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ボヤ騒ぎ

いきなり過去編です。前作を見て無くても問題無いように書いています。

「居た?」


 ファレスキと呼ばれる人狼の港町。そこの高台に鎮座する魔王城の中を頭頂部に狼の耳を生やし、スカートに空けられた穴から尻尾を生やした少女が忙しそうに歩き回っていた。

  彼女は、神殿に仕える巫女のエミリア。18部族も有る人狼種族を束ねる神祗官の娘の一人だった。


「居ない、寝室にも誰も……」

 魔王城に勤めている、同じく狼の耳と尻尾を持つ顔見知りの侍女の答えにエミリアは困り果てた。


「何処に行ったんだろう……」


 エミリアが捜していたのは、北に有る人間の国、神聖王国の外交官達だった。


 父親である神祗官に外交官達の接待役を任されていたが、今朝から外交官達の姿が見えないのだ。まだ、父親達には報告しておらず、同じ巫女や魔王城の侍女達と何処に行ったか捜していたのだが。


「ねえ、エミリア。やっぱり、神官の誰かに報告しよう。おかしいよ、今日になって急に姿を消すなんて」

 人間の外交官が魔王城に滞在して1週間経っていた。今までも貿易問題や、過去に有った魔王軍と人間達との戦争で奴隷になった人達の帰還交渉等で神聖王国を始め人間の国から外交官が来ることはあった。


 だが、今回の外交官達は今までの外交官達とは違い重要な相手だった。


 “神聖王国側が人狼の支配する地域への軍事侵攻を企てている”と、人狼寄りの人間の国、マルキ王国から伝えられ、開戦回避の為の交渉だった。

 その、外交官達が急に魔王城内から消えたのだ。退っ引きならない事態に、14歳のエミリアはどうして良いか判らず、仲間内で居場所を捜していた。


 エミリアが必死に考えを巡らせている間に、魔王城の時計台が午前7時55分を告げる鐘を1回撞いた

「お父様に知らせて来る、みんなは捜し続けて」




「10秒前!」

 当直員が叫ぶと笛を吹き、戦列艦の甲板に整列している船員たちは姿勢を正した。


「時間!」

 ラッパ員の演奏に合わせ、ファレスキ沖の投錨地で錨泊している戦列艦20隻とフリゲート艦10隻が一斉に人狼種族を象徴する旗を艦尾に上げた。


 彼等が敬礼をしながら旗揚げを見守っていると、遅れてファレスキの魔王城の時計台が午前8時を告げる鐘を撞く音が風に乗ってくる。


 やがて、「別れ」の合図がラッパで吹かれると乗員たちは慌ただしく動き始めた。


「提督、係留替え(シフト)作業を開始します」

 艦長の報告を受け、提督は船尾楼から海上模様と準備作業の様子を一通り確認した。


「風が強い、慎重に操艦しろ」

「了解」

 南風が強く、白波も立っていたので提督は艦長に注意を促した。



「おい、何だ?」

「城を見ろ!煙だ!」

 誰かが叫ぶと、甲板上で作業を始めようとしていた乗員達がざわめき始めた。


「艦長、魔王城から煙が上がりました!」

 メインマストの上部に居る見張員の報告を聞き、艦長を始め船尾楼に居た全員が艦尾側に移動した。


「火事か?」

 備え付けの大型の双眼鏡で航海科員が城を眺めたが、魔王城の北側から煙が上がっているのが確認できた。


「城の北側、武器庫付近です!」

 普段は火の気が無い場所だった。その為、提督と艦長は視線を合わせると、艦長は提督の近くによった。


「妙ですな。……防火隊を派出せずに様子を見ますかね?」

「そうだな」





「火事は武器庫の下か!?消火隊を派遣しろ!」

 魔王城内では城を管理するポーレ族の部族長が城内の兵士を指揮し消火作業の取り掛かっていた。


「下の通路は通れるか?」

「火は回っておりませんので行けます」

 見取り図を広げ、武器庫に通じる通路のどれに火が回っているか確認しつつ、部族長は指示を出した。


「よし、下の通路から運び出せ。無理そうだったら処分してくれ」

「了解」


 部族の兵士と魔術師達を見送ると、部族長は通路の角から頭を出し燃え盛る通路を見た。


「何が燃えてるんだ!?」

 必死に氷魔法を使い火勢を削ごうとしている兵士達に尋ねた。


「油のようです!」

「油だ!?」

 魔王城の照明は魔力に反応して光る“光石”を使っており、可燃性の油などそもそも貯えられてすらいなかった。




「お父様!」

「エミリア、何処に行っていたんだ?」

 城の大広間でようやく神祗官の父親を見付け、エミリアは慌ただしく駆け寄った。


「北の武器庫で火事が起きた。念の為、外交官達を魔王城前の広場まで避難させるぞ」

「そ、それが……」

 城内を掛けずり回っていたエミリアは息を整えてから外交官達の姿がない事を報告し始めた。


「今朝、7時頃に御食事を届けた時は居たのですが、7時半頃に部屋を訪ねたら何処にも姿がなくて」

「姿がない?城内を捜したのか?」


 父親の質問にエミリアは頭を縦に振った。


「下は侍女達と全て確認しました。ですが、何処にも居なくて」

「何処にも居ない……?まさか……」

 消える訳無いと思ったが、兵士達が「油が撒かれている」と話すのが聞こえ、更に今度は西の倉庫で火の手が上がったと聞き、神祗官は言葉を失った。


「エミリア、今すぐマリウシュを連れて城の地下へ行きなさい」

「え?どうして?」


 神祗官は一度口を開いたが口を閉じ、暫く考えてから周りに聞こえないように話し始めた。

「念の為だよ、地下に秘密のトンネルがある。カミンスキー家の農場に通じるな。みんなで後から向かうから、先に地下の書庫に向かいなさい」

「……はい」

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