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アンヴィルの入港

「さて、どうしたものかな……」


 長浜の飛行場に降り立った海野大将は考え込んだ。


 アルトゥルとドミニカの前世の息子、ドナルド・ハーバー少佐を3人に見せたいが、何時になるのやら。


 入港作業中に顔を見せる可能性も無くはないが、艦長が艦橋セイルに居る以上その可能性は低かった。

 副長のドナルドは発令所で指揮を執っている可能性が高いのだ。


 そうなって来ると、入港後に上陸して来た所を見せる事になるだろうが、日の入り後に入港して今日上陸するかも謎だった。

 副長と言う立場から、艦内で何かしらの作業を行うだろう。特にソ連原子力潜水艦と交戦した後だ。艦の状態維持のために籠もることは考えられた。


「うーん……」

「なあ、順ちゃん。チョットいいかい?」


 アルトゥルが話し掛けた。


「今回は見送んね?機会がなかった訳だし」

「いや、そうはいかんよ」


 アルトゥルの提案を海野大将は否定したがアルトゥルは食い下がった。


「でも、入港は夜中だろ?(おいら)達も長い事滞在できねえわけだし、仕切り直しで良いんじゃねえか?」


「……そうだな」


 2人の話を聞いていたコヴァルスキ大将もアルトゥルの意見に賛成した。


「今回は見送って良いだろう。……海野君、すまんが写真か何か撮れたら送ってもらう事は可能かな?」


「可能ですが。あ、待てよ」


 海野大将が何か閃いた。


「入港後にドニー君を呼び出してみるか」


 海野大将の思い付きに、ドミニカとアルトゥルは視線を交わした。


「大丈夫かい?」

「私の事を知ってるから大丈夫だろう。まあ、適当な理由をつけて呼び出してみるが」


 それでも、時間的にギリギリだった。


 明日には3人共ヴィルク共和国に帰る必要があるので、深夜に駆竜艇で送り届ける必要がある。


 夜間飛行は危険を伴うので避けられているが。





「ふーん」


 良くあるガラス製のコップ、それを右手に持ち魔王は眺めていた。


「まあ、いいだろう」


 右手に持っていたコップに水差しから水を注ぎ入れると、魔王はそれを応接用のテーブルに置いた。


 そのまま、3歩下がると魔王は右手を上げた。


「こんな感じ……だったな」


 魔王が魔法を掛けると、コップの水が左右に割れ始めた。

 滅多にやらないため、魔王は水を割る魔法の練習をしていたのだ。

 久しぶりに割ってみたが思いの外上手くいったので魔王は表情を緩ませた。


「さて、次は……」


 魔王は自分の執務室を出ると廊下を進み始めた。


「あれ?魔王様、どちらへ?」


 途中リーゼとすれ違った。


「ちっと風呂場にな」

「今からですか?」


 まだ、正午を回ったぐらいの時間で風呂に入るのかと、リーゼは驚いたが。


「ん?……あ、いや、入るわけではなくてな。まあよい、見せた方が早いだろう、一緒に来い」


「はい」


 リーゼを連れだって、魔王は自分専用の風呂場に入った。


「何をするんですか?」


 一人用にしては大きい風呂の前に立った魔王にリーゼが尋ねた。


「ちっと、割ってみようとな」


 魔王はそう言うと右手を上げ、魔法を掛け始めた。


「見ておれ」


 魔王がそう言うと風呂に張られたお湯が半分に割れ、割れた分のお湯が左右から溢れた。


「こんなものか」


 まるでガラスの断面の様に均一の割れ目が出来上がった。

 感覚を確かめると魔王は風呂に出来た割れ目の形を幾何学的に変化させ、更に感覚を確かめた。


 長浜沖の深海で同じことが出来るか?それはわからないが、一通り確かめたいことを確かめると魔王は風呂の水をもとに戻し踵を返した。


「ところで、リーゼ。飯はまだかな?」

「あ、はい。只今お持ちいたします」


「そうか」

 魔王がそう言い残し、風呂場を去るとリーゼはこっそり、風呂の前に立った。


(たしか、こう……)


 リーゼは魔王が試した水割りをやってみたくなったのだ。風呂の前で両手を上げると、魔王がやったように魔法を掛け始めた。


「……もうちょい」


 徐々に水が割れ初め、リーゼは更に魔法を込めた。


「……できた!」


 荒々しい割れ目だが、リーゼにも水を割ることが出来た。


「でも、難しいな」


 気を緩めると、割れ目が水の重みで塞がろうとする。

 常に魔力を均一に掛けないといけないので見た目以上に難しかった。


 そんな魔法を一体何に使うのか?リーゼは気になったが、魔王には聞かないでおくことにした。





「前進三分の一!」

「前進三分の一!」


 長浜の港に着いた原子力潜水艦アンヴィルは入港作業に追われていた。


 杉平海軍の曳船2隻がアンヴィルの左側面に着き、肝ドックへと推していた。


「停止!」

「停止!」


 艦橋セイルに立つ艦長はこまめに、前進・停止の指示を艦内に出していた。

 乾ドックの岸壁にアンヴィルをピタリとつけるのに気を使うからだ。

 勢い余って、艦首を岸壁にぶつけないよう、慎重に指示を出した。


「1番投げる!」


 上構に立つ乗員が岸壁に向け、舫いを投げ始めた。


 いよいよ、入港だった。




「入港だな」


 舫い索がボラートに結ばれるのを庁舎から眺めながら海野大将は呟いた。


「……しかし、居ねえな」


 双眼鏡で入港作業の様子を眺めているアルトゥルがボヤいた。

 やはり、当初の予想通り艦内で指揮を執っているのだろうか。息子のドナルドは甲板上にも艦橋セイルにも居なかった。


「まあ、呼び出してみるしか無いかねえ」


 時刻は午後6時。


 アルトゥル達がヴィルク共和国に帰るのなら、急いだほうが良かった。


「電話が繋がったら呼び出してみる。3人は……何処に居る?」


 隣の部屋、とも考えたが、隣の部屋から覗くことは不可能なので海野大将は悩んだ。


 部屋との仕切りにブラインドが使われている司令部作戦室辺りに呼び出すかとも、海野大将は考えた。


「……作戦室の隣の部屋との区切りがブラインドなんだが、そこから覗くか」

「ブラインド、ね。声は聞こえるんかい?」

「ガラスが入っているけど、マイクが有るから筒抜けだよ。投影機(プロジェクター)を操作する部屋だからね」


「司令官、アンヴィルと電話が繋がります」


 通信員がそう言うので、アルトゥルが双眼鏡で覗くと、桟橋がアンヴィルに掛けられていた。


「それじゃ、案内するよ」

「ああ、頼むは」

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