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第四話 まずは状況を把握することにしました

 

 ひとまず記憶喪失だと両親や王子達を納得させた後、私が始めたことは1つ。

 情報収集だ。


 イザベルはどんな少女だったのか。

 何故謀殺の危機に遭ったのか。

 ここはどのような世界なのか。

 イザベルの両親はどんな人物なのか。

 婚約者のアラン王子は何者なのか。

 元の世界へ戻る手段はあるのか。


 調べることは山のようにある。


 幸い「記憶を思い出す手がかりになるかもしれないから」と言えば、昔のアルバムや文献をいくらでも借りることができた。


 一か月ほどそれらを読み漁り、屋敷内の人々と交流を深めたことで、だいぶ状況が掴めてきた。


 まず、私自身、イザベル・ベルナルドのこと。


 年齢は14歳。ディアモン王国公爵のエドワード・ベルナルド、アナスタシア・ベルナルドとの間に生まれた長女。

 身体が弱いアナスタシアを気遣い、子どもは私1人だけと決めているそうだ。

 ちなみに、エドワードは38歳、アナスタシアはなんと30歳だ。

 まさか自分より年下の母親ができるとは思わなかった。

 調べるまでふんわりとしか知らなかったんだけど、公爵ってのは貴族の中で最も身分が高い位らしい。

 高貴な家柄に生まれた一人娘として、幼い頃から蝶よ花よと育てられたイザベルは、大層おしとやかで可憐な性格だったそうだ。

 現に、メイドさんや執事さん、庭師さんなど、この屋敷に勤める人々はみな口をそろえて「イザベル様はお嬢様の中のお嬢様でした」と褒めそやしていた。


 女性らしく、気品があり、教養にあふれた未来のレディ。

 私が生まれ変わったのは、どうやらそんなハイスペック美少女だったらしい。


 ちなみに、中身が別人だと気付かれないためにも、形だけでもおしとやかな令嬢として振る舞おうかと最初は考えた。

 考えただけではなく、ちょろっと実行にもうつしてみた。


 転生してから二週間ほどが経ったある朝、いつものようにハンナが寝室まで起こしにやってきた。


「イザベル様、朝食のお時間です」

「有り難う、ハンナ。目覚めの一杯にお紅茶を頂いてもよろしいかしら?」

「・・・はい!かしこまりました!」


 なんだ今の間は。

 自分的に最大限高貴な微笑みを浮かべて声をかけたつもりなのに、ものすごく何とも言えない空気が流れたぞ。


 朝食後、情報収集のために屋敷内を探索していると、曲がり角からハンナと誰かの話し声が聞こえてきた。


「今朝からイザベル様のご様子がいつもと違って・・・」

「そんなの記憶を失われてからは毎日のことじゃないですか」

「違うの、いつも通り変なら気にしないんだけど、なんだかご令嬢のモノマネをしはじめたみたいで」

「モノマネ?」

「急に言葉づかいが極端に丁寧になったり、ぎこちない微笑みを浮かべたり、反応に困ってしまって・・・」

「それは・・・昔の完璧な立ち居振る舞いを見ているだけにね・・・」

「イザベル様なりに元に戻ろうと努力なさってるんだろうけど、自己流で変な言動するぐらいならそのままでいてくれた方が・・・」


 オーケー、ありのままに生きてやるわ。

 後悔しても知らないからね。

 二人に見つからないよう壁に張り付きながら、私は固く決心した。


 そんなわけで、今はほとんど取り繕うことなく素の自分で過ごしている。

 たまにお母様(かつてイザベルはそう呼んでいたらしい)に「淑女らしくない」とたしなめられることはあるけど、基本的には自由だ。


 イザベルのプロフィールをあらかた把握した私は、イザベルが毒を盛られた経緯とその理由を調べることにした。

 それにはまず、この世界の仕組みと情勢について理解する必要があった。


 先ほど言ったように、イザベルはディアモン王国の公爵家だ。

 しかし、ディアモン王国という名称は通称であり、正確には独立した国家ではなく、その主権は金の国という共和国にある。


 金の国とは、エムロード王国、サフィール王国、ディアモン王国、ペルル王国の四つの島国が合わさって出来た共和国だ。

 もともとはそれぞれ独立した国家だったが、百年前に勃発した世界大戦下で同盟を結び、他の大国に負けない発言力を得るために一つの国となることを決めたそうだ。


 とはいえ、力関係は平等ではなく、最も大きな島国であるエムロード王国が代表国として主権を持ち、政策の主導権や対外的な行事の出席権を保有している。

 四つの国々は、それぞれの王族が各自のやり方で自国を治めつつ、金の国全体に関わる議題のみ全体で議決するという形式だ。

 実際、同じ国とはいえどそれぞれの島国によって文化や風土はかなり異なる。


 イメージとしては、江戸時代の幕府と藩の関係に近いものだと思う。

 エムロード王国が幕府で、他の三国が藩。

 各藩は幕府に従っているけれど、領土の自治権は各藩にある。


 だいぶ変わった統治方法に思えるけど、戦後百年経った今でもそれなりにうまく回っているらしい。


 その理由の一つが、王国を跨いだ王族や貴族同士の政略結婚だ。


 イザベルの父エドワードはディアモン王国の公爵、つまり王族の次に偉い貴族だ。

 さらに、ディアモン王国は四つの国々の中でエムロード、サフィールに次いで三番目の地位にある。

 エドワードは卓越した外交力を駆使し、娘のイザベルとエムロード王国のアラン王子との婚約を成立させた。


 アラン王子は、エムロード王国の第一皇子、金の国の王位第一継承者だ。

 両家の結婚が成立し、アラン王子とイザベルとの間に生まれた子どもはほぼ間違いなく次の次の金の国の王になる。

 ディアモン王国の発言力は格段に上がるだろう。


 そのことをよく思わない存在は誰か。

 そう、金の国で二番目に強い発言権を持つ国、サフィール王国である。


 というわけで、ようやく「なぜイザベルが毒殺されかけたのか?」という疑問の答えが出る。


 まだ犯人は判明していないが、十中八九、アラン王子とイザベルの婚約を潰し、自国の地位を守ろうとしたサフィール王国の仕業だろうとの見解だ。


 話のスケールが大きすぎて一般ピーポーの私にはあまり実感の湧かない話だ。

 一つ確実なのは、イザベルとアラン王子の婚約が続く以上、私は命を狙われる可能性があるということだ。

 まったく、これだから高貴な家柄の方々は・・・・



 ああ、一つ忘れてた。


 元の世界に戻る方法だけど、ありませんでした。


 元に戻れる方法は、さっぱり見つかりませんでした。

(大事なことなので二回言いました)



 あらゆる書物を漁ってみたけど、そんな前例は過去には無かったし、手がかりになりそうな話さえナッシング。

 使用人の方々に聞いたら、「王室の書庫にならあるいは・・・」ってことらしいけど、毒殺されかけたばかりの令嬢が外出なんて出来る訳もなく。


 ということで、当面はイザベル・ベルナルドとして生きていくことになりそうです。


 チクショウ!!!!!!!!!

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