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論争

「正門にコヴァルスキ大尉目当ての群衆が集まっています。どう致しますか?」


 部下の報告を聞いた軍司令官のコヴァルスキ大将は苛々しているのか机の端を人差し指で叩いていた。

 アルターと対峙している師団を束ねる軍司令官としての立場上、息子のハイムが勝手に行った行動を見逃す事は出来なかった。特に、命令も無いのに攻撃に転じたのは見逃せなかった。軍紀を保つためにも軍法会議に掛けたい所だったが。


「コヴァルスキ大尉を営倉に入れて、軍法会議の手続きを続けろ」


 世論の反発は必至だが、コヴァルスキ大将は息子を軍法会議に掛け、早々に処分を下す。自身の立場も悪くなるが、息子だからと甘やかすつもりはなかった。


『大将、コヴァルスカ大佐が……!ちょっと、待って勝手に入ったら』


 隣の部屋に詰めていた副官から内線で娘のドミニカが来たことを告げられたが、副官の静止を無視してドミニカがコヴァルスキ大将の執務室に入って来た。


「席を外してくれ」


 部下達を下げさせ、コヴァルスキ大将は娘のドミニカを一瞥した。


 士官なので、ドミニカが軍刀を携えているのは不自然では無いが、拳銃も携えていたのでコヴァルスキ大将は撃鉄の状態を確認した。撃鉄は起きていないので、急に撃たれる事はないが、大将は警戒していた。





「でもさ、ピザが問題になるとは思わないでしょ?師団長もアメリカ人だったし。なのに師団長と彼のお爺さまに怒られる訳?」

 ショーンとジェームズは大通りを歩き続け、陸軍病院が見えてきたが、今度はピザの事で言い合いをしていた。


 アルトゥルの家で行ったホームパーティーでジェームズが持ち込んだピザが2人には不評だった事をジェームズが不満そうに話していた。

 わざわざジェームズがニューレキシントンの自宅で焼いた物だった。アルトゥルの兄弟姉妹と両親には好評だったのが余計に釈然としなかった。


「いやさ。ピザって言うけどさ。マジでホントにぶっ厚いシカゴ風ピザだったじゃん。溶けたチーズの塊みたいな」

「だから何よ?」


 ジェームズは当然のように話しているが、ジェームズが作ったのは深皿みたいな形状のパンに大量のチーズとトマトソースを敷き詰めて焼いたシカゴ風のピザだった。

 まるで洪水のように溶けたチーズが切ったパン生地から溢れ出ている様子をショーンも覚えていたが、アメリカ風のピザの中でも特に異質なシカゴ風ピザなのだから文句を言われてもしょうが無いように思えた。


「基地とかにシカゴ風ピザを出す店なんか有ったか?無いだろ?」

「無いけど、ピザはピザでしょ」

「あのねえ」


 大通りの交差点を渡り、2人は陸軍病院のエントランスに入ったがまだ言い争っていた。


「名前こそピザだけど、全然別物でしょ。そこは認めなよ」

「何でよ!?ピザの一部でしょ?」

「いや、ピザのセンターラインから大きく外れてるでしょ?」

「そんな事無いって。てか、ピザのセンターラインって何よ?」

「薄くて、ペパロニ乗ってるヤツだよ。ほら、あんなヤツ」


 1階に外来用に置かれている緊急科を横目に見つつ、目的の診療科へ上がるエレベーターの前まで来たが、ショーンは救急科の医者が食べ歩いてる薄いピザを指差しさ。


「折り畳めば片手で食える。忙しい時にピッタリだろ?合理的な進化だ。それこそ食べ物版進化論だ」

「少なくともホームパーティーは忙しく無いでしょ。ちゃんとお皿に取り分けて食べるし。そういう意味ではイタリアのピザ寄りでしょ」

「通してくれ!急患だ!」


 頭を包帯でグルグル巻きにされた患者がストレッチャーで運ばれて来た。首から下はシーツを掛けられているが、付添って居る衛生兵が移植用の保冷バッグを両手に持っているので何が起きたのか、ショーンは理解した。


