魚雷戦開始
「目標探知!目標探知!方位3−5−4、シエラ20とする」
アンヴィルのソーナー員が新たな目標を探知した事を報告してきた。
「……シエラ20、アクラ級原子力潜水艦、シエラ12で間違いなし!これよりシエラ20、シエラ12と呼称する!」
新たに探知した目標が、シエラ12。アクラ級原子力潜水艦と同じだと判断し、その事を艦長に報告した。
「距離は?」
「少々お待ちを……目標失探しました」
「またか」
相手艦の動きは完璧だった。
短時間だけ、シャドーゾーンから出て来ては、コチラの動きを探知した後、直ぐにシャドーゾーンに逃げ込む。
かれこれ、5回以上この状況が続いていた。
それも、10分から20分の間隔で。
「ドップラーはどうだ?」
「……ロードップラーです。遠態勢です」
ロードップラー……。推進音が遠のき、間延びした状態だとソーナー員が告げた。
(離隔しつつ有るのか……)
ロードップラーの状態はコチラに対し推進機を向けている状態、つまり離れつつ有る状態だった。
「目標距離10浬です、艦長」
カサートカの艦長は副長からの報告を聞くと、最後の確認作業を行った。
「水上艦との距離は?」
「風級との距離7浬です」
杉平幕府の風級駆逐艦が近傍に居るが、大した脅威では無いと考えてよいか?
杉平幕府の水上艦艇は対潜誘導魚雷の類を持ち合わせていないとの情報が有るが、果たして。
「艦長、深度500。左右傾斜なし」
「取舵、針路1−6−0」
「取舵、針路1−6−0」
「取舵、針路1−6−0宜候」
ここに来て、艦長が針路を西から南に変えるように指示を出した。
ロサンゼルス級原子力潜水艦の後方に回り込み、攻撃を仕掛けるためだ。
「目標が出なくなったな」
かれこれ、30分以上目標のアクラ級を探知できていないので、アンヴィルの艦長は訝しんだ。
離隔してそのまま逃げたのか、それとも……。
「深さ1500に着け」
「深さ1500に着け」
「下げ舵5度」
アンヴィルの艦長は深深度帯に遷移するように指示を出した。
コチラの深度を変えることでシャドーゾーンから出て、アクラ級を探知するのが目的だった。
「アンヴィル、失探しました。深深度帯に移動したもようです」
春風のソーナー員からの報告を受け、春風の艦長は頷いた。
水上に居る春風から見て、アンヴィルがシャドーゾーンに入った為、探知できなくなったのだ。
「艦長、曳航式ソーナーを出しますか?」
水上艦は騒音が大きいため、曳航式ソーナーを用いて対潜哨戒を行う選択肢も有ったが。
「いや、いい」
春風の艦長は曳航式ソーナーを出さなかった。
曳航式ソーナーを正しく使うには、水上を一定の針路で走り続ける必要があったが、春風は現在ジグザグに西へと向かっている。
アクティブソーナーを使いながら対潜哨戒を行っているためだ。
それと、曳航式ソーナーを使用している時は速度があまり出せないのも問題だった。
曳航式ソーナーが水上艦の速度に負け、切れてしまうのだ。
今はまだ良いが、水中に潜むアクラ級原子力潜水艦が攻撃を始めた時に、巻き取る時間が無いと判断したのだ。
「艦長、109号110号駆竜艇と通信確立しました。これより、対潜哨戒に取り掛かるそうです」
「艦長了解」
春風の周囲を107号109号110号駆竜艇が取り囲む様に飛行しながらディッピングソーナーを垂らし始めた。
「目標探知!目標探知!方位0−2−2、シエラ21とする!」
アクラ級原子力潜水艦を探知できないまま30分が過ぎた頃だった。ソーナー員が北北東方向に居る目標を新たに探知した。
「……目標探知!目標探知!方位0−3−4、シエラ22とする!」
更に目標を探知したので艦長は思わず振り返った。
「何を探知した?」
船体に纏わり付いてきた得体のしれない生物が再び現れたのか可能性も有り、またアクラ級原子力潜水艦の可能性も有るため、艦長は正体を早く知りたかった。
「……シエラ21、生物です。クジラの鳴き声がします」
「シエラ22は?」
暫く、ソーナー員はソーナー卓を慌ただしく操作してから音の正体を報告した。
「シエラ22、アクラ級原子力潜水艦で間違いなし!これよりシエラ22、シエラ12と呼称する!」
方位3−5−4に居た目標が大きく移動し、方位0−3−4に居る事で発令所に緊張が走った。
アクラ級原子力潜水艦が仕掛けてきたからだ。
すぐにでも魚雷を射ってくるのでは?
そう乗員達は考えたのだ。
「シエラ12、ハイドップラー、急速接近中です!速力18ノット!」
「1番、次に射つ!接近するシエラ12!」
「1番、発射用意よし!」
「艦長、魚雷です!シエラ12が魚雷発射!2本来ます!」
先手を取ろうとしたが、アンヴィルはまたしても先制攻撃を許してしまった。
「1,2番射出!航走中!」
カサートカの発令所内に水雷士の報告が響いた。
「目標に変化有り!目標に変化有り!的艦、面舵回頭、ハイドップラー上がる傾向!向かってきます!……的速変化有り!加速中です!」
「来るか……っ!」
予想に反して、ロサンゼルス級原子力潜水艦が向かってくるので、カサートカの艦長は思わず口角を上げた。
「水雷、魚雷の起動距離を修正しろ」
「了解!」
目標のロサンゼルス級原子力潜水艦が魚雷の起動範囲よりも内側に飛び込み、魚雷を回避すると考えたのだ。
「艦長!的艦、魚雷を発射しました!」
「修正待て!……本数は!?」
だが、当初の予想通りに魚雷を応射してきたので艦長は慌てて指示を取り消した。
「1本です!1本だけ射って来ました!……的艦面舵回頭を継続中、ロードップラー下がる傾向」
「定針したらすぐに報せろ!」
「了解!」
コチラに向かって来るのかと思えば、面舵回頭を続け、南の方へ針路を変えつつ有ると聞き、カサートカの艦長は判断に窮した。
魚雷の予想針路を変更する必要があるが、相手艦が出鱈目な動きをするので、予想進路が定まらないのだ。
「的艦、元の針路に戻り……。いえ、未だに回頭中!的艦2周目の面舵回頭を開始しました!」
ロサンゼルス級原子力潜水艦がほぼ西進している予想で魚雷を発射したが、こうも変な動きをされては予想進路が定まらない。
「……ロサンゼルス級の居る位置に魚雷を向かわせろ!」
「了解!」
艦長は有線誘導の魚雷を目標のロサンゼルス級原子力潜水艦の居る位置へと向かわせた。
こうするしか無かった。
予想進路が絞れない以上、相手が旋回する位置に射ち込むしか無かった。




