第6話 順調裁判
途中で一回、本文が全部消えて飛び立とうかと思った
そんな苦労の末に載ったのだから読んで下さい
あ、宣伝とかしてくれたら飴あげます
王都行きの列車の中
そう、列車があるのだ。
前の世界を知っていれば猶更、不思議に見える
文明の偏重的な発達
意図的に仕組まれたかのような
あらゆる技術の樹形図は戦闘行為から離れた部分だけ伸びていた
この列車もそうだ、戦闘に使われない。まぁそもそも戦闘がないわけだが
都市部のゆっくり確実に安全な線路が引ける都会にしか無い
故にダイヤも少なく金持ちしか乗れないが
私は金持ちなので問題ない。なんたって侯爵ですからね!
快適な旅になるかと思いきや
アルベルト公と無言の牽制を交わし合う事1時間半
空気は居心地の悪い沈黙に満たされている
控えめに言っても険悪で張りつめている
剣の達人同士が間合いを見極めあっているかのような張り詰めた空気
先に斬りかかったのは髭面の老人
「ふぅむ、こういった駆け引きはどうも苦手で、率直にお聞きしたい」
「私に答えられる事でしたらなんでもお答えしますよ」
ニコりと威嚇、笑顔というのは武器だ
それも使い方次第では凶悪な
あぁ、当然だが答えると言っても真実かは別だ
「フィリップ卿、あなたは一体、何を考えている?」
本当に苦手なヤツがそんな迂遠な聞き方するかよ
このジジィ・・・
「質問で返すようですが、何について、ですか?」
広範囲の質問はわかりやすい釣りだ
駆け引きが苦手なヤツってのはこういうトコでボロが出る
「今回の件ですよ、エイヴァロン卿は、この様な暴挙に出る様な人物ではないのはよく知っている。何者かに仕組まれたと、考えているが」
つまり遠回しにお前何したの、と聞きたいわけだ
「しかし、ここまでの事をしておきながら手がかりすら掴ませずに、私とエイヴァロン卿、そのどちらも誘導できる人物、となると、難しいのでは?」
ちゃっかり自分も被害者に組み込む図々しさ
疑われていようと確たる証拠は全て残していないし
そして究極の一撃を持っている。という自信による堂々とした振る舞いは
怪しさを払う
その一撃は王様の前までとっておこう
「だが!エイヴァロン卿には理由が無い!
それに、貴卿の行動の早さも疑問なのだ!」
ここが馬車の中で無ければ犯罪ですよ、お爺ちゃん
「今の言葉は聞かなかった事にしますが、場所が場所なら侮辱罪モノです、以後気をつけて下さい」
なるほど、確かに駆け引きは苦手な様だ
「もっ、申し訳ない、しかしこの件、全てが貴卿ならば可能なのだ、証拠を消す事も、あの街を燃やす事も・・・!貴卿ならば・・・」
この老人、使えるかもしれんな、敵として
「言いたい事はわかりました、大臣達の中にも私を疑っている者はいるのでしょう?
しかし、全て王の御前にて払拭致します
誓って、私はそのような事はしておりませんよ」
「大臣の中には、すでに其方を黒幕と判断して動いている者もいる、気をつけてな」
随分心を開いてくれたのね。だがいらん世話だ
すでに勝負は付いている
喧嘩を見た事もした事もない連中とでは
こちらも素人とはいえ負ける気がしない
脳の出来が違うのだ、具体的に言えば害意の用法、用量をこちらは熟知しているのだから
「肝に銘じておきます、ありがとうございます」
そろそろ王都に着くはずだが
何しろ居心地が悪い
ちなみに最後に乗り換える前までは寝台、個室付きだったからほとんど顔を合わせなくてよかった
くそ、全車両個室にしてくれ
それは言い過ぎか
「貴卿を」
何か言いかける老人
しかし列車の警笛に掻き消された
まぁ、会話を続けるのも苦だったし良いか
「着きましたね、王都は幼い頃以来です」
つまり実質初めてだ
「うむ、迎えの馬車が来ているはずだが」
「あそこにいますね、おっと失礼、少々お手洗いに行って参ります」
さてさて、アルベルト公は気付いていなかったが、俺の忠実なる奴隷共が15人着いて来てるんですよね
訓練も施した、戦利品の男達を殺させて、しっかり言う事も聞く、それでいて住民登録をしていないので存在しないはずの人間達だ
便利使いがいるだけで随分違う
「予定通り、リストの載っている物を購入後、すぐに帰れ、無いとは思うが大臣連中に悟られる事は避けろ」
それぞれ了解のサインを出す
良しよし、これでこっちは安心だな
「お待たせしました!行きましょう」
馬車の中から外を眺める。どこを切り取っても絵になる美しい街並み
活気のある人々と商店、露天商
どこを見ても金のにおいがしやがるぜ
とフィリップは羨望のまなざしを浮かべる
「着きましたぞ」
はっ!物思いに耽りすぎて周りが見えていなかった!
「こちらへどうぞ、お荷物の方、お預かり致します」
通りすがる度に色んな人達がこっちをみてヒソヒソしてくる、向こうの世界で外に出たいと思わなくなった理由の1つがこれだ
向こうの世界のそれとは意味が違うのだろうけど
心地良くはない
あれが、と今回の、それに首謀者
と3つの単語が聞こえたが
なんのことだろう?さっぱりわからないや!
ととぼけることで自分を誤魔化しながらも歩く
「お部屋はこちらになります外出は自由ですが、15時から謁見になりますので、それまでには全ての準備を終えてこちらで待機していて下さい」
適当に返事をして扉を閉める
「ぐぁぁああぁぁぁあ・・・・・・」
と、絞り出した声とともに伸びをすると同時に
「どうしたんですか急に!?」
本当に驚く、誰もいないはずの後ろから声がすれば誰だって驚くだろう
「急にはそっちだ!」
ゲス神様のお出まし
「あぁ、失礼致しました」
「なぁ、消えてる間ってずっと俺に着いてきてんの?」
「神様はそんなに暇じゃありません!」
腹が立つので拳を出してみる。前の世界とは違う
筋肉質、高身長、一応護身術を少し学んだ肉体の放つ
しっかりとした「パンチ」を。だが相変わらず殴れない
同じ極どうしの磁石を押し付け合ってるみたいなこの感じ、気っ色悪い
「あぁ、そう、そんで?なんの用?」
「私のプライベート空間に招待しようかな、と」
あの時の山賊じゃないけど
意味がわからねぇよ!
「なんで急に?てか、そんなに時間無いぞ」
「あ、こちらの時間の外側なので大丈夫ですよ!」
都合がよすぎる!!だがダメだ
「長旅で疲れてんだよ、ギリギリまでゆっくりしたい」
「・・・わかりました、では謁見の後でしたらよろしいですか?」
「時間あったらね」
なんせ今から王の前で演説を垂れなきゃならん
「はい、わかりました、では、私はこれで」
消えたか、何も今でなくてもいいだろう
・・・少し違和感がした、が
ま、いっか!風呂入ろ!
それが彼の欠点、思考を容易く手放してしまう点だ
ダラダラしていると時間はあっという間に過ぎた
あぁ、もう時間だ・・・
静かな部屋にノックが3回響く
あ・い・し・・・
あと2回早く鳴らせよ、と考える間にドアが開いた
「あぁ、いらっしゃいましたか、お時間ですので
こちらへどうぞ」
黙って頷き着いて行く
玉座の間の前、重厚な扉がゆっくりと開く
毅然と玉座の前まで歩き跪く
「フィリップ・ド・エルディン侯爵、要件は分かっておろう」
「はっ、存じております」
ハキハキと、堂々と
だって負い目なんて無いし!僕悪くないよ!
