目覚めの刻
その時に知性と言う物が自分に存在したのかは分からない。
思うままに暴れ回り、破壊の限りを尽くし、行く所まで行き着いた。
ただ一度の敗北も無く、暴虐の使徒として悪逆と混沌を振りまく存在であった自分であったが故に、それ以上の力で高みから地へと叩き落とされたのだろう。
矮小なる身でありながら、その力はこちらと同等かそれ以上。
であるならば、こちらには足りない物を持っていた相手の方が上手であることは自明の理であった。
初めての敗北、それにより刻まれた鮮烈な記憶は頭に掛かっていた霧を振り払うのには丁度良かった。
思考が廻る。
なぜ負けた、と。
何も考えず、暴れ回っていただけでは勝てない。
力とは何か。
優れた体躯、群れの数、根源たる魔素。
それだけではないのだと知った。
こちらには『知性』という物が無かった。
奴らは群れているのではない。
統率され、率いられている。
無計画に暴れるのではなく、意図のある行動であった。
数に優れる相手には直接ぶつからず、力が叶わぬ相手なら複数人で対処する。
それはまるで一つの生き物であった。
矮小だと思っていた生き物は、それこそ矮小で間違いないのだろう。
個と言う生き物ではなく、全の一部に過ぎなかったのだから。
その頭となっている者。
それこそが相対した者であったのだろう。
力に優れ、知性に優れた存在。
なるほど、敵は自分よりも強大であったのだ。
負けたのにも納得がいく。
込み上げる感情はこの身を苛むが、それさえも心地良い。
ああ、今が自分と言う存在が目覚めた時なのだろう。
だが、今は受けた傷を癒す時である。
折角の目覚めだと言うのに、まどろみに身を任せるしかない。
ならば次に目覚めた時に知ればいい。
自分を下した『ヒト』という生き物を。