 前線で手足を切断した兵士が、手術室で再接合手術を受けるのだ。


 治癒魔法がある分、外科的手術のハードルはかなり下がっており、本人の体力が持つ限りは切断された手足の再接合手術は可能だった。

 だが、切断された体の一部がダメになっては接合不可能なのは変わらず。基本的には前線近くの野戦病院で接合するか、緊急時は陸軍病院まで後送する手筈になっていた。


「急患です、失礼」

 エレベーター待ちをしていた他の患者や医者達が端に退き、急患と衛生兵達は速やかにエレベーターに乗り込んだ。



「もう、ホットドッグやサンドイッチで良くない?」

「何が?」


 急にジェームズが話を再開したが、急すぎてショーンは思わず聞き返した。


「要は合理的なら良いんでしょ?だったら、ホットドッグやサンドイッチで十分な訳だし」

「おいおい、判ってないなあ。熱々のピザにはサラミとチーズが乗ってるだろ。アレこそアメリカン・ドリームだ」

「えー?」


 得意気にショーンが言い切ったがジェームズは方眉を上げた。


「それにホットドッグはドイツの食べ物だし」

「……アレはアメリカ文化でしょ?何処の球場に行ってもその球場名物のホットドッグが有るし、街角で売ってる物だし」

「ありゃ、ドイツ人の食い物だ。まだ、パイナップルが乗ったハワイアン・ピザの方がマシだ」

「んな極端な……」


 考えてみればショーンは1920年代生まれで、ジェームズは1940年代生まれ。20年は世代に開きがあるし、ショーンは田舎暮らしだったので何処か常識にズレが有るのはしょうがなかった。






「学校教育のあり方が議論されていますが、各候補者の方はどう考えていらっしゃいますでしょうか?まずはラスカー候補からどうぞ」


 ラジオ局の人気司会者が各候補者への質問を投げ掛けた。

 出席した候補者は同じ選挙区から出馬した3人の上院議員候補。デイブと同じく転生者のハスマン、そして転生者では無いが解散した部族会議で議員をしていたラスカーの3人だった。他に、観客が50人ばかり居ての公開収録だった。


 選挙区の定員は2つで、他にも18人程が立候補しているが、ラジオ局から呼ばれたにも関わらず出席してこなかった。選挙戦に不慣れなのと、ラジオの影響力が今一理解していない為、別の政治集会に出ていたのだ。


「現在は私塾や私立の学校が主に読み書き等を教えていますが、現状そのままでも問題は無いかと思います」


 最初に発言権を持つラスカー候補が持論を述べだした。


「学校教育は確かに重要ですが、子供を学校に通わせる余裕が無い家庭も多く有ります。無理して経済的負担を家庭に求めることは出来ないからです。私からは以上です」


 ラスカー候補が発言を終えると観客達が拍手をした。


 実際問題、筆記用具1つ。鉛筆や筆を見てみても近年の工業化で安価になりつつ有るが、子供の為に買い与えるには高価だと考える親も多く。それが紙や教科書となると尚更だった。


「では、ハスマン候補どうぞ」


「学校教育については、一定の年齢になった時点で一律に受けさせるべきです。現在の急激な近代化に着いて行かなければならないからです。読み書きが出来ないようでは、まともに働けない時代が来たのです。きちんと予算を組み国家として対応する必要がある問題だと思います。以上です」


 観客の拍手が起きたが、一部の観客が否定的なゆっくりとした拍手をした。


「では、タッカー候補」


 デイブの番が来たが、事前にロビイストと決めていた内容ではなく、自分なりの考えを話し始めた。


「学校教育の有り方については、公的な学校制度が共和国の近代化には必至です。必要最低限の教育を子供達が受ける権利が有ります」


 スタジオの端にロビイストが現れたが、「言ったれ言ったれ!」とジェスチャーで囃し立てていたので、デイブは楽な気持ちで話せていた。


「また、教育の機会に恵まれなかった人達にも教育を受けるチャンスを与えるべきです。公立、もしくは私立の学校で改めて教育を受けるべく門戸を開き、年齢に関係なく教育を受ける権利が全ての共和国民に有ります。私からは以上です」


 観客は拍手をしたが、ハスマン候補の時のように否定的な拍手をする観客がチラホラ居た。

 だが、ある程度は予想していた。異世界の制度を持ち込んでいきなり理解される筈はない。この後の自由討論で意見に丸め込む必要がある。


「では、自由討論といきます」


(・ω・`)コイツラ、ピザの事しか話してねえ……

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