と、本気で思い込み話し始める
「これより神の名に誓い、真実のみを口にする事を誓うか?」
「我らが唯一の神ミヒロ・ストラの名に誓い誠実に、真実のみを申し上げます」
あ、そういえばゲス神様の名前聞いてなかったな
あいつがミヒロなのか?
「よろしい、エドムンド・デ・エイヴァロン侯爵殺害の件、其の方からはエイヴァロン侯の乱心との報告が上がっておる、そしてそれを証明可能な文書を持参するとの報告もだ」
「こちらに御座います、ご覧下さい」
たかが紙っぺら一枚、だが俺の保身用の一撃!
これで俺の全てが許される!
内容はエイヴァロンの字そのもので
領地への侵攻計画
それと領主の殺害を箇条書きで淡々と書いてある
フィリップ以外にも、3個ほどの領地とその領主の名が連ねてある
という内容
どうやって作ったかって言うと、館の書斎からパクって来た本人の手紙、この中から必要な文字を新しい紙の上に重ねて細くて硬い棒でなぞる
新しい方の紙に跡が付くので跡に沿って丁寧に墨を付ければ、完成だ
文体や癖は箇条書きだからなんとか誤魔化せた、と思う
1800年代中頃の科学力ならまずバレない
とは思うが・・・どうだろう・・・
と不安になる、もう口から離れた嘘だ、どうすることもできない
どうすることもできない領域で行われる自身の処遇の話し合いとは
前の世界でも学生時代度々あったことだが、どうしても慣れない
王の目付きが変わる
そして同じく読んだ大臣達の目も変わる
ザワつき始める場内、鑑識のような出で立ちの人間が文字を一つ一つ調べていく
バレた?バレたの?
フィリちゃんピンチ?
早くなんとか言えよクソがぁ・・・
といつも通りの思考をする余裕はまだあるようだ
「エイヴァロン侯の乱心であると、立証を認めよう」
大臣達がもっとザワつく
しかしもう恐れない!だって王様が言ったもん!認めるって!
「王の御前である!静粛に!」
「其方は、己の正義をここに示し、認められた。そして戦乱の芽を刈り取った褒美を取らせよう、望むものはあるか、遠慮はいらぬ」
「よろしければ、エイヴァロン侯の領地を、賜りたいと」
「統治の手は足りるか?」
「信頼できる部下に恵まれておりますれば、可能と判断致しました」
「では、任せよう、しかし力不足と判断されればすぐに分割し他の者に移譲する、良いな?」
「はい!お任せ下さい!」
計画通り・・・!
「では、審議はこれで終了とする」
こんなあっさりしていて良いのだろうか、手続きや鑑識、もっとしっかりした方が良いのではないか
と疑念を持つよりも前に思い返す
ここは、そういう、世界なのだ
犯罪は少なく、この様な手間をかける悪意が、彼らには足りない
その場しのぎで何かしても所詮はその場しのぎ、容易く見破る事もできれば
犯人の方から自首する
ここは、そういう、世界なのだ
そして、容易く合法の側に入り込んだフィリップの胸中は
っぶはぁぁぁぁぁ!!!
終わったぁぁぁぁぁぁ!!
勝った!勝ったぞぉ!
イィィィィヤッホォォオォォウ!!!
わっしょいわっしょい!!
と、安堵と初めて人に認められる喜びでお祭り騒ぎである
「失礼します、よろしいでしょうか」
「・・・入りたまえ」
「王よりの言伝でして、王城の出入りを許す、しばしゆっくりしていけ、と」
「承りました、ではお言葉に甘えさせて頂きましょう」
「かしこまりました、晩餐は如何されますか?
18時からで御座いますが」
「頂きます」
「かしこまりました、では、ごゆっくり」
・・・よし出て行ったな
ヒャッホォォォイ!!
彼の脳内フェスティバルは続く
神様の名前は、イラン、及びインド神話のミスラ、ミトラ、ミフル、ミイロ。をミキサーにかけて俺好みに盛り付けました
全部違う言語の同じ神様です
中二病とか言わないでください、否定できないんで
あとこれから王都での生活がちょっとあります