誤魔化す海野大将
「艦長、繋がりました!」
発令所内に通信員長の報告が響くと、艦長は通信室へと急いだ。
「状況報告は送信できたか?」
衛星通信マストが正常に作動し、潜水艦隊司令部と通信が可能になった。
艦長は速やかに、今アンヴィルが置かれた状況を潜水艦隊司令部に伝えたかった。
「出来ました。それと、艦隊からの状況報告が送られてきました」
通信室につくと、通信員長が書類の束を手渡した。
「本物か?」
「確かめました」
副長不在の状況だが、通信員長と船務士で通信文に書かれた確認コードと事前にアンヴィルに渡された文字コードが同一か確認をとっていた。
「……」
艦長は潜水艦隊からの報告を黙読しはじめた。
(ソ連艦隊の撤退……、国連総会での”失われた大陸“出身者の演説……、北極圏でのソ連軍の動き……)
世界情勢の変化から、大西洋上でのNATO海軍とソ連海軍の追跡行。国連総会でヴィルク共和国出身者による演説。北極圏でソ連軍の輸送機が大挙飛行している状況等。数多くの情報が送られてきていた。
「……USSアンヴィルは沈没したものと思われる」
状況報告の最後にその一文が記載されており、艦長は思わず読み上げた。
「艦長、艦隊から新たな通信文です!」
衛星通信装置から通信文が打ち出され始めたので、通信員が大声を上げた。
「確認しろ」
通信員長と船務士が確認コードが入った金庫へと急いで移動を始めた。
「修理に関しては可能な限り行うとして……」
(さっきの少年は何だったんだ?)
海野大将からVLFアンテナの修理について説明を受けている間もハーバー少佐はトイレで出会したアルトゥルの事を考えていた。
(陸軍中将の階級章で、制服も合衆国陸軍とほぼ同じだった。……だが、合衆国はじめ西側は“失われた大陸”の国々とは国交がない。……海野大将と同じなのか?)
海野大将と同じく、自分たちの世界出身の転生者なのでは?とハーバー少佐は薄々感付いていた。
だが、確証がない。
「では、今日の所は以上で」
一通りの話し合いも終わり、ハーバー少佐達、アンヴィルからの参加者達が席を立った。
「ああ、また明日以降」
「……ところで海野大将」
聞こうか聞くまいか悩んだが、ハーバー少佐は好奇心が勝り海野大将に質問してしまった。
「先程、トイレでアメリカ陸軍の軍服を着た人物、……犬の耳と尻尾が有る人物と会ったのですが」
「あなた!」
「ロン君!」
ハーバー少佐がアルトゥルの事を話題にしていると判り、ドミニカとコヴァルスキ大将が即座に反応した。
「犬の耳と尻尾……あー、なるほどね」
海野大将は内心慌てながらも何とか表情に出さずに、誤魔化し始めた。
「多分、ヴィルク共和国軍の人だろう。うん。同盟国の。あそこはアメリカ陸軍式だから、軍服も殆どデザインを変えずに使ってるんだわ」
「中将の階級章でしたが……。背は私よりもかなり高いですが、まだ若く見えました。名札は確か、アーサー・カミンスキーだったかと」
(ロンの奴、見られたなー!)
相変わらず、表情一つ変えないが、海野大将は心の中でアルトゥルに文句を言った。
「あー、カミンスキー中将か。この前のクーデターの影響で足止めされていたが、今日にはヴィルク共和国に戻るんだ」
ハーバー少佐にアルトゥルが父親だと明かすか一瞬悩んだが、海野大将は誤魔化す方を選んだ。
「何歳ですかね?かなり若そうでしたが」
「確か、16だったな」
「かなり若いですね。やはり転生者なので?」
(あ……)
思わぬ墓穴を掘ってしまい、海野大将は後悔した。
「あ、ああ。確かそうだったな」
これ以上質問されたら、どんなボロが出るか判らなかった。早く別の話題に移らないかと、海野大将は考えた。
「そうだ、乗員の上陸だが。艦長は許可しそうかね?」
「上陸……。あー、どうでしょうね」
乗員の上陸。
寄港地の街中を自由に行動させ、乗員に余暇を取らせるかどうか。海野大将が質問するとハーバー少佐は考え込んだ。
「長浜市内に限れば一日外出をしても大丈夫かと思うよ。長浜の住民もヴィルク共和国の兵士……“失われた大陸”に住んでいる人狼や人間に馴れてるから怪しまれんし」
「なるほど……。艦長に聞いてみます。早ければ明日の朝には返事ができるかと」
何とかアルトゥルの事を誤魔化せた海野大将だったが、隣の部屋ではドミニカがアルトゥルを締め上げていた。
「外交団の派遣が可能かどうか……か」
アンヴィルに新たに届いた命令書は艦長を悩ますには十分だった。
アメリカ国務省から杉平幕府・ヴィルク共和国の両政府に外交団を派遣し、国交を樹立する意図が命令書から読み取れたが。アンヴィルが“失われた大陸”に転移できた理由が判らない以上、即答できなかった。
(転移については未だ、判らない事が多い。国務省から外交団を派遣できるかどうか……)
翌日以降、海野大将に聞いてみるか?
仮に合衆国からの転移が可能なら、外交任務を国務省に任せればよいが、そうでなければ引き続きアンヴィルが行うことになる。
「艦長、副長達が戻りました」
「ああ、判った」
なにはともあれ、副長達が持ち帰った情報を聞くのが先だった。




