武器庫での騒ぎ
「此処は無事だな」
武器庫に入った兵士達は剣や槍が並んだ棚を通り抜け、武器庫奥の鉄で補強された扉に走った。
「全部運び出すぞ」
『爆薬庫』と書かれた重い扉を開けると、中には赤と緑色の木箱が幾つも並んでいた。
「昇降機を用意しろ」
壁際の床に設置された1メートル四方の扉を開け、天井に設置されたレールに吊り下がっている滑車を用意し始めた。
「準備良いか!?」
下に向かって叫ぶと、下から返事が有った。
「準備できてます!何時でもどうぞ!
床に空けられた穴の遙か下。50メートル下には荷馬車が用意されていた。
「緑のウランからだ、慎重に扱え」
丁寧に緑色の木箱にロープを掛け、滑車のフックに引っ掛けると兵士達は穴の上にまで滑車を動かし、ゆっくりと下に降ろし始めた。
「部族長に連絡。“武器庫には火が回っていない。ウランと爆薬の搬出作業開始した”」
「了解」
「父さん!」
神祗官は部族長と話していた先代神祗官だった自分の父親、ヤツェク長老を探し出し駆け寄った。
「マイヤーも、聞いてくれ。……神聖王国の外交官達が消えた。この騒ぎは破壊工作じゃないか?」
周囲の目を気にしつつ、神祗官が2人に話し掛けたが、2人は落ち着いた様子で聞いていた。
「どうも、そうらしいな。北街の城塞から連絡が有った、北街の付近に神聖王国の兵士が現れたそうだ。それも、5万人規模だそうだ」
「5万!?」
神祗官は驚いて、2人を交互に見た。
「どうなってる?5万だなんて、街道を移動したら途中の砦に見つかるだろ!?北の湿地を越えてきたのか?」
「転移魔法のようじゃ。急に北街の外に現れ攻撃してきたとな、北街の城塞が対応に当っているが芳しくない」
ヤツェク長老は吐き捨てるように言い放った。
人間との開戦回避の交渉は最悪の形で終わった。奇襲を受ける形でいきなり攻め込まれ、魔王城内にも火の手が上がった。
「錨地に居る海軍に、北街を攻める敵兵を砲撃するように指示を出した。それと、城内に詰めている騎士団や各部族の兵士も派遣した持ち堪えれるはずだ」
「部族長!伝令です。“武器庫には火が回っていない。ウランと爆薬の搬出作業開始した”以上です」
伝令から報告を受けたマイヤー部族長は少し考えた。
「作業を急がせろ、北街に敵が攻めて来ている」
「……了解」
「良いぞ、降ろせ」
爆薬の揚げ降ろしに使う昇降機を兵士達が5人掛かりでロープを操り、下に降ろし続けていた。
「揚げろー!」
下の荷馬車に爆薬が入った木箱が積まれると、速やかにフックが外され、上の兵士達が大急ぎで引き揚げる。既にウラン鉱石が入った箱2箱と爆薬8箱を降ろしていた。
「手を上げろ!」
隊長が、下から巻き上がってきたフックを手に取ろうとしたら、後ろから叫び越えが聞こえた。
「なっ!?」
振り返ると、爆薬庫の外に銃剣を着けた小銃を構えた兵士達が中に居る兵士達に銃口を向けていた。彼等は特徴的な円錐状のヘルメットに緑色の戦闘服姿で、人狼の兵士達の鎧姿とは違った。
「手を上げろ!早く!」
再び、小銃を構えた兵士が叫んだが、手を上げたら滑車が下に落ちるので人狼の兵士達は躊躇した。
「判んないのか?下に落ちるだろ?」
隊長が反論すると、銃を構えた兵士は隣の兵士と何か話し始めた。
「隊長、こいつら」
「ああ……」
話している言葉から、神聖王国の兵士達だと判ったが、何処から来たのか……。此処は魔王城内でも警備が厳しい、兵士達が詰めている北側の区域だった。
「ロープ結べ」
「固定しろ」
神聖王国の兵士に片言の言葉で指示され、隊長は部下にロープを固定するように指示した。
「誰だ!?」
「Halt! Kapitulieren!」
外から伝令に出していた兵士と、神聖王国の兵士が言い争っている声が聞こえてきた。
「槍を降ろせ!早くしろ!」
「Hände hoch! Hände hoch!」
「マズイ」
銃剣を着けた小銃を槍だと勘違いした伝令が神聖王国の兵士と言い争いを始めたのだ。
「降ろせ!」
伝令の叫び声の後に銃声が聞こえ、神聖王国の兵士達が外で言い争っているのが聴こえてきた。
「撃ちやがった……」
外で仲間が発砲したので、弾薬庫に入ってきた神聖王国の兵士達にも動揺が広がり、何人か外の様子を知ろうと扉の方を振り向いた。
「野郎っ!」
人狼の兵士3人がその隙を突き、兵士に飛び掛かった。対する神聖王国の兵士は4人。
「Nein!」
1人は懐に飛び掛かった人狼の兵士に短剣で胸を刺され、絶命したが、他の3人は飛び掛かってきた事に気づき、銃口を向けてきた。
「くそ、伏せろ!」
飛び掛からなかった隊長と、他の兵士6人は大慌てで物陰に飛び込んだ。
直ぐに銃声が響き、弾薬庫の壁や天井に銃弾が跳弾する音と、飛び掛かった人狼の兵士の誰かが撃たれ倒れる音が聞こえてきた。
「アレを渡す訳には行かない……」
まだ2箱、緑色の箱が残っており、それを神聖王国の人間に知られる訳には行かなかった。
「隊長、アイツら前装式ライフルです」
一発撃った後に、慌ただしく紙薬莢を取り出し銃口に詰めてから槊杖を差し込むのを部下の1人が目撃した。
「……お前らは逃げろ。俺は爆薬に火を付ける」