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自爆

「艦長!ソ連原子力潜水艦から魚雷接近中!」


 魚雷が接近中である事を春風のソーナー員が報告すると春風の艦長は叫んだ。


「両舷前進一杯!欺瞞剤用意!」


 春風の艦長は再び前進一杯を下令し、春風を加速させた。


「敵魚雷、航跡(ウェーキ)内に入りました!距離1000!」

「欺瞞剤射出!面舵!」


「何処だ!?姿は見えないぞ!」


 雷跡を見付けられない見張員に艦長が叫んだ。


「ソ連の潜水艦は酸素魚雷だ!燃焼ガスがすぐに海に溶けて見えなくなるんだ」


 第2次世界大戦後、ソ連が手に入れた旧日本帝国海軍の酸素魚雷をベースに改良された物で、高速力と隠密性はそのまま維持されていた。





「魚雷、航跡(ウェーキ)内に侵入」


 ソ連の対水上艦魚雷は水上艦が尾を引く航跡(ウェーキ)を追尾する。

 推進音やアクティブソーナーの反射音を追い掛ける訳ではないのだ。


 物理的に航跡(ウェーキ)を消すには停止するしか無いが、そんな事は不可能だ。


 一度、航跡(ウェーキ)内に入れば、ほぼ当たる。対水上艦の切り札になる魚雷だった。


「的艦、欺瞞剤射出!」

「……っ!」


 予想外に風級駆逐艦が欺瞞剤を放出したので、カサートカの艦長は驚いた。


「魚雷、欺瞞剤に突入します」

「よし、自爆用意!」


「は、はい!自爆用意!」


「魚雷、欺瞞剤を通過。航跡を追い続けています。残り距離500ヤード」






「敵魚雷、欺瞞剤を通過、なお接近中」

「戻せ!取舵!」


「もどーせー!とーりかーじ!」


 春風が大きく蛇行したので、船体は遠心力で右へと引っ張られた。


「爆雷投下用意、深度20だ!」

「爆雷投下用意、深度20!」


 艦長は此処で、爆雷の投下用意を下令した。


 一か八か、水面に近い深度で爆雷を爆発させ、敵の魚雷を狂わせようと考えたのだ。



 突然。春風の後方で爆発が起き、海面に水柱が上がった。


「何だ!?」

「早発か!?」


 欺瞞剤を船体と誤認して爆発したのなら理解できるが、何もない所で爆発したとなれば、信管が誤作動を起こした早発の可能性があったが。


「……艦長!水中のソ連原子力潜水艦から探信音が1回来ました!」

「……“手を出すな”か」

「は?」


 “その気になれば、簡単に撃沈できる”とソ連海軍原子力潜水艦は証明してみせたのだ。迂闊に近付いて気を引かなければ手出ししないとも。


「ソ連海軍原子力潜水艦と距離を取る。両舷前進半速」

「両舷前進半速」


 相手を探知できるだけの距離を保ちつつ、春風の艦長は距離を取り始めた。





「水上の風級離れます!」


 カサートカのソーナー員は風級駆逐艦が真っ直ぐ離隔する事を報告した。


「艦長了解。ロサンゼルス級が射った2本目の魚雷はどうだ!?」

「向かってきてます!」


 1本目は誘導を受けていないのか、見当違いの方向へと向かっているが、2本目に放たれた魚雷はカサートカを正確に追尾してきていた。


 母艦からワイヤーケーブルを使い正確に誘導している。


 そうなると、ワイヤーケーブルを切らせる必要がある。出来ることは多々あるが……。


「前進一杯。深さ200に着け、急げ!」

「前進一杯。深さ200に着け、急げ!」


「前進一杯!」

「上げ舵20度!」


 再度、カサートカを加速させ、深度200メートルの位置まで浮き上がるようにカサートカの艦長は指示を出した。


「深さ400……深さ300……」


「潜舵中央!」


「深さ200!」


 深度200メートルまで浮き上がると、カサートカの艦長は次の指示を出した。


「5番管、次に射つ!」


 5番発射管。潜対潜ミサイル、ヴォドパッドが装填されていた。ソレをこのタイミングで射つ決断をしたのだ。


「目標、ロサンゼルス級原子力潜水艦」


「5番管、次に射つ!目標、ロサンゼルス級原子力潜水艦」


「5番管、用意よし!」


 既に水雷員が諸元を入力していたので、発射準備はすぐに終わった。


「5番射て!」





「艦長!水中より発射音!」


 春風の艦長が報告を受けた直後、水中から飛び出した潜対潜ミサイルが火を吹き空高く打ち上げられた。


「何だ!?」


 春風の乗員達は爆音を響かせながら上昇する潜対潜ミサイルをただ眺めているだけだった。


「ミサイルだ!」

「撃ち落せ!」

「対空戦闘用意!」


 対空砲と主砲が大慌てで指向し始めたが、潜対潜ミサイルの先端から400ミリ対潜短魚雷が水中へと投下された。





「艦長!アクラ級がまたスタリオンを射ちました!」


 ヴォドパッドの轟音はアンヴィルの耳にも届いた。


「スタリオン着水!後方です!」


 直ぐに短魚雷が放つ探信音がアンヴィルの艦内でも聞こえた。


 着水した400ミリ対潜短魚雷は円を描きながら水中を降下し、獲物を探し始めたのだ。


「水雷!2番と的艦との距離は!?」

「まだ、約16000も有ります!切りますか!?」


 2番発射管から放たれた魚雷と目標のアクラ級原子力潜水艦との距離は未だ、約16000ヤード。約8浬も有った。

 今此処で回避行動を取るために魚雷に伸びたワイヤーケーブルを切断しては、アクラ級原子力潜水艦に命中させることは出来ないだろう。


「まだ切るな!そのままだ!」


「艦長!スタリオンが本艦を捕捉しました!」


 アンヴィルの艦長は“ワイヤーケーブルを切るな”と命令したが、既に対潜短魚雷はアンヴィルを追尾し始めた。


「前進原速!欺瞞剤用意!」


「前進原速!欺瞞剤用意!」


 回避行動を取れば、ワイヤーケーブルは千切れる可能性が有るが、艦長はギリギリまでワイヤーケーブルを切らない決断をしたのだ。


「欺瞞剤用意よし!」

「欺瞞剤射出!取舵一杯!」


「欺瞞剤射出!」

「取舵一杯!」


「……取舵20!」


 加速後、針路を変える。


 コレだけの事だが、2番発射管から伸びるワイヤーケーブルは引き延ばされ、千切れる可能性が有った。


「スタリオン、欺瞞剤に突っ込みます!」


「戻せ!」


「戻せ!……舵中央!」


 アンヴィルが縦舵の舵角を中央に戻した直後、欺瞞剤に突入した対潜短魚雷が爆発した。


「スタリオン、爆発しました!」


 激しい振動に見舞われながら、ソーナー員が叫んだ。


「艦長!シエラ12を失探しました!」

「最後の位置は?」


「方位3−4−8。距離約2万ヤード。深度、700辺りです」


「前進微速、深度500に着け」


 相手はコチラから見てシャドーゾーンに入ったと見て、アンヴィルの艦長は浮き上がるように指示を出した。


「前進微速、深度500に着け」

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