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夢とか目標とか

作者: 生ハム

今年35歳になる。これまで生きてきてうまくいったことなどほとんどなかった。小中高は目立つこともなく少数の友人とそれなりの学生生活を送った。

大学受験に失敗し夢も目標も特になかった僕はフリーターになりこの歳までバイトをして食いつないできた。25歳を過ぎた頃に親に定職に就けと言われたが現在の生活に特に不満もなかったので無視をしていた。そのうち親は何も言ってこなくなったので見捨てられたんだろうと思った。中高の友人も卒業してから1年ほどは連絡をとっていたがそれも次第になくなった。バイト先と家とを往復するだけの毎日をつまらなく思いながらもどうせダメだからと言い訳をして何かするわけでもなかった。

そんなある日近くのコンビニに夜ご飯を買いに出た。なんとなく家に帰るのが嫌だった僕は公園を通って帰ることにした。公園に入って少し歩いたところで占いという文字に目が止まった。いかにもといった感じで白い髭に白髪のおじいさんが机一つでやっている占い屋だった。暇つぶしにはなるかと思い占ってもらうことにした。

「占ってほしいんですが」

「何を占ってほしいんだい」

特に占って欲しい事はないし困った僕は

「オススメとかあります」

と聞いてみた。おじいさんは少し驚いたが

「今まで来たお客さんは仕事の事だったり恋愛の事だったりが多かったなぁ」

と言った。仕事といってもバイトだし恋愛なんてした事もないしどうしたものかと思ったがとりあえず漠然と将来のことを占ってもらうことにした。そもそも占いなんて信じていない僕からしたら正直どっちでもよかったのだ。

おじいさんは本を取り出し生年月日やらなんやらを聞いてきた。そして近いうちに運命の人が現れると言ってきた。僕は定番のやつだと思いながらほとんど聞き流してお金を払い家に帰った。

1週間後バイト先に新しいバイトの子が入った。その子は21歳で大学生の子だった。バイト歴も長かった僕は教育係になった。可愛い子だなとは思ったがそれ以上の感情はなかった。教育係として関わっていくうちにわかったかとは彼女は美大に通っており将来は画家になるのが夢だという事だった。それから2ヶ月が過ぎた頃だろうか彼女ともそれなりに会話をするようになっていたそんなある時突然彼女は「モデルになってくれませんか?」と言ってきた。僕は驚いて少し固まってしまったが彼女の夢のことも知っていたので了承した。モデルと言っても僕は言われた通りポーズをとって動かずにいるだけで特に何が起こるわけでもなくモデルを終えた。それからというもの彼女とは親しくなり、彼女の描いた絵も良く見せてもらうようになった。彼女の絵はとても美しくモデルが僕なのか疑わしく思えるほどだった。僕はいつしか本気で夢を追う彼女のファンになっており彼女の夢を本気で応援するようになっていた。それと同時に夢も目標もない自分自身に嫌気がさしていた。そんな中彼女の絵を見ることが唯一の楽しみになっており彼女と同じシフトの日が楽しみになっていた。

来週の水曜日また彼女と同じシフトになった。月曜も火曜も僕はシフトに入っていた。そして水曜日。その日の午後から彼女はシフトに入っていた。しかしその時間になっても彼女は来なかった。今までサボったことなど一度もなかった彼女がその日は無断で来なかったのだ。少し心配だったが連絡先も交換しておらず安否を知るすべがなかった。次の日バイトに行って僕は知った。つい先日まで笑顔で僕に絵を見せてはくれていた彼女はもうこの世にはいないという事を…

昨日バイト先に来る途中スマホをしながら運転していた車にはねられたらしくそのまま救急車で運ばれたが息を引き取ったらしい…

僕は数日間何も考えられずバイトも休ませてもらった。

夢を持って本気で頑張ってた子が死んでなんで夢も目標もなくなんとなく生きてるような僕が生き残ってるんだ…

神は残酷だ生きたい人間を殺して生きたくない人間を生かす。人生を消費している人間を殺して浪費してる人間を生かす。数日間こんな事を考えていた。しかしずっとバイトを休む事は出来ないので仕方なくまたバイト生活に戻った。バイトに戻って数日それでも心に穴は空いたままだった。彼女の両親がロッカーの荷物を取りに来た時ひとつのファイルを見つけた。そこには彼女の絵の写真がファイリングしてあった。それを見つけた僕はある事を思った。(彼女の絵をもっと多くの人に知ってもらいたい)

そうする事で彼女の夢を叶えられるのではないかとも思った僕は彼女の両親に話して個展を開こうと提案した。彼女の両親達は快く了承してくれた。しかし個展を開いたことなどもちろんなかった僕はネットで色々調べてみることにした。幸い趣味もなかった僕は貯金があったので金銭面はどうにかなりそうだった。それからの毎日は忙しかった。会場を抑えて、チラシを作って、SNSでも呼びかけを行った。初めてのことばかりでとても疲れたが彼女のためと思い頑張れた。

いよいよ初日。これから1週間行う。人が入るかそれだけが気がかりだった。しかしそこからの1週間は奇跡のようだった。初日からそこそこの人が来てくれてそこからSNSで拡散され次の日また次の日とひにひに人が増えていき最終日には長い行列ができるほどになっていた。彼女の両親はとても喜んでくれて僕自身もとても嬉しかった。

1週間を終えて僕は彼女の夢を叶えられたのか?そんな事を思いながら後片付けをしていた。この数ヶ月目標を持っていたこの数ヶ月はとても大変だったがそれが達成された。僕はまた目標を失いいつもの生活に戻ろうかと思ったが誰かの為に生きる人生も悪くないと思えた。バイト生活に戻らず新たな道を探す事にした、自己満足と言われようと誰かを応援できる生活にするために。

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