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帰投

「アンヴィルが襲撃を受けていると?」


 魔王公邸から国防総省へと通じる地下通路を歩く魔王は海軍作戦部長を問いただした。


「はい、海野大将からの通報で判明しました」


「で、状況は?」


「まだ何とも。失礼」


 海軍作戦部長は国防総省に入るための扉を開けるために、壁に設置されたキーパッドに数字を打ち込んだ。


「どうぞ」

「ありがとう」


 扉のロックが外れると海軍作戦部長は扉を開け、魔王を先に通した。




「魔王様、入られます!」


 国防総省地下の作戦室に魔王と海軍作戦部長が入ると、他の参加者は起立して迎えた。


「国務長官はまだかね?」


 外交を担当する国務長官の席が空いているので魔王は口を開いた。


「国務長官は国務省で杉平幕府のクーデター対策にあたっております。間もなく現れるかと」


 中央情報局(CIA)長官のエーベル女史がそう言うと、国務長官が大慌てで作戦室に飛び込んできた。


「遅れました。申し訳有りません」


 国務長官の顔には隈が浮かび、疲れた様子だった。


「構わん。それよりも急な呼集にも関わらず来てくれてありがとう」


 無理もない。

 アンヴィルの転移に始まり、杉平幕府のクーデター対応で各閣僚は忙殺されていた。


 特に国務省と国防総省、連邦捜査局(FBI)は国内の不穏分子がクーデターに呼応し、活動しないか防諜活動に追われている。


「さて、アメリカ合衆国の原子力潜水艦アンヴィルが襲撃を受けていると通報が有ったわけだが……」


 魔王がそう言うと、作戦室のスライドスクリーンに現場海域の海図が映し出された。


「はい、此処でアンヴィルがソ連アクラ級原子力潜水艦の攻撃を受けていると杉平幕府海野大将より通報が有りました」


 杉平幕府の軍港、長浜から南西に150哩離れた場所に赤いバツ印が描かれ、それを海軍作戦部長が指揮棒で示した。


「0401d(デルタ)、周辺海域を航行中の駆逐艦春風が爆発音を探知。通報を受けた駆竜艇と春風が現場に急行。その後、0416d、現場で浮上中の原子力潜水艦アンヴィルを発見」


 時系列を書いた表もスライドに表示され、それを海軍作戦部長は読み上げた。


「0420d、原子力潜水艦アンヴィルと春風の間で通信確立。アクラ級原子力潜水艦と交戦状態にあると判明しました」


 魔王が壁にかけてある時計を確かめると、現在の時刻は午前6時半。

 時差を考慮しても1時間近く、時間が経っていた。


「現在もアンヴィル、アクラ級原子力潜水艦で魚雷戦が進行中とみられます」


 海軍作戦部長が説明を終えると魔王は口を開いた。


「長浜に駐留中の飛行艦部隊を派遣できないか?」


 これに対し、国務長官が発言した。


「しかし、魔王様。派遣した所でソ連軍と交戦するのは如何かと……。万が一、ソ連軍との全面戦争に発展すれば、アルター人民共和国との停戦交渉どころではございません。国家存亡の危機になります」


 続いて中央情報局長官のエーベル女史も発言した。


「マルキ・ソビエトに駐留するソ連軍と杉平幕府軍を含む我々の戦力比は雲泥の差です。歩兵の装備1つでもヴィルク共和国軍はボルトアクションライフルに対し、ソ連軍は自動小銃AK-74を標準装備しています」


 それ以外にも、戦車、航空機と言った兵器でもソ連軍に圧倒されているのは魔王は知っていた。


「だが、見て見ぬ振りをする訳にはいかんだろう?……現場に飛行艦は派遣するが交戦はさせないのはどうだ?」


 参加者全員が暫く押し黙った。

 ソ連との関わりを避けてきた状況で、交戦する可能性が有る決断を魔王がしようとしているが、誰も口を開く事は出来なかった。


「派遣自体を取りやめるべきでは?」


 海軍作戦部長が口を開いた。


「アンヴィルは我々とはまだ(・・)接点を持ってはいません。このまま、関わりを持たないまま静観する選択肢も有ります」


 海軍作戦部長の言った通り、アメリカ合衆国の原子力潜水艦アンヴィルは杉平幕府とは接点を持っていたが、ヴィルク共和国とは何の関わりもないのだ。


「アンヴィルを見捨てることになってもか?」


 魔王が海軍作戦部長に問いただすと、首を縦に振った。


「致し方ありません」





「ソ連原子力潜水艦がベント弁を開きました。沈み始めています!」


 乗員の大半が救命ボートに乗り込んだカサートカがメインバラストタンクのベント弁を開き、幾重もの水柱が上構から吹き上がった。


「自沈か」


 ゆっくりと沈み始めたカサートカは段々と見えなくなり、とうとう波間にその姿を消した。


「記録は取れているか?」

「はい、写真と動画で記録しています」





「アクラ級原子力潜水艦、ゆっくりと沈降中」


 潜望鏡で水上の様子を見ていたアンヴィルでも、ソーナー員がカサートカの自沈を報告していた。


「……音がします、何かが上がってきます」


 暫くすると、レスキューチェンバーの分離音が聴こえ、水面に浮かび上がった。


「レスキューチェンバーだ」


 ソ連潜水艦の艦橋セイルに備え付けられているレスキューチェンバーを艦長は潜望鏡で視認した。


「自沈作業を仕上げた乗員が脱出した様だな」


 レスキューチェンバーの上部から海面に出た乗員が救命ボートを展張し始めているのをアンヴィルの艦長は写真に収めた。


「アクラ級原子力潜水艦から圧壊音」


 無人の状態で沈むアクラ級原子力潜水艦が水圧で押しつぶされる音がアンヴィルに届き始めた。


「面舵、針路0−0−0」

「面舵、針路0−0−0」


「面舵、針路0−0−0宜候」


 アンヴィルの艦長は面舵回頭を指示し、針路を長浜へと向けさせた。


「副長、現場から十分離隔したら浮上する旨を水上艦に伝えてくれ」

「了解、艦長」


 アンヴィルの艦長はアクラ級原子力潜水艦の乗員に見られない位置で浮上し、長浜に向かうつもりでいた。



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