも、ヴィルク共和国海軍の艦艇が我々と同じ規格を使っているそうで」
「そうか」
「艦長!杉平幕府の技師が到着しました!アンテナの修理が出来るか確認するそうです!」
舷門に作業服姿のドワーフが5人現れていた。
彼等は長浜の造集補給処に所属する作業員だった。
「よし、通してくれ!機関士」
「どうぞお入りください」
作業員達は岸壁からラッタルを渡り、アンヴィルに乗艦した。




