03
俺達が王都を発ってから二カ月が経過した。
最初の道程は順調で、商隊の護衛を受けて街から街へと移動をして行った。
王都を発ってから一か月程度は問題などなく、無事に王都の衛星都市の一つへと到着することができた。
問題はここからであった。
衛星都市から地方の都市へと向かう商隊の数はグッと減る。
ギルドの依頼票に地方へ向かう商隊の護衛依頼は貼られていない。
ギルドスタッフに聞いてみると、返ってきた返答は「地方へ向かう商隊の護衛は基本的には指名依頼が多いですね」とのことだった。
獅子のたてがみだけで向かうのは道中の安全や収入に大きく関わってくる。
商隊の護衛は魔物が来た時はそのまま素材を売ることが出来る。
食料が足りなくなった場合でも、余裕があれば割高にはなるが売ってもらえる。
夜間の見張りは辛いものだが、それはパーティー単独で動くよりもずっと楽だ。
だが、その依頼がない。
「いつまでここにいればいいのよ!」
王都の衛星都市デウィスリに滞在してから既に一か月。
癇癪を起したのはやはりマリーだった。
デウィスリの冒険者ギルドには辺境所属の冒険者たちもいた。
少し考えれば分かったことだが、地方都市に向かう商隊の護衛は彼らが指名されているのだ。
信頼も、実績もある冒険者に頼む方が安全を買える。
そして、辺境の冒険者は王都を筆頭にした中央の冒険者のことを軽視、いや蔑視すらしている。
王都で有名なクラン、守護の剣のクランマスターは辺境出身の冒険者で名をヴァルバと言う。
セドリックが出場した剣術大会では見事一位に輝いた彼は王都では数え切れないほどのファンを持つほどの人気だ。
そんなヴァルバだが、辺境では彼の事を『逃亡者のヴァルバ』と呼ばれているようだ。
そして彼の築いたクランは【『王都だけ』守護する剣】と辺境の冒険者に揶揄されていた。
マリーの癇癪はこれも多分に影響しているだろう。なにせマリーはヴァルバのファンクラブ会員なのだから。
「とりあえず落ちつけって。……とはいえこんなところで足止め喰らうとはなあ……」
「デウィスリから地方都市に向かう商隊は少ないのは田舎だからよ!!」
「そりゃ王都と比べれば田舎なのは間違いないだろうが……」
セドリックが言っているのは護衛依頼の少なさのことだ。
少ないとは言え地方都市からこのデウィスリに来る商隊は必ずある。
だというのに、その依頼は一つとして無い。
商人なのだから荷物を仕入れて必要としてるところで高く売るのが普通だ。
そして冒険者は街から街への移動には護衛依頼を受けることが大半である。
しかしながら中央から辺境側へ行く冒険者の数はもともとの数が少ないし、辺境から中央へ行く冒険者も少ないようだ。
なのに依頼が少ない、ということは辺境の冒険者は往復で護衛依頼を受けているということになる。
指名依頼と言っているが、もともとそう言う依頼なのだろう。
誰も文句を言わないのは辺境に興味を持っている中央の人間がほとんどいないからに他ならない。
「ここで足踏みしていても仕方がない、後一週間でギルドに護衛依頼が来なかったらそのまま向かおう」
「……レオン、それ本気?」
「ああ」
マリーの低い声に即答する。
睨むような視線を真正面から目を逸らさずに受け止める。
睨み合いにも近い視線の交錯は数秒だった。
先にマリーが溜め息をつきながら視線を逸らした。
いつのまにか張り詰めていた空気が弛緩したのを感じ取って知らずホッと息が漏れた。
「はあ……、分かったわよ。リーダーはあんた。あんたがパーティーの為になると思って決定したならそれに従うわ。でも、それは最終手段よ」
「んじゃまあ明日からは全員が護衛依頼の交渉に行っても仕方がないだろうし、依頼を受けて金を稼ぐチームと交渉するチームの二手に分かれようぜ」
「そしたら私は交渉チームに回りましょう。マリーは依頼を受ける方がいいですよね?」
「当たり前じゃない! 交渉なんて地味なこと私には出来るわけないじゃない」
「……仮にも、元貴族令嬢が何言ってんだよ。とは言え俺も交渉なんざ向いてないから依頼の方に回させて貰うぜ?」
「ああ、そっちは任せた。俺はセレーナさんと一緒に交渉にまわる」
セドリックが未だに怒りが燻っている様子のマリーを宥めながら無言で任せろとヒラヒラと手を振った。
そして期限ぎりぎりの六日目。
俺達はなんとか地方都市へ向かう商人の護衛依頼を見つけ出すことが出来